87 / 117
3章「美しき水の世界」
87話「燃え盛る炎の中でも!」
しおりを挟む
出てきたのは女性。黒いふわっとしたローブ。その中には白のワイシャツ。そしてしなっとしたスカートを履いている。
髪は黒のロングでウェーブがかかっている。身長は推定で160cmほど。ヘキオンよりかはふた周り大きい。
その女性が出てきた瞬間。観客の勢いがガラッと変わった。消化試合を終えた感覚だった人たちが一気に身を乗り出す。
「――ノノ様だ!あれノノ様じゃないか!?」
「こんなところで見れるなんて……感激!!」
「闘技大会に出場なさるのか!」
ザワザワと騒々しくなる。それもそのはず。ノノは有名人であった。
「――ノノってあの勇者パーティの魔法使いか!?」
「だよね!こんなところで見られるなんて!」
クリントンとロードがノノに釘付けになる。さっきまで持ち上げていたヘキオンには目もくれず。
ヤキモチを焼いたのか、顔を膨らませるヘキオン。2人の前をぴょこぴょこと動く。
「……どしたのヘキオン」
「……い、いや。別に」
突然襲われる羞恥心。真っ赤になったヘキオンが縮こまる。
「――もしかしてヤキモチ焼いてたのヘキオンちゃん!」
「……」
「わー!ヘキオンちゃんかわいー!」
ロードに抱きつかれる。悪い気はしてなさそうだ。むしろ嬉しそう。
「攻撃方法は……魔法ですよね」
「はい」
当たり前かのような問答。ここまでの有名人。戦闘方法などはわかっている。
的から少し離れた場所。手を前にかざし、魔力を放出し始める。
魔力は形を徐々に形成。メラメラと燃える炎がノノの片手に纏わりつく。炎は熱く。周りは熱量を感じ取った。
観客は静止。言葉を一切発さない。ノノの魔法を静かに見守る。
炎は塊に。球体へと変貌する。その球体は大きく、ヘキオンの時と同じぐらいの大きさだ。
熱量はさらに増す。空気中の水分が減り、眼球の水分が一瞬で乾く。他の選手は必然的に瞬きの回数が増えていった。
空気は熱く。呼吸するだけで体内が燃えそう。口の中の唾液が一瞬で蒸発する。頬を伝う汗すらも、ぬるま湯から熱湯へと熱さを増加させてゆく。
それを的にぶつける――ことは無い。まださらに1段階変わる。
球体は形を変える。大きく広がり口へ、ベコっと凹んで眼球に、鋭く伸びるは牙。球体の質量はどんどん増える。次に生成されたのは体。最後に尻尾。
完成されたその姿は四足歩行の猛獣。子供なら好きであろうあの猛獣。日本古来から描かれてきたあの猛獣。
「――炎虎」
炎の虎。燃える猛獣。揺れる炎の体を手にした虎は、自分よりも何倍も小さい的に向かって突進して行った。
熱風が観客の方にまで。的に衝突した虎は透明な虚空へと消え去る。
熱を帯びていた空気が徐々に冷める。流れていた汗は普通の温度に。乾いていた体液が元に戻り始めた。
静まったままの観客。他の選手。補助員たち。まるで時間が止まったかのように的の方をじっと見ていた。
その理由は分かるだろう。ノノが放った魔法の威力。それがどれくらいかを確認したかったからだ。
もはや1番の数字を取るのは分かりきっている。だからこその気になる数字。ヘキオンをどれほど超えているか。重要なのはそこだ。
『――4801』
実にヘキオンの数字を1000以上も更新した。そんな所を見せられればどうなるか。そんなの1つ。観客が歓喜する。そういうことだ。
ヘキオンと同じくスタンディングオベーション。しかしその音はヘキオンよりも大きかった。拍手の音がベネッチアの街全体を覆うほどの大きさになる。
凄まじい拍手。それを一身に浴びる。それでも眉ひとつ動かさないノノ。それはまるでこうなることが予想できてたかのよう。自分が注目されるのがわかっているかのようだった。
「……」
ノノをじっと見つめるヘキオン。それは憧れの眼差しではない。敵意の眼差し。それと興味の眼差し。そしてもう1つ、幸甚の眼差しであった。
――目の目が合った2人。
サラリとたなびくノノの後ろ髪。フワリと揺れるヘキオンの前髪。
赤い瞳がヘキオンを見つめる。碧い瞳がノノを映す。
ノノは何も言わずにヘキオンから離れる。ヘキオンも反応することなく前を見据える。どちらがどう思ってるかは分からない。
これから自分の人生において、最強のライバルとなることを2人はまだどちらも知ることはなかった。
続く
髪は黒のロングでウェーブがかかっている。身長は推定で160cmほど。ヘキオンよりかはふた周り大きい。
その女性が出てきた瞬間。観客の勢いがガラッと変わった。消化試合を終えた感覚だった人たちが一気に身を乗り出す。
「――ノノ様だ!あれノノ様じゃないか!?」
「こんなところで見れるなんて……感激!!」
「闘技大会に出場なさるのか!」
ザワザワと騒々しくなる。それもそのはず。ノノは有名人であった。
「――ノノってあの勇者パーティの魔法使いか!?」
「だよね!こんなところで見られるなんて!」
クリントンとロードがノノに釘付けになる。さっきまで持ち上げていたヘキオンには目もくれず。
ヤキモチを焼いたのか、顔を膨らませるヘキオン。2人の前をぴょこぴょこと動く。
「……どしたのヘキオン」
「……い、いや。別に」
突然襲われる羞恥心。真っ赤になったヘキオンが縮こまる。
「――もしかしてヤキモチ焼いてたのヘキオンちゃん!」
「……」
「わー!ヘキオンちゃんかわいー!」
ロードに抱きつかれる。悪い気はしてなさそうだ。むしろ嬉しそう。
「攻撃方法は……魔法ですよね」
「はい」
当たり前かのような問答。ここまでの有名人。戦闘方法などはわかっている。
的から少し離れた場所。手を前にかざし、魔力を放出し始める。
魔力は形を徐々に形成。メラメラと燃える炎がノノの片手に纏わりつく。炎は熱く。周りは熱量を感じ取った。
