無職で何が悪い!

アタラクシア

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3章「美しき水の世界」

73話「お友達ができて良かったね!」

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湯気。雲のようにモクモクとした湯気が辺りを覆う。湿度が体を温める。


ここはベネッチアでも有名な『ハロゲン温泉』という場所だ。神経痛、筋肉痛、関節痛、美肌効果、うちみ、慢性消化器病、冷え性、 健康増進etc。様々な効能の温泉が流れている。

そのため女性に大人気。毎日3桁には余裕で登るであろう人の数が来ている。


ヘキオンもその内の1人。バスタオルを巻いて露天風呂に体を浸からせてゆったりとしている。

「――っっふぅぅぅぅ……」

とてもリラックスしているようだ。最近は幻獣と戦ったり、拷問を受けたりと散々な目にあっていた。これくらいのリラックスは許しても誰も咎めないだろう。

筋肉が温泉に温められて緩む。その緩み具合は液体。顔の筋肉までもゆる~っとなる。自然に笑顔へとなっていた。

「この後は服屋に行ってぇ、レストラン行ってぇ、ギルドに行ってぇ……やることいっぱいだなぁ」

今は昼時。それでも温泉にはかなりの人が来ている。女湯なのでもちろん女性だけ。男性の方々にとっては眼福の場所でしょうね。



「――いいお店紹介してあげようか?」
「んぇ――?」

いつの間にかヘキオンの隣に座っていた少女に話しかけられた。

「えーっと……」
「あ、ごめんね。あなた冒険者でしょ?」
「まぁうん」

肩まで伸びた灰色の髪をポニーテールにしている少女。体格はヘキオンよりも小さく、胸や肩幅やウエストだけを見たら小学生と思う人もいるだろう。吸い込まれるような緑色の瞳は今のヘキオンの姿を写していた。

「一緒一緒!私も冒険者してるんだ!」
「へぇ、そんなに小さいのにすごいね」
「小さいのは関係ないでしょ……一応気にしてるんだからね」

頬を膨らませる。

「ごめんね~」
「――そう言いつつ頭撫でてるのはなんでかな?」
「はっ――!」

無意識だったようだ。ヘキオンの手は自然とロードの頭へ移動していた。気がついた瞬間にバッと手を離す。

「もー!子供扱いしないでよー!」
「ごめんごめん。私も小さいから子供扱いされるんだよね。あと一人っ子だから自分より小さい女の子を見ると撫でたくなっちゃって」
「……それ結構やばいこと言ってる自覚ある?」
「えへへ」

性別が違えば犯罪者。違わなくてもかなり危ない。でも顔がよければだいたい許される。それが人間社会だ。

「まぁいいや。あなたの名前は?」
「ヘキオン。魔法使いだよ」
「私はロード。戦士だよ。よろしくね」

ニッコリ。そんな効果音が出てきたと思わせるほどの笑顔をヘキオンに向けた。

ゾクリと背筋に電撃が走る。本能。ヘキオンの右手がロードの頭を撫でようと疼きだす。

「……撫でさせないよ」

頭をガードする。

「な、撫でないよォ……」

ちょっとショックを受けるヘキオンであった。






「――すいませんカエデさん!遅くなりました」
「全然大丈夫だよ」

ホカホカしながら合流する2人。服はまだ汚れてるが、体臭はどちらもよくなった。特にヘキオンからはいい匂いがする。

心無しかカエデの呼吸回数が増えてるのもそのためだ。……ヘキオンが鈍感で本当に助かってるなコイツ。

「さて、次は床屋……やっぱり先に服を綺麗にしとくべきか……」
「あの……カエデさん」
「ん?どうした?」
「風呂場で仲良くなった女の子がいるんですけど、一緒に回ったらダメですか?」
「別にいいけど……俺が一緒にいて大丈夫か?」
「大丈夫ですよ!その子も「大丈夫」って言ってたし」

女二人に男一人。カエデの服装はほとんど浮浪者。髭も生えている。なんか色々と勘違いされそうだ。


「その女の子ってどんな子?」
「小さくて可愛い子です!あと髪が灰色で……瞳が緑色で……小さくて可愛いです!」
「強調しなくても分かるから」

小さく可愛い。この部分を強調している。ヘキオンにとってはそれほど可愛いのだろう。やっぱり性別が違えば犯罪者だな。

カエデの頬を汗が流れる。風呂上がりで暑いからだろうか。

「……ね、ねぇ。その子の名前分かる?」
「ロードって言う子です」


瞬間。カエデの汗が吹き出した。ダラダラと冷たい汗がカエデの体を冷やしていく。

「――あ、あー。やっぱり女の子二人の方がいいよね。うんうんそうだと思う。お金を渡しておくからこれで好きな物でも買ってお昼ご飯でも食べてきな。夜にランライトホテルに集合ね。じゃあ楽しんできて」

超高速で喋り倒す。ヘキオンに有無を言わさずに金を渡し、ダッシュで温泉から飛び出るのであった。


「え?ちょっ――どうしたんだろう。カエデさん」

カエデの急変具合に頭を傾げる。ちょうどその時、ロードが風呂場から出てきた。

「おまたせー。……あれ?言ってた男の人は?」
「なんか女の子二人の方がいいだろ、って言ってお金渡してどっか行っちゃった」
「ふーん。ウブな人だね」
「いつもは強くていい人なんだけど……カエデさんどうしちゃったんだろう」
「――カエデさん?」

聞き返す。その顔はどこか嬉しそうな感じがする。

「え?うん。カエデっていう人なんだ。私のことを何回も助けてくれたんだよ」
「……そうなんだ」

優しく顔が微笑んでいく。声もどこか優しく。嬉しさが抑えきれてない。

「――生きてたんだ。よかった」




「?知り合いなの?」
「まぁね。とりあえず話しながら行こ。二人で行ってきなさい……って言ってたんでしょ?」
「……そうだね。行こっか!」

色々と疑問が残るヘキオンであった。











続く
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