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2章「宝石が並ぶ村」
66話「逃走戦闘!」
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着地。中は松明で明るい。直線の奥まで見える。奥の行き止まりにはハシゴ。上に上がれる場所だ。村から隠れて逃げるための物だろう。
ナイフを取り出す。すぐ近くにクリスタリアンがいるのは分かっている。
ウォーカーはまだレベルが低い。全身宝石のクリスタリアンが相手だとキツい。
スプリングはレベルが高い。しかし暗殺者。正面戦闘はかなり苦手。1体1なら倒せるだろうが、2対1だと勝てる可能性は低いだろう。
長い道の壁。一つだけ部屋がある。不自然な部屋。
スプリングが指をトントンと地面で叩く。これは二人の間での合図。意味は「ここで待機していろ」という意味だ。
コクリと頷き構える。いつでも戦闘に参加できるように気を張った。
音を立てずに扉へと近づく。扉まで残り3m。
――狙いは一瞬。
ナイフを前に構える。残り2m。
――ごく短い間でことを済ませる。
息を吐く。残り1m。
バタン!
先に扉を開けたのは相手だった。
「とりあえず村長と私で上の人間を足止め、その隙に奥さんがそのガキを連れて逃げるってことでいいですね!」
「問題ない」
「……」
「大丈夫だ。ちゃんと生きて帰るから――」
クリスタリアン3人と目が合った。相手はウォーカー。まだ隠密技が未熟なうえ、身を隠す場所もないのが原因。
「な、なんだお前!?なぜここに!!」
「――うぇ……あ、あなたたちの好きにはさせない!!」
いきなり出てくるとは思っていなかったウォーカー。とりあえずスプリングから気を逸らすために声を出している。
肝心のスプリング。咄嗟の出来事だったが、すぐさま扉の裏へと身を隠していた。これでもプロの暗殺者。この程度の判断力は持っていて当然だ。
「クソっ……たかが小娘1人!村長と私の2人がかりなら殺せます!奥さんは早く逃げて!」
こちらもいい判断力。ヘキオンを抱えた村長の妻が奥へと走り出した。
「はやく殺して上へ行かないと――」
切り裂かれる首。一瞬。一瞬の出来事。ウォーカーに意識が完全に行っていたその時。
扉から飛び出したスプリングがクリスタリアンの首を切り裂いた。鉄のナイフが宝石を斬る。普通ならありえないような状況。こんな芸当ができるのには理由がある。
それはスプリングの技。というよりか、暗殺者特有の技。その名もロストライフ。
完全な不意打ち。自分が意識外から放った一撃は防ぐことができない技。例え相手が鎧を着ていようがなんだろうが、その上から必ず切り裂くことができる。クリスタリアンの体を切り裂けたのもこれのおかげだ。
一見無敵なこの技。もちろん弱点は存在する。それは相手が自分を完全に認識していない状態でしか発動しないということ。
つまり1度いると認識されればもう発動することはできない。煙幕を使って身を隠しても、物陰に潜んだとしても、誰かがいるとバレればアウト。
まともに発動させられるのは、完全な初見時のみ。それも単体相手でしか使えない。複数相手では自分の存在がバレてしまうからだ。
スプリングの狙いはあくまでもヘキオンの奪還。殺すのが目的ではない。
「ウォーカー!!ヘキオンを取り戻せ!!」
「わかった!!」
叫ぶ。バレた以上、暗殺者の技は使えない。使っても意味が無い。真正面の戦闘となる。
「まだ居たかっっ――!!」
すぐに振られるナイフ。銀色の刃は村長の首筋で止まる。
「逃げていればいいものを……」
「悪いな……契約破棄だ!!」
2人の横を影が走り抜ける。向かう先は村長の妻。速いのはウォーカーだ。
暗殺者の下位職業である盗賊ではロストライフを使うことはできない。だがさっきも言ったように、あくまでも目的はヘキオンの奪還。殺すことではない。
膨れるふくらはぎ。踏みしめるのは地面。ほんのりと魔力が空間を歪ませた。
「カマイタチ!!」
飛び上がる。大きく飛び上がる。それこそ天井にぶち当たるくらいに。
天井にぶつかる直前。体を捻って天井に着地する。ウォーカーのところだけ重力が逆になったようだ。
支えは天井。踏み込むのは天井。地面を天井とし、もう一度飛び上がった。
それは1つの線のように。ピンと伸びた体が地面に発射された。
「――!?」
村長の妻が振り向く。後ろの異様な音に気を取られた。まるで重いもの同士がぶつかるかのような音。それでいてバネのように軽やか。
違和感を持つのも当然。ふたつの相反する音が耳に入ってきたのだ。
地面と天井。パチンコのように反発し続けてパワーは増幅させられている。
「なに――」
溜められたパワーは1点へ。反応するよりも速く。丸腰の背中をナイフが切り裂いた。
「っっ――ぁぁ!」
深い。深い傷だ。痛みと衝撃。ふたつが同時に脳内を駆け巡る。立っていられるはずはない。
ドサリとその場に転ける。抱えたヘキオンが前へと投げ飛ばされた。
「――ヘキオンさん!」
続く
ナイフを取り出す。すぐ近くにクリスタリアンがいるのは分かっている。
ウォーカーはまだレベルが低い。全身宝石のクリスタリアンが相手だとキツい。
スプリングはレベルが高い。しかし暗殺者。正面戦闘はかなり苦手。1体1なら倒せるだろうが、2対1だと勝てる可能性は低いだろう。
長い道の壁。一つだけ部屋がある。不自然な部屋。
スプリングが指をトントンと地面で叩く。これは二人の間での合図。意味は「ここで待機していろ」という意味だ。
コクリと頷き構える。いつでも戦闘に参加できるように気を張った。
音を立てずに扉へと近づく。扉まで残り3m。
――狙いは一瞬。
ナイフを前に構える。残り2m。
――ごく短い間でことを済ませる。
息を吐く。残り1m。
バタン!
