無職で何が悪い!

アタラクシア

文字の大きさ
上 下
65 / 117
2章「宝石が並ぶ村」

65話「早く向かえ!」

しおりを挟む
上から降り注ぐ砂粒。何かが揺れている感覚をヘキオンは感じた。

「……なんだ?地震か?」
「また?ちょっと前にも起きてたわよね。確か地割れが起きてて……この子って地割れから落ちてきたのかしら」

ぐったり。内蔵、口内、喉のダメージ。抵抗も動く余力もない。ただだらんと吊られている。


「まぁいいでしょう。さぁてね、まだまだ出してくれるわよね――」

殴ろうとした時。扉が強く開かれた。現れたのは1人のクリスタリアン。

「なんだ。今はパートルズを集めているところなんだが――」
「緊急事態です!!上で……上で人間が暴れています!!」
「……は?」

振り向く村長。ぐったりとしているヘキオンの髪を掴み、自分の方へ向けさせる。

「お前……仲間がいたのか?」
「……」
「いたのかと聞いているんだ!!!」

顔を殴る。残っていた口内の血が地面に吐き捨てられた。


「クソ……数は?」
「それが……その……」
「なんだ、はっきり言え!!」
「――1人です」
「……な、何を言ってるんだ?1人?1人ならさっさと殺せばいいだろう?」
「それが……とんでもなく強いんです……既に何人も殺されました」

流れ落ちる血。重くなった脳を持ち上げながら

「――カエデ……さん……」

そう呟いた。









走る。カエデが走っていた道を走り抜ける。呼吸を乱し、地面を踏み込み続けていた。

「カエデは大丈夫かな?」
「……それよりも心配するべきはヘキオンだ。まだ生きてるといいが」

見えるは光刺。その奥での音に冷や汗をかきながら、男と少女はその光に身を包んだ――。




「――これは……」

踏み込んだ地面。砂のような感触を足裏から感じた。キラキラした美しい砂。サラサラした柔らかな小砂たち。地面に散漫していたのはそれだ。

それがなにか。ウォーカーはあまりピンときていなかった。だがなんとなくそれを理解することはできる。

スプリングはハッキリとそれがわかった。それがなにか、それをしたのは誰か。頭でも、心でも、体でも理解できた。


奥で聞こえるのは怒号。怒りに満ちた声。聞いてるだけで足がすくむ。

「――カエデ」

その声の主がカエデというのはすぐに分かった。


「……今のアイツに会うのは危険だな」
「そんなのは分かってるよ」

2人に纏われる黒い影。ダークナイト私は黒く。色を消し、自分の存在感を消す技。単純な技だが、レベルが上がるほどにその効力は強くなる。

「村長の家だ。そこにさえ行ければなにかはあるはず」

纏われる青白い光。サイレント音よ、消えよ。単純に自分の発する音を消す技だ。これは他者にも分け与えることができる。サイレントはウォーカーにも分け与えられた。

「すぐに終わらせるぞ」
「――了解」

2人の仕事が開始された。









「ここだ」

村長の家。まだギリギリ建物が残っていた。すぐ近くに雷のような声を出すカエデがいる。

その怒り方で分かる。もう正気ではない。会えば殺される。見つからないようにしなければならない。それなら2人の得意分野。いつもしてきたことだ。




音を極限まで減らし、その家の扉を開ける。

中はまだ明るい。先程までヘキオンたちと居た机にはまだ食事が置かれてあった。

「解析する。少し離れていろ」

ウォーカーを後ろへ。片手を前にして魔力を込める。手先は紫色に。オーラが圧縮して手の中に収まる。


ローカルマップ私は全てを見透かす


収まった光は家の全てを包み込んだ。情報が頭の中へと入っていく。家具の位置、家の構造、食料の数、ホコリの数までもが形や数字となって脳内に刻まれる。


「――見つけた!」

走るスプリング。目的地は台所。冷蔵庫の下。

「何を見つけたの?」
「穴だ。隠し部屋。地下に広がってる場所がある!」

スプリングよりふた周りもでかい冷蔵庫を倒した。その下。確かに穴がある。大人でも余裕で入れそうな穴。

そこまで深くはない。3mほど。着地すれば足がジーンとするぐらいの深さだ。

「……気おつけてろ。相手はクリスタリアンだ。お前がまともに戦うのはキツいぞ」
「うん!」

隠し穴へと突入。怒りで暴れるカエデに耳を傾けながら。












続く
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

処理中です...