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3章「美しき水の世界」
91話「ようやく戦いが始まる!」
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モクモクと上がる煙。その中からはシルエットが浮かんでいる。そのおかげで体格を確認することはできた。
……もはや中身を知る必要は無い。体格だけでわかる。その大きさは大木のように。その立ち姿はまるで仁王のように。その威圧感はさながら獅子のように。
額から流れる汗。ヘキオンが最初に戦うのがこの人なのは運命を感じざるおえない。それはヘキオン自身もそう思っていた。
「――?なんだい。あたしか」
クリントンだ。焦っていたヘキオンとは違い、堂々としている。
「クリントンさん……最初に戦うのがクリントンさんなのかぁ……」
いいのか悪いのか。少なくともヘキオンにとっては悪いことなのだろう。頭を抱えている。
「名前はクリントン。年齢は……秘密ということにしておきましょう。職業は格闘家の冒険者のようですね。レベルは66となかなかの高さ。実にヘキオン選手と26レベルも差があります……これはヘキオン選手にとって厳しい戦いとなるでしょうねぇ」
「――えっクリントンさんレベル66!?たっか!?私勝てないじゃん!?」
これまで対峙してきた中での最大レベル差は13。そこから実に2倍も差がある。これはとてもまずい状況だ。
この世界では多少レベル差があっても、戦闘技術やその場その場の運などによって勝敗は変わることがある。レベルが高い方が絶対に勝つという訳では無い。
しかし差がありすぎると話は別。だいたい100ほどのレベル差があれば、まず勝負にならない。いくら技術面が秀でていたとしても、勝つのは困難どころか、ほとんど不可能に近くなる。
そう考えてみればレベル差26はかなり大きい数字。
――だが今回は殺し合いじゃなくて闘技大会。ヘキオンにもまだ勝機はある。
「2mを超える巨体。その丸太のような剛腕、豪脚から繰り出される技はまさに一撃必殺!!当たれば骨どころか心までもが砕け散る威力!!」
「上手いこと言ってんじゃないよ」
「そんな相手にヘキオン選手はどうするのか!?1回戦の1回目から白熱した闘いになりそうですねぇ……楽しみすぎて涎が出てきそうです!!」
袖で口を拭う。ほんとに涎が出てきていたのか。汚いものを見る目でリベレイターを見るヘキオン。人によってはご褒美だ。
「ヘキオン!」
そんなヘキオンを呼ぶクリントン。指をパキパキ鳴らして準備万端。やる気はもうマックスにまで到達している。
「手加減は抜きだよ。本気でかかってきなさい。じゃないとどうなるか分からないぞ……」
「言われなくても本気で行くよ。全力を出し渋ってたらアナタには勝てなさそうだし……そっちこそ本気できてよね!!」
「さぁ?それは状況とアタシの気分次第だからねぇ」
水を纏い、構える。いつもの闘い方。特に変化はなし。ただ麒麟戦の時よりも威圧感は高まっている。
クリントンも構えた。拳を前に、前傾的な姿勢だ。攻撃特化。見た目も相まって凄まじい圧。まるで獲物を目の前にした熊のようだ。
「――なんかいつの間にか始まりそうだし……」
選手控え室から覗くロードとその他選手たち。奥で一人ノノが座っている。それ以外の全員がリングの方へと顔を向けていた。
「あのデカブツ女も急に消えたと思ったらアッチにいるし……もう俺訳わかんねぇよ」
「わけがわかるやつなんていないだろ。それよりもあの2人の闘いが今は気になる……特にヘキオンとか言う子はな」
男性陣からヘキオンは人気のようだ。主に強さの方で。
「……頑張れ~ヘキオンちゃん!あんな筋肉ダルマに負けちゃダメだからね!!」
もちろんロードからも人気のヘキオン。モテモテだな。
「えらくヘキオンって子の肩を持つな。やっぱり知り合いなのか?」
「ふふん!まぁね!2人でご飯に行く仲だよ!羨ましいでしょ?」
「……そ、そうだな。羨ましいな」
「ふへへ……」
「――さぁ!これから始まるのは第一試合。1回戦1回目。ヘキオン選手VSクリントン選手だ!」
リベレイターが空へと飛び上がる。足の先が白く、煙のように歪んでいく。そもそも空を飛んでいる状況すらおかしいが、もうそんなことはみんな気にしていない。
どこからともなく鳴り響くドラム。昂る感情を感じさせないヘキオンとクリントン。
「よぉい――」
虚空へと煙となって消える。もはやリベレイターは存在する生物であったのかどうか。
このコロシアムにいる全ての人はそんなこと気にしていなかった。もう一度言おう。気にしていなかった。
