無職で何が悪い!

アタラクシア

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3章「美しき水の世界」

85話「予選が開始された!」

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「では説明をおこないます!!」

広い会場。数千、数万の人々がコロシアムの席に座っている。凄まじい熱気。圧力。力強さ。

中にはコールを送る人や、熱烈な声援をあげる人も。とんでもない数の声がヘキオンの耳に突入してきていた。


「予選でおこなってもらうのは、ベネッチア伝統の儀式『パワーバース』です!ルールは簡単!あそこに用意された的に攻撃をぶつけていただくだけです!」

司会者みたいな人が指を指した方向にあるのは、本当にただの的。黒と白のシマシマ模様が描かれてある。

「攻撃方法は2つ!あなたの拳や脚を使った肉体攻撃!!もうひとつは魔力を使った魔法攻撃です!!武器の使用は不可!!己のからだでおこなってもらいます!!」

簡単なルールだ。お子様でも理解できるほどに単純なルール。

「この的に攻撃すると――」

いつの間にか的の前に屈強な男が立っていた。その男が的を思い切りぶん殴る。


『――969』


的の上に数字が映し出された。ホログラムのような数字。幻影のような数字だ。

「このように数字として出されます!!この数字が高い上位8名が決勝へと進むことが許されます!!」

つまりなんでもいいから高い数字をだせ。そういうことだ。

「それではナンバープレート1番の方からお願いします!!」

こうして予選は開始された――。





各々の攻撃方法で的を叩く人たち。純粋にぶん殴る人、魔法をぶつける人。予選は割とスムーズにおこなわれていった。


「でりゃあ!!!」
『――202』
「はぁ!?インチキだろこんなの!!」


しかしどの人も調子が振るわない。と言うよりも、最初のお手本の人が強すぎる。

現状出ている最高点数の人で426。どれもお手本の人の半分にも到達していない。絶対にお手本にする人を間違えてる。


「次は102番のかた!」
「――あたしだな」

クリントンだ。首をコキコキと鳴らして準備運動をしている。

「頑張ってください!」
「うん。ちゃんと見てなよヘキオン」

頭をワシャワシャ撫でる。


「……ふん」
「ちゃーーんと見てなさいよ……」
「ちょっ、頭撫でないでよ!」

ヘキオンと同様、頭を撫でる。口では嫌がっているが満更でも無い様子。仲がいいのか悪いのか分からないな。



「攻撃方法は?」
「殴りで」

的の前に立つ。明らかに今までの人とは違う雰囲気。見ていた観客も段々と静まり返る。


「ふぅぅぅぅぅ……」

振り上げる。拳に浮き上がる血管。ミシミシと何も握ってないのに潰れる音。ボコりと起き上がる上腕二頭筋。

体を捻じる。下半身は固定。腹筋は固まる。溜め込む力と抑える力。今は抑える力の方が大きい。しかし溜め込む力の方が大きくなった時――。



――力は放たれる。

衝撃で凹む的。音は爆弾のように。鼓膜に届くのは物を殴ったような音ではない。

「……ふん」

的に背を向ける。まだ数字は出ていない。だが分かりきったこと。見なくても分かる。


『――2435』

自分が1番点数が高いことに。




湧き上がる会場。こんな点数など今まで見たこともなかった。

「おーーーっとここで1番が変わりました!圧倒的に差をつけたのは……102番のクリントン選手です!!」

声がひとつに。クリントンの背中に数万の人間の声が叩きつけられる。



「――クリントンさんすごい!!」

終えたクリントンがヘキオンの方へと歩いていく。そんなクリントンに近寄るヘキオン。

「こんなもんね。どうよ私の実力は」
「すごいですよ!本当に昨日は本気出してなかったんですね!」
「ふふふ……今日の優勝はもらったかな?」
「――まだ終わってないから」

ヘキオンの頭の上からヌルッと出てくるロード。抱っこされるようにしてヘキオンの上に登ってきていた。

「優勝するのは私!ヘキオンちゃん!今度は私も見ててね」
「見てるよ見てるよ~」
「どこまで出るのか楽しみだねぇ」





「次は188番の方!」
「私の番!見ててねヘキオンちゃん!」
「分かった~」

手を振る。なんか運動会を見ているお母さんのようだ。


「攻撃方法は?」
「パンチで!!」

的の前に立った時、場内では失笑が起こった。

「なんだよあのガキ。なんでこんなところにいんだよ」
「ネタで来たんだよ。それか虐められて脅されたか」
「もう可愛そうね。こんな人前で恥をかかされるなんて」

口々に言い合う人たち。


ニヤリと笑うロード。まるで会場の人たちを馬鹿にするような笑いだ。



的から少し離れる。腕をだらんと。脱力。腕も体も脱力。体の力を全て抜き去る。

「――」

液体のように。全ての筋繊維を緩ませ。全ての神経を緩ませ。全ての脳を停止させ。



――全てを解き放った。



弾ける地面。体は一瞬で的前まで。脱力から一気に力を入れる。緩みから収縮へのパワーは計り知れない。

弾ける空気。的が軋む。目を丸くする全ての人たち。天にも登るような音を出した的の上に数字が出された。


『――2507』

今日1番の数字。観客が湧き上がるのに、そう時間はかからなかった。











続く
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