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3章「美しき水の世界」
78話「闇に包まれた過去!」
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見殺し。もちろんヘキオンはその言葉を知っていた。そしてその言葉の意味も。
「み……見殺し?」
「うん。見殺し。ちょっと暗い話になるけどいい?」
「別にいいよ。それよりも気になることの方が多いし……」
その通り。暗い雰囲気になってでも聞きたいことの方が多い。身を乗り出しそうな勢いでロードの話を聞く。
「……簡潔に言うとね、私とカエデが住んでいた村は滅んじゃったの」
「ほろ……んだ?なんで?魔物にでもやられたの?」
「魔物の方がまだよかったよ」
「魔物の方がよかった?……どういうこと?」
深刻な話。そのはずだが、軽い感じでロードは話す。
「人間。魔人でもない。本当にただの人間。たった一人の人間に私たちの村は滅ぼされた」
「……」
「私の親も祖父母も殺られた。妹もそいつに殺された。友達も殺された。……カエデも一緒。両親も祖父母も従兄弟も殺されてる」
対照的に顔が暗くなるヘキオン。自分の隣にいた人がそんな過去を持ってることなど知らなかった。
「……カエデさんが……そんな過去を持ってたなんて知らなかった」
「こんな過去なんて話したくなんてないしね」
「でもちょっとくらい教えてくれたらよかったのに……」
「……もう1つだけ教えてあげる」
「――私たちの村を滅ぼしたのは、カエデのお兄ちゃんなの」
「えっ――」
衝撃の告白。予想していなかった内容。自分の村を滅ぼしたのは自分の兄。そりゃあおいそれと人に言える内容ではない。
「それってどういう――」
瞬間。ヘキオンとロードの目の前に食事が置かれた。丸いお皿に乗った白いパスタ。黒い貝と赤い貝が白い色とマッチ。食欲を誘う海鮮の香りが辺りに漂う。
「おまたせしました。ムール貝とプレイ貝のクリームパスタでございます」
「あっありがとうございます。――ほら、湿っぽい話は終わり!ご飯も来たし食べよ?」
「……うん」
腑に落ちない顔。しかし急かされては仕方ない。目の前の料理を食べることにしたようだ。
フォークを手に取る。……が、それだけ。どうすればいいのか分からないような顔をしている。パスタなど食べたことがないのだろう。
「……もしかして、どうすればいいかわかんない?」
「お恥ずかしながら……」
「見ててね」
皿に盛られたパスタ。その端にフォークを差し込む。クルクルとフォークを回し、紐のような麺を巻きとった。
「パスタを食べる時は端から。垂直にフォークを指すと必要以上にとってしまう。斜めに刺して少しずつすくうように巻きとるの」
「多くとったらダメなの?」
「一度に食べ切れる分だけ取るのがいいんだよ。途中で噛み切ったり、すすったりするのはダメ」
「……なんかめんどくさいね」
「これが上品なの。ちゃんとマナーがなってたら人からよく見られるんだよ」
綺麗な作法でパスタを口に運ぶ。幸せそうな顔。その顔がパスタが美味しいということを伝えている。
言われたとおりにパスタを巻きとる。白いクリームが黄色の麺を白く。トロッとした液が皿へと落下する。
滴り落ちるクリームを落とさないように。巻きとった麺を口の中へと入れ込んだ。
「――ん!」
広がるのは甘み。旨味。麺一つ一つにクリームが絡み合い、それが口の中で唾液腺を刺激する。
それでいて風味は海鮮。じわりと貝の優しい香りが口の中を包み込む。舌先に絡まる麺とクリームがヘキオンを幸せにした。
「美味しい……これ美味しいね!」
「そうだね」
パクパクと口に運ぶ。唇に付いたクリームもペロリと舌でかすめとる。それほど美味しい。少しも残したくないという気持ちが現れている。
そんなヘキオンを優しい顔で見ているロード。その顔に浮かぶ表情。何を思い、何を感じているのか――。
「――あー。美味しかった!」
店を出た2人。どちらも満足そうな顔をしている。気分も良さそうだ。
「お金があったらまた行きたいな~」
「そうだねぇ……」
「ねぇねぇ!カエデさんと会うまで暇だしさぁ、私とヴェネツィア観光しようよ!」
ロードの手をギュッと握り、ブンブンと縦に振る。結構痛そうだ。
「観光って……私は一ヶ月前からここにいるんだよ。見れるところは全部回った」
「じゃあおすすめの場所に案内してよ!暇でしょこのあと!」
「もう……仕方ないなぁ」
満更でもなさそう。面倒くさそうではあるが、楽しみが顔から抜けきれていない。カエデとの約束は夜。
冒険者生活で疲れているヘキオンに、ほとんど同年代の友達と楽しく遊ぶ時間はなかった。こういう時に楽しむのがストレスを溜めないコツ。