ただ一つ。目の前で起ころうとしている闘いに釘付けになっていたのだった。
「――ファイト!!」
大きなドラムが一つ鳴った。
続く
……もはや中身を知る必要は無い。体格だけでわかる。その大きさは大木のように。その立ち姿はまるで仁王のように。その威圧感はさながら獅子のように。
額から流れる汗。ヘキオンが最初に戦うのがこの人なのは運命を感じざるおえない。それはヘキオン自身もそう思っていた。
「――?なんだい。あたしか」
クリントンだ。焦っていたヘキオンとは違い、堂々としている。
「クリントンさん……最初に戦うのがクリントンさんなのかぁ……」
いいのか悪いのか。少なくともヘキオンにとっては悪いことなのだろう。頭を抱えている。
「名前はクリントン。年齢は……秘密ということにしておきましょう。職業は格闘家の冒険者のようですね。レベルは66となかなかの高さ。実にヘキオン選手と26レベルも差があります……これはヘキオン選手にとって厳しい戦いとなるでしょうねぇ」
「――えっクリントンさんレベル66!?たっか!?私勝てないじゃん!?」
これまで対峙してきた中での最大レベル差は13。そこから実に2倍も差がある。これはとてもまずい状況だ。
この世界では多少レベル差があっても、戦闘技術やその場その場の運などによって勝敗は変わることがある。レベルが高い方が絶対に勝つという訳では無い。
しかし差がありすぎると話は別。だいたい100ほどのレベル差があれば、まず勝負にならない。いくら技術面が秀でていたとしても、勝つのは困難どころか、ほとんど不可能に近くなる。
そう考えてみればレベル差26はかなり大きい数字。
――だが今回は殺し合いじゃなくて闘技大会。ヘキオンにもまだ勝機はある。
「2mを超える巨体。その丸太のような剛腕、豪脚から繰り出される技はまさに一撃必殺!!当たれば骨どころか心までもが砕け散る威力!!」
「上手いこと言ってんじゃないよ」
「そんな相手にヘキオン選手はどうするのか!?1回戦の1回目から白熱した闘いになりそうですねぇ……楽しみすぎて涎が出てきそうです!!」
袖で口を拭う。ほんとに涎が出てきていたのか。汚いものを見る目でリベレイターを見るヘキオン。人によってはご褒美だ。
「ヘキオン!」
そんなヘキオンを呼ぶクリントン。指をパキパキ鳴らして準備万端。やる気はもうマックスにまで到達している。
「手加減は抜きだよ。本気でかかってきなさい。じゃないとどうなるか分からないぞ……」
「言われなくても本気で行くよ。全力を出し渋ってたらアナタには勝てなさそうだし……そっちこそ本気できてよね!!」
「さぁ?それは状況とアタシの気分次第だからねぇ」
水を纏い、構える。いつもの闘い方。特に変化はなし。ただ麒麟戦の時よりも威圧感は高まっている。
クリントンも構えた。拳を前に、前傾的な姿勢だ。攻撃特化。見た目も相まって凄まじい圧。まるで獲物を目の前にした熊のようだ。
「――なんかいつの間にか始まりそうだし……」
選手控え室から覗くロードとその他選手たち。奥で一人ノノが座っている。それ以外の全員がリングの方へと顔を向けていた。
「あのデカブツ女も急に消えたと思ったらアッチにいるし……もう俺訳わかんねぇよ」
「わけがわかるやつなんていないだろ。それよりもあの2人の闘いが今は気になる……特にヘキオンとか言う子はな」
男性陣からヘキオンは人気のようだ。主に強さの方で。
「……頑張れ~ヘキオンちゃん!あんな筋肉ダルマに負けちゃダメだからね!!」
もちろんロードからも人気のヘキオン。モテモテだな。
「えらくヘキオンって子の肩を持つな。やっぱり知り合いなのか?」
「ふふん!まぁね!2人でご飯に行く仲だよ!羨ましいでしょ?」
「……そ、そうだな。羨ましいな」
「ふへへ……」
「――さぁ!これから始まるのは第一試合。1回戦1回目。ヘキオン選手VSクリントン選手だ!」
リベレイターが空へと飛び上がる。足の先が白く、煙のように歪んでいく。そもそも空を飛んでいる状況すらおかしいが、もうそんなことはみんな気にしていない。
どこからともなく鳴り響くドラム。昂る感情を感じさせないヘキオンとクリントン。
「よぉい――」
虚空へと煙となって消える。もはやリベレイターは存在する生物であったのかどうか。
このコロシアムにいる全ての人はそんなこと気にしていなかった。もう一度言おう。気にしていなかった。
ただ一つ。目の前で起ころうとしている闘いに釘付けになっていたのだった。
「――ファイト!!」
大きなドラムが一つ鳴った。
続く
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