無職で何が悪い!

アタラクシア

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2章「宝石が並ぶ村」

53話「パートルズエルブレア!」

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「ゴホン」

咳払いをする村長。緩まった雰囲気を締め直す。

「話を始めようか。……君たちの望みはなんだ?」
「ここを出る方法を教えて――」

「……はい?」

声を遮る。初めて聞く単語に意識が固まるヘキオン。

「パートルズエルブレアを少しくれ。あとここから出る方法もだ」
「……それはダメだ。せめてどちらか1つにしてもらおうかな」
「ならいい。ここから出る方法を教えてくれ」

わけが分かっていないヘキオンを置いて話を進めている。

「ちょっ、ちょっと待ってください!パートルズエルブレアってなんですか?」
「クリスタリアンが16と18歳の成人時に1回吐き出すとされているパートルズという宝石がある。それを集めて固めたもの。それがパートルズエルブレアだ」
「人間たちの金価値でいうと、1カラットほどで500億はある」
「1カラットで500億!?」

あまりの大きさの金額。基本金欠のヘキオンにとって驚きどころの騒ぎではなかった。ちなみに1カラットは0.2gである。

「……やっぱり目的は金か」
「金じゃないさ。売りに行ったところで、俺まで捕まって売られるしな。デメリットの方が大きい」
「じゃあ目的はなんなんだ」
「――妹を人間にする」


真剣な目。全ての言葉に真実が宿る。そう思えるほどの目。ヘキオンもリーダーもその言葉が嘘だとは思えなかった。

「妹を人間って……そんなことどうやってするんだ?」
「魔力の作り方は知ってるな?」
「当たり前だ。酸素を魔力に変換させるのだろう」

今までもちょくちょくあったが、ここでこの世界における魔力について説明しておこう。



魔力。魔法を扱うために必要な力。魔力が少なければ使える魔法の時間も数も少なく、魔力が多ければ使える魔法の時間も数も多くなる。

魔力は全ての生物が持っている。例外はない。生物である以上、全ての生命が魔力をもっているのだ。


魔力を作るためには呼吸をする必要がある。息を止めれば、体内に残っていた魔力を使い切るまでしか魔法を扱うことはできない。

その理由は細胞内にある魔力因子にある。

魔力因子は酸素を媒体として魔力を生み出すことができる。組織液によって運ばれてきた酸素を半分ほど受け取り、それを魔力に変換し蓄える。

魔力因子の数には個体差がある。もちろん多ければ多いほど魔力を大量に得れるし、少ないほど持てる魔力が少ない。

冒険者の職業は魔力因子の数によってある程度の適性がある。例えば魔力因子が多ければ魔法使いがよく適しているし、少なければ格闘家などの魔力を使わない職業が適している。


本来受け取るべき酸素が半分になる。体を動かすのに影響がないわけが無い。

簡単に言うと、魔力因子が多いほど運動能力が低くなる。なので魔法使いのほとんど全てが運動能力が低い。魔法使いが後方から攻撃するのはそのためだ。今のところ、出てきている魔法使いは前線でバンバン戦うヘキオンしか出ていないが。


魔力とは違い、魔力因子にはがある。それは魔人と魔物である。

他種族に危害を加える魔人と魔物。その2種族には魔力因子はない。だが魔法は普通に使う。それはなぜか。

その理由として他種族にはない「魔吸臓まきゅうぞう」と呼ばれる器官がある。

魔力因子を持たない魔人や魔物は自分で魔力を生成することはできない。ならどうするか。簡単だ。

そこら辺にある食べ物。ネリオミアにある全ての物にはほんの少しではあるが、魔力を蓄えられてある。それを喰らえば魔吸臓に貯められる。もちろんそれでもいい。

だがそれだと効率が悪いのは分かるな。いい方法がある。もっと魔力をもっているやつがあるだろう。


そうだ。他種族だ。食べ物なんかよりも沢山魔力を持っている。他種族を食べればもっと簡単に貯めることができるのだ。

だから魔人や魔物は他種族を襲うのだ。魔力を得るために。



「クリスタリアンがパートルズエルブレアを吐き出す理由は?」
「……魔力因子を固めて吐き出すため」


魔力因子は人体において、ほとんど不純物。魔力因子があるとクリスタリアンの体は本来の硬さや輝きが出ない。

そのため溜まった魔力因子のほとんどを吐き出す。吐き出す際に飛び散らないようにするため、宝石で因子を固める。そのためパートルズには魔力を溜め込まれているのだ。

それを集めて固めた物。凄まじい魔力量となっているだろう。


「俺に必要なのは魔力だ。俺の魔力因子はかなり少ない。人の種族を変えるのには大量の魔力を使う。今の俺では到底不可能だ」
「……それでパートルズエルブレアが欲しいと?」
「他の種族は信用できない。俺自身。俺自身でするんだ」
「……なるほどね」

真剣な話をしている2人。話についていけてないヘキオンはポカンとしていた。


「――事情は分かった。同情もしよう。だが私たちにとってもアレは必要なものだ」
「それは分かってる。だから――」
「話を聞け。……残念だが私は君たちを信頼できていない。信頼できないヤツらに大切なパートルズエルブレアを渡すことはできない。欠片でもな」

立ち上がるリーダー。

「だが同情はする。私はそう言った。だからお前たちにチャンスをやろう。私を信頼させてみろ」












続く
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