無職で何が悪い!

アタラクシア

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3章「美しき水の世界」

89話「戦いのドラム!」

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ドッドッドッドッ……。


ドラムの重い音が会場を盛り上げている。胸に響くドラムのリズム。人の感情を呼び覚ませるのにはピッタリだ。

そしてコロシアムの真ん中。そこに立つのは一人の男。真っ白のシルクハットに白のスーツ。そして煙のような羽衣を身につけていた。


辺りが暗く。まだ昼にも来ていないはずだが、空に暗闇が覆いかぶさった。

異常事態。ザワザワと騒ぎ始める観客たち。何が起こっているのか分からないその状況に人々は焦りを覚えていた。



「――よく来てくれた観客戦いを求める者達よ!!」

まるでスポットライトのように。天井から降り注ぐ光が男を照らしつけた。

周りの暗闇。唯一の光は男に向かっている。神からの使者。それどころか神そのものにもみえる。揺れる羽衣がそれを増長させた。

「私の名前はリベレイター。今回からブフィック闘技大会の司会者をやらせてもらいます!!」

指をパチンと鳴らす。小さい音。しかしその音は観客全員の耳に入ってきた。



ドカンと空から大きな響き。全ての注意が上へと逸れる。

空に光るのは花のような火。そう、花火。青とオレンジに光る大きな花火が空に描かれていた。

間髪入れずに続く花火。細かい花に大きな花。形も様々な花火が空を覆い尽くさんとばかりに咲いて咲いて咲きまくっている。


興奮する観客。ネリオミアに花火という文化はない。初めて見る花火に興奮する姿は子供のようだ。

「興奮したか?楽しんでるか?」
「「「「「イェェェェェイ!!!!」」」」」

呼応する。何度も重なる観客の感情。今日だけで一体感は幾つあっただろうか。

「よろしい……年に一度のお祭り騒ぎ。楽しんでもらわなくては困る」

右へ左へ。動くリベレイターに光がついて行く。

「来ている人達には様々な事情を抱えた者もいるのだろう。差別、戦争、虐殺、孤児、魔物……この世界は完璧ではない。夢ではない、幻想ではない。不条理や理不尽なことなどザラにある」

その声は全てを惹き付けていた。文字通り老若男女。子供までもが言葉を聞き入っている。

「ここは誰もが楽しい世界ではない。毎日が安堵のない生活をしている者もいる。毎日が死に接している者もいる。孤独に、独りで暮らす者もいる……」








「――だがそれがどうした!!ここはコロシアム!!年に一度のブフィック闘技大会!!……そんな暗い現実からは目を背けろ。ここは、ここだけは。全ての者にとっての聖域だ!!!」

暗闇が一瞬にして晴れた。広がる光。広がる感動。昂りの衝撃波がリベレイターを中心に、コロシアムを覆うほどにひろがった。


同時に人々の声があがる。ここだけは一体感はない。それでも根底には同じ感情があった。

リベレイターを称える声。
すすり泣く声。
大声で泣く声。
ひたすら騒ぐ声。
発狂する声。
世界への不満を放つ声。
楽しそうな声。

声の種類は様々。全ての者がそれぞれの事情を持っている。ならば放つ言葉が違うのは当然。当たり前。


「ここに宣言しよう!!……過去二十年。いや、この世に起きた全ての大会。全ての戦い。今から起こる大会はそれらを全て超える!!」

歓声に包まれるリベレイター。全てのしがらみ。全ての不満。全ての怒り。全ての恐怖。

「そして!!この大会を見た者は後にこう言うだろう……『人生で1番興奮する大会であった』と!!!」

リベレイターは全てをする。この世の全てから解放する。観客は表面ではなく、心の根底でそれを理解していたのであった。






「――な、なにこれ」

選手控え室。ヘキオンとロードはそこから会場の方を覗いていた。

「凄いことになってるね……」
「あれどうなってるのかな。急に暗くなったり、あの人の周りにだけ光が照らされたり、と思ったら急に明るくなったり……」
「魔法かな?光属性っぽい……」
「――いや、光属性ってわけでもないだろう」


後ろから現れたのは茶色いコートを着た片目の隠れた男。レオンだ。見ている2人の後ろに立っている。

「どういうこと?」
「あいつの音。小さい音のはずなのに耳に入ってきただろ?」
「あー確かに。上でなんかドンドン鳴ってる時とかも普通に聞こえてきたし、指パッチンも普通に聞こえた」
「そもそもマイクも使ってないのにコロシアム全体に声が聞こえるのはおかしいだろ。おそらく音属性……もしくは魔術の類いだ」

納得したように頭を縦に振るヘキオン。ただロードはどこか気に食わない様子。

「でもそれだと空が暗くなったりとかは説明できないじゃん」
「だからと言っただろう。少なくとも普通の男ではないはずだ」

観客を盛り上げているリベレイターを見ながら、レオンはそう話した。






「――さぁ余興はここまで。ここからが本番だ……フルスロットルで行くから振り落とされるなよ!!」











続く
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