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3章「美しき水の世界」
71話「水に敷かれた街!」
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病院の前。
荷物をまとめたカエデとヘキオンがナースのお姉さんに挨拶をしていた。
「「ありがとうございました」」
「いいのよ。怪我したらまた来なさい」
無気力だが優しい声。スタートタウンのナースと同種の優しい声だ。
「――さて」
挨拶を終えた2人。ゆっくりと振り向いた先にあったのは、目指していた場所。『ベネッチア』であった。
「わぁ……」
目をキラキラとさせるヘキオン。その先の光景を見れば、キラキラするのは当然。誰しもが美しいと思える景色がそこにあるからだ。
全体的に白を基調とした大きな建物。その隣はレモン色の大きな建物。コンクリートのように滑らかな建物の壁は傍から見れば絵のように幻想的。写真を見せつけられているのかと思うほどの美しさ。
遠くの方に見えるのは白い宮殿。屋根はドーム状になっており、銀色の大きな棒が天空へと掲げられている。
もちろん家々も特徴的だ。今までの街や村とは比べ物にならないほど芸術として完成している。だがベネッチアでの1番の特徴がある。それは川だ。
家や店の間を流れる川。街全体にその川は流れている。美しき水色。反射する家の虚像は水の鮮度をこれでもかと示している。
もちろん人々は川を泳いで渡るわけでも、遠回りして渡るわけでもない。川にかけられた橋を渡る。
屋根の着いた橋。橋すらも芸術の1つ。水色の屋根に白い柱。神々しい装飾が橋の存在感をバッと照らしていた。
その下を通り抜けるはボート。荷物を沢山乗せたボートが軽くスイスイと水上を移動している。
「……す、凄いですね!」
「さすが水の都と言ったところだな」
ヘキオンは今にも飛び出していきそうなほど興奮している。
「じゃあ観光ついでに腹ごしらえでもするか。その後にここのギルドに挨拶をしにいこう」
「いいですね!じゃあ行きましょ行きましょ!」
通り過ぎる人々。ここに住んでいる人たちだろうか。どの人も綺麗な顔立ちをしていた。
男はイケメン。塩顔が多いが、所々に濃い顔の人も見受けられる。どちらにしろイケメン。日本ならモテそうだ。
女は美人。アジア人っぽい元気な雰囲気。金持ちが多いからか、ドレスコードをしている人も少なくない。主に赤が目立っている。
「ねぇカエデさん!このベネッチアにはなんで川が流れてるか知ってる?」
カエデに問題。フィジカルでは圧倒的に負けているヘキオンだが、頭には自信がある様子。
「単純に川が流れてる場所に街を置いたんじゃないのか?」
「違うんです。このベネッチアはラグーナに作られたんですよ」
「ラグーナ?」
「砂州やサンゴに隔たれた水深の浅い場所です。だからベネッチアに流れているのは正確には川ではありません」
「川じゃない?じゃあ何が流れてるんだ?」
「何がって言われるとただの海水なんですが……この水路は運河として利用されてるんです」
「……あーなるほどね。ボートがよくあるのはそのためだからか」
納得した様子。
「よくそんなの知ってたな」
「ふっふっふ……これでも頭はいい方なんです!特に地理は大得意でしたよ!」
誇らしげに胸を張る。微笑ましいその光景にカエデの顔が綻んだ。
「じゃあ俺からも問題だ。この街では年に数回アックア・アルタと呼ばれる現象が起こるんだ。それはなんだと思う?」
「舐めてもらっちゃあ困りますよカエデさん。『高潮』でしょ」
「正解だ。やっぱり頭いいな」
照れくさそうに鼻をかく。
「ちなみにアックア・アルタの意味は知ってますか?」
「え?普通に高潮じゃないのか?」
「アックア・アルタ。大潮と低気圧と東南から吹くシロッコと呼ばれる風が重なることによって起こる異常潮位です。地盤が一番低いマルコ・シャイン広場は毎回水没するんですよ」
凄い知識量だ。問題を出したカエデがむしろ教えられている。
「――ヘキオンには叶わないな。問題を出したこっちが恥ずかしくなってきたぞ」
「強さでは負けますが、頭の良さなら私の方が上ですね!」
「ならギブアンドテイクだ。俺が鍛えてやるから、ヘキオンも俺に色々教えてくれよ」
「いいですねそれ!カエデさんの頭をビシバシ鍛えていきますよ!」
「ははは。楽しみにしてるよ」
「カエデさんはどのくらい頭がよかったんですか?」
そういえば、から続けるヘキオン。
「えーっと……100人中……10番くらい」
「普通にいいじゃないですか!」
「あははー。そう?」
「……」
「……」
「本当は?」
「……下から数えて10番です」
吹き出すヘキオン。いつもの頼れる感じやサバイバルの知識からは想像もできない。ヘキオンはそのギャップにやられたようだ。
「これでも頑張って5位は取ったんだそ!1回だけだけど!」
「あはは!……ごめんなさい。なんか思ってたよりも悪くって……ふふふ」
「笑うなよー!」
プンスコ怒るカエデ。どことなくその怒り方はヘキオンと似ていた。