先に扉を開けたのは相手だった。
「とりあえず村長と私で上の人間を足止め、その隙に奥さんがそのガキを連れて逃げるってことでいいですね!」
「問題ない」
「……」
「大丈夫だ。ちゃんと生きて帰るから――」
クリスタリアン3人と目が合った。相手はウォーカー。まだ隠密技が未熟なうえ、身を隠す場所もないのが原因。
「な、なんだお前!?なぜここに!!」
「――うぇ……あ、あなたたちの好きにはさせない!!」
いきなり出てくるとは思っていなかったウォーカー。とりあえずスプリングから気を逸らすために声を出している。
肝心のスプリング。咄嗟の出来事だったが、すぐさま扉の裏へと身を隠していた。これでもプロの暗殺者。この程度の判断力は持っていて当然だ。
「クソっ……たかが小娘1人!村長と私の2人がかりなら殺せます!奥さんは早く逃げて!」
こちらもいい判断力。ヘキオンを抱えた村長の妻が奥へと走り出した。
「はやく殺して上へ行かないと――」
切り裂かれる首。一瞬。一瞬の出来事。ウォーカーに意識が完全に行っていたその時。
扉から飛び出したスプリングがクリスタリアンの首を切り裂いた。鉄のナイフが宝石を斬る。普通ならありえないような状況。こんな芸当ができるのには理由がある。
それはスプリングの技。というよりか、暗殺者特有の技。その名もロストライフ。
完全な不意打ち。自分が意識外から放った一撃は防ぐことができない技。例え相手が鎧を着ていようがなんだろうが、その上から必ず切り裂くことができる。クリスタリアンの体を切り裂けたのもこれのおかげだ。
一見無敵なこの技。もちろん弱点は存在する。それは相手が自分を完全に認識していない状態でしか発動しないということ。
つまり1度いると認識されればもう発動することはできない。煙幕を使って身を隠しても、物陰に潜んだとしても、誰かがいるとバレればアウト。
まともに発動させられるのは、完全な初見時のみ。それも単体相手でしか使えない。複数相手では自分の存在がバレてしまうからだ。
スプリングの狙いはあくまでもヘキオンの奪還。殺すのが目的ではない。
「ウォーカー!!ヘキオンを取り戻せ!!」
「わかった!!」
叫ぶ。バレた以上、暗殺者の技は使えない。使っても意味が無い。真正面の戦闘となる。
「まだ居たかっっ――!!」
すぐに振られるナイフ。銀色の刃は村長の首筋で止まる。
「逃げていればいいものを……」
「悪いな……契約破棄だ!!」
2人の横を影が走り抜ける。向かう先は村長の妻。速いのはウォーカーだ。
暗殺者の下位職業である盗賊ではロストライフを使うことはできない。だがさっきも言ったように、あくまでも目的はヘキオンの奪還。殺すことではない。
膨れるふくらはぎ。踏みしめるのは地面。ほんのりと魔力が空間を歪ませた。
「カマイタチ!!」
飛び上がる。大きく飛び上がる。それこそ天井にぶち当たるくらいに。
天井にぶつかる直前。体を捻って天井に着地する。ウォーカーのところだけ重力が逆になったようだ。
支えは天井。踏み込むのは天井。地面を天井とし、もう一度飛び上がった。
それは1つの線のように。ピンと伸びた体が地面に発射された。
「――!?」
村長の妻が振り向く。後ろの異様な音に気を取られた。まるで重いもの同士がぶつかるかのような音。それでいてバネのように軽やか。
違和感を持つのも当然。ふたつの相反する音が耳に入ってきたのだ。
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「なに――」
溜められたパワーは1点へ。反応するよりも速く。丸腰の背中をナイフが切り裂いた。
「っっ――ぁぁ!」
深い。深い傷だ。痛みと衝撃。ふたつが同時に脳内を駆け巡る。立っていられるはずはない。
ドサリとその場に転ける。抱えたヘキオンが前へと投げ飛ばされた。
「――ヘキオンさん!」
続く
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