そのおかげでヘキオンのお肌もまだまだ綺麗だ。露出している肌に荒れてるところはない。まぁこれは関係ないか。
「それじゃあヘキオンちゃん。まずは――」
続く
「み……見殺し?」
「うん。見殺し。ちょっと暗い話になるけどいい?」
「別にいいよ。それよりも気になることの方が多いし……」
その通り。暗い雰囲気になってでも聞きたいことの方が多い。身を乗り出しそうな勢いでロードの話を聞く。
「……簡潔に言うとね、私とカエデが住んでいた村は滅んじゃったの」
「ほろ……んだ?なんで?魔物にでもやられたの?」
「魔物の方がまだよかったよ」
「魔物の方がよかった?……どういうこと?」
深刻な話。そのはずだが、軽い感じでロードは話す。
「人間。魔人でもない。本当にただの人間。たった一人の人間に私たちの村は滅ぼされた」
「……」
「私の親も祖父母も殺られた。妹もそいつに殺された。友達も殺された。……カエデも一緒。両親も祖父母も従兄弟も殺されてる」
対照的に顔が暗くなるヘキオン。自分の隣にいた人がそんな過去を持ってることなど知らなかった。
「……カエデさんが……そんな過去を持ってたなんて知らなかった」
「こんな過去なんて話したくなんてないしね」
「でもちょっとくらい教えてくれたらよかったのに……」
「……もう1つだけ教えてあげる」
「――私たちの村を滅ぼしたのは、カエデのお兄ちゃんなの」
「えっ――」
衝撃の告白。予想していなかった内容。自分の村を滅ぼしたのは自分の兄。そりゃあおいそれと人に言える内容ではない。
「それってどういう――」
瞬間。ヘキオンとロードの目の前に食事が置かれた。丸いお皿に乗った白いパスタ。黒い貝と赤い貝が白い色とマッチ。食欲を誘う海鮮の香りが辺りに漂う。
「おまたせしました。ムール貝とプレイ貝のクリームパスタでございます」
「あっありがとうございます。――ほら、湿っぽい話は終わり!ご飯も来たし食べよ?」
「……うん」
腑に落ちない顔。しかし急かされては仕方ない。目の前の料理を食べることにしたようだ。
フォークを手に取る。……が、それだけ。どうすればいいのか分からないような顔をしている。パスタなど食べたことがないのだろう。
「……もしかして、どうすればいいかわかんない?」
「お恥ずかしながら……」
「見ててね」
皿に盛られたパスタ。その端にフォークを差し込む。クルクルとフォークを回し、紐のような麺を巻きとった。
「パスタを食べる時は端から。垂直にフォークを指すと必要以上にとってしまう。斜めに刺して少しずつすくうように巻きとるの」
「多くとったらダメなの?」
「一度に食べ切れる分だけ取るのがいいんだよ。途中で噛み切ったり、すすったりするのはダメ」
「……なんかめんどくさいね」
「これが上品なの。ちゃんとマナーがなってたら人からよく見られるんだよ」
綺麗な作法でパスタを口に運ぶ。幸せそうな顔。その顔がパスタが美味しいということを伝えている。
言われたとおりにパスタを巻きとる。白いクリームが黄色の麺を白く。トロッとした液が皿へと落下する。
滴り落ちるクリームを落とさないように。巻きとった麺を口の中へと入れ込んだ。
「――ん!」
広がるのは甘み。旨味。麺一つ一つにクリームが絡み合い、それが口の中で唾液腺を刺激する。
それでいて風味は海鮮。じわりと貝の優しい香りが口の中を包み込む。舌先に絡まる麺とクリームがヘキオンを幸せにした。
「美味しい……これ美味しいね!」
「そうだね」
パクパクと口に運ぶ。唇に付いたクリームもペロリと舌でかすめとる。それほど美味しい。少しも残したくないという気持ちが現れている。
そんなヘキオンを優しい顔で見ているロード。その顔に浮かぶ表情。何を思い、何を感じているのか――。
「――あー。美味しかった!」
店を出た2人。どちらも満足そうな顔をしている。気分も良さそうだ。
「お金があったらまた行きたいな~」
「そうだねぇ……」
「ねぇねぇ!カエデさんと会うまで暇だしさぁ、私とヴェネツィア観光しようよ!」
ロードの手をギュッと握り、ブンブンと縦に振る。結構痛そうだ。
「観光って……私は一ヶ月前からここにいるんだよ。見れるところは全部回った」
「じゃあおすすめの場所に案内してよ!暇でしょこのあと!」
「もう……仕方ないなぁ」
満更でもなさそう。面倒くさそうではあるが、楽しみが顔から抜けきれていない。カエデとの約束は夜。
冒険者生活で疲れているヘキオンに、ほとんど同年代の友達と楽しく遊ぶ時間はなかった。こういう時に楽しむのがストレスを溜めないコツ。
そのおかげでヘキオンのお肌もまだまだ綺麗だ。露出している肌に荒れてるところはない。まぁこれは関係ないか。
「それじゃあヘキオンちゃん。まずは――」
続く
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