続く
荷物をまとめたカエデとヘキオンがナースのお姉さんに挨拶をしていた。
「「ありがとうございました」」
「いいのよ。怪我したらまた来なさい」
無気力だが優しい声。スタートタウンのナースと同種の優しい声だ。
「――さて」
挨拶を終えた2人。ゆっくりと振り向いた先にあったのは、目指していた場所。『ベネッチア』であった。
「わぁ……」
目をキラキラとさせるヘキオン。その先の光景を見れば、キラキラするのは当然。誰しもが美しいと思える景色がそこにあるからだ。
全体的に白を基調とした大きな建物。その隣はレモン色の大きな建物。コンクリートのように滑らかな建物の壁は傍から見れば絵のように幻想的。写真を見せつけられているのかと思うほどの美しさ。
遠くの方に見えるのは白い宮殿。屋根はドーム状になっており、銀色の大きな棒が天空へと掲げられている。
もちろん家々も特徴的だ。今までの街や村とは比べ物にならないほど芸術として完成している。だがベネッチアでの1番の特徴がある。それは川だ。
家や店の間を流れる川。街全体にその川は流れている。美しき水色。反射する家の虚像は水の鮮度をこれでもかと示している。
もちろん人々は川を泳いで渡るわけでも、遠回りして渡るわけでもない。川にかけられた橋を渡る。
屋根の着いた橋。橋すらも芸術の1つ。水色の屋根に白い柱。神々しい装飾が橋の存在感をバッと照らしていた。
その下を通り抜けるはボート。荷物を沢山乗せたボートが軽くスイスイと水上を移動している。
「……す、凄いですね!」
「さすが水の都と言ったところだな」
ヘキオンは今にも飛び出していきそうなほど興奮している。
「じゃあ観光ついでに腹ごしらえでもするか。その後にここのギルドに挨拶をしにいこう」
「いいですね!じゃあ行きましょ行きましょ!」
通り過ぎる人々。ここに住んでいる人たちだろうか。どの人も綺麗な顔立ちをしていた。
男はイケメン。塩顔が多いが、所々に濃い顔の人も見受けられる。どちらにしろイケメン。日本ならモテそうだ。
女は美人。アジア人っぽい元気な雰囲気。金持ちが多いからか、ドレスコードをしている人も少なくない。主に赤が目立っている。
「ねぇカエデさん!このベネッチアにはなんで川が流れてるか知ってる?」
カエデに問題。フィジカルでは圧倒的に負けているヘキオンだが、頭には自信がある様子。
「単純に川が流れてる場所に街を置いたんじゃないのか?」
「違うんです。このベネッチアはラグーナに作られたんですよ」
「ラグーナ?」
「砂州やサンゴに隔たれた水深の浅い場所です。だからベネッチアに流れているのは正確には川ではありません」
「川じゃない?じゃあ何が流れてるんだ?」
「何がって言われるとただの海水なんですが……この水路は運河として利用されてるんです」
「……あーなるほどね。ボートがよくあるのはそのためだからか」
納得した様子。
「よくそんなの知ってたな」
「ふっふっふ……これでも頭はいい方なんです!特に地理は大得意でしたよ!」
誇らしげに胸を張る。微笑ましいその光景にカエデの顔が綻んだ。
「じゃあ俺からも問題だ。この街では年に数回アックア・アルタと呼ばれる現象が起こるんだ。それはなんだと思う?」
「舐めてもらっちゃあ困りますよカエデさん。『高潮』でしょ」
「正解だ。やっぱり頭いいな」
照れくさそうに鼻をかく。
「ちなみにアックア・アルタの意味は知ってますか?」
「え?普通に高潮じゃないのか?」
「アックア・アルタ。大潮と低気圧と東南から吹くシロッコと呼ばれる風が重なることによって起こる異常潮位です。地盤が一番低いマルコ・シャイン広場は毎回水没するんですよ」
凄い知識量だ。問題を出したカエデがむしろ教えられている。
「――ヘキオンには叶わないな。問題を出したこっちが恥ずかしくなってきたぞ」
「強さでは負けますが、頭の良さなら私の方が上ですね!」
「ならギブアンドテイクだ。俺が鍛えてやるから、ヘキオンも俺に色々教えてくれよ」
「いいですねそれ!カエデさんの頭をビシバシ鍛えていきますよ!」
「ははは。楽しみにしてるよ」
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そういえば、から続けるヘキオン。
「えーっと……100人中……10番くらい」
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「あははー。そう?」
「……」
「……」
「本当は?」
「……下から数えて10番です」
吹き出すヘキオン。いつもの頼れる感じやサバイバルの知識からは想像もできない。ヘキオンはそのギャップにやられたようだ。
「これでも頑張って5位は取ったんだそ!1回だけだけど!」
「あはは!……ごめんなさい。なんか思ってたよりも悪くって……ふふふ」
「笑うなよー!」
プンスコ怒るカエデ。どことなくその怒り方はヘキオンと似ていた。
続く
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