観客は静止。言葉を一切発さない。ノノの魔法を静かに見守る。
炎は塊に。球体へと変貌する。その球体は大きく、ヘキオンの時と同じぐらいの大きさだ。
熱量はさらに増す。空気中の水分が減り、眼球の水分が一瞬で乾く。他の選手は必然的に瞬きの回数が増えていった。
空気は熱く。呼吸するだけで体内が燃えそう。口の中の唾液が一瞬で蒸発する。頬を伝う汗すらも、ぬるま湯から熱湯へと熱さを増加させてゆく。
それを的にぶつける――ことは無い。まださらに1段階変わる。
球体は形を変える。大きく広がり口へ、ベコっと凹んで眼球に、鋭く伸びるは牙。球体の質量はどんどん増える。次に生成されたのは体。最後に尻尾。
完成されたその姿は四足歩行の猛獣。子供なら好きであろうあの猛獣。日本古来から描かれてきたあの猛獣。
「――炎虎」
炎の虎。燃える猛獣。揺れる炎の体を手にした虎は、自分よりも何倍も小さい的に向かって突進して行った。
熱風が観客の方にまで。的に衝突した虎は透明な虚空へと消え去る。
熱を帯びていた空気が徐々に冷める。流れていた汗は普通の温度に。乾いていた体液が元に戻り始めた。
静まったままの観客。他の選手。補助員たち。まるで時間が止まったかのように的の方をじっと見ていた。
その理由は分かるだろう。ノノが放った魔法の威力。それがどれくらいかを確認したかったからだ。
もはや1番の数字を取るのは分かりきっている。だからこその気になる数字。ヘキオンをどれほど超えているか。重要なのはそこだ。
『――4801』
実にヘキオンの数字を1000以上も更新した。そんな所を見せられればどうなるか。そんなの1つ。観客が歓喜する。そういうことだ。
ヘキオンと同じくスタンディングオベーション。しかしその音はヘキオンよりも大きかった。拍手の音がベネッチアの街全体を覆うほどの大きさになる。
凄まじい拍手。それを一身に浴びる。それでも眉ひとつ動かさないノノ。それはまるでこうなることが予想できてたかのよう。自分が注目されるのがわかっているかのようだった。
「……」
ノノをじっと見つめるヘキオン。それは憧れの眼差しではない。敵意の眼差し。それと興味の眼差し。そしてもう1つ、幸甚の眼差しであった。
――目の目が合った2人。
サラリとたなびくノノの後ろ髪。フワリと揺れるヘキオンの前髪。
赤い瞳がヘキオンを見つめる。碧い瞳がノノを映す。
ノノは何も言わずにヘキオンから離れる。ヘキオンも反応することなく前を見据える。どちらがどう思ってるかは分からない。
これから自分の人生において、最強のライバルとなることを2人はまだどちらも知ることはなかった。
続く
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

転校から始まる支援強化魔術師の成り上がり
椿紅颯
ファンタジー
どの世界でも不遇職はやはり不人気。モンスターからは格好の標的にもなりえり、それは人間の汚い部分の標的にもなりやすい。
だが、なりたい自分、譲れない信念を貫いていく――
そんな主人公が己が力と仲間で逆境を切り開いていくそんな物語。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~
eggy
ファンタジー
もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。
村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。
ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。
しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。
まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。
幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。
「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

まさか転生?
花菱
ファンタジー
気付いたら異世界? しかも身体が?
一体どうなってるの…
あれ?でも……
滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。
初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~
m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。
書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。
【第七部開始】
召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。
一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。
だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった!
突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか!
魔物に襲われた主人公の運命やいかに!
※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。
※カクヨムにて先行公開中

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる