無職で何が悪い!

アタラクシア

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1章「対立するエルフの森」

44話「先は永く!」

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――ほんの少し前。


壊れたウッドエルフの村。そこに集結していたのはダークエルフだ。もちろんウッドエルフもいる。

その中心。そこにいるのはウッドエルフの村長とダークエルフの長老だった。

「……会うのは……久しぶりだな」

先に言葉を発したのはウッドエルフの長老。

「……あぁ……」
「……私は後でいい。先に言いたいことを喋れ」

大きく深呼吸する長老。覚悟を決め、話し出した。

「謝っても許されないことは分かる。取り返しのつかないことをした。それでも……謝らせてくれ」



地面に額を擦り付ける。そんな長老の真似をするかのように、他のダークエルフも地面に額を擦り付けた。

「本当に申し訳ないことをした……どうか許さないでくれ。ずっと恨んでいてくれ……」

土下座。他のダークエルフも見たことの無い姿だ。そんな長老を見下ろす村長。

「……表を上げろ」

ゆっくりと顔を上げる長老。

「……本当は……お前をこの場で殺してやりたいさ。ダークエルフを殺してやりたいさ。……だがな、そんなことをすれば恨みができる。それは子供の代にまで響くだろう。……私は子供にはそんなことをさせたくない。幸せにすくすくのびのびと育って欲しい」

村長は今までにないほど優しい顔でこう言った。

「どちらかが大人になる時が来たんだ。……私は許す。すぐにはできないかもしれない。今の子供たちには刷り込みをしてしまったからな。……だけど……いつか、ウッドエルフとダークエルフが共に暮らせるようになろう。2種族で幸せになろう」
「……ありがとうッ……ありがとうッッ」

熱い抱擁を交わす2人。周りでは歓声が起きていた。


「――クエッテ」
「――ザッシュ!!」

涙。歓喜の涙。喜びの涙。嬉し涙。涙。顔に包帯を巻いたクエッテとザッシュは海ができるほどの涙を出し、熱く抱きしめあっていた。

この場。
この時。

ふたつの種族が仲直りをした。長い長い恨み合い。それを終わらせたのは……誰が個人を言うべきではないだろう。


1人の少女に1人の少年。1人のウッドエルフに1人のダークエルフ。その他のみんな。

それは必然だったのだろうか。それとも偶然だったのだろうか。はたまた運命と言うやつか。それは神様にしか分からないのだった……。





――そうしてまた2日後。


「本当にありがとう……」
「こちらこそ。楽しかったよ」

ヘキオンをギュッと抱きしめるクエッテ。

「……俺らもやっとく?」
「お前がやりたいならいいけど」

ぎこちないハグをする2人。村の人達で笑いが起きる。


ウッドエルフとダークエルフは一緒に住み始めた。ちゃんと心を開くためには一緒に暮らすのが1番だからだ。

まだまだ心配事も多い。それでもいつかはちゃんと分かち合える時が来るだろう。


役目を終えたと理解したふたりはまた旅に出るのだった。バックは燃やされたので、食料と水をおすそ分けしてもらっている。

「暇ができたら……またここに来いよ」
「あぁ。そうさしてもらう」

クスッと笑うクエッテ。

「まさかね……カエデの言う通りになるとは」
「あくまで成り行きだ。俺が想定してた感じじゃない」
「それでもやってくれた。……本当に感謝してる」
「その感謝。心の中で受け取っとくよ」

胸をコツンと殴られるカエデ。




「じゃあもうそろそろ――」
「ちょっと待ってヘキオン」

行こうとするヘキオンを止めた。

「どうしたの?」
「ちょっと気になることがね……」


近くにいた長老の肩を叩き、木の裏に連れ込む。

「なぁ気になることがあるんだ」
「なんだ?それをなぜワシに?」
「……古き物の柱。あそこは男しか入れなかったよな?」
「……そうだ」
「なんで男しか入れないんだ?」
「やはり……そこが気になるよな」

コソコソと話す2人。みんなは不思議そうに2人を見つめている。

「お前なら教えても大丈夫だろう。それはな――」







木の木陰から出てくる2人。

「おまたせヘキオン。それじゃあ行くか」
「2人で何を話してたんですか?」
「それは秘密」
「えー。教えてくださいよー」
「だーめ。男同士の秘密なんだよ」
「ちぇー。ケチ」

頬を膨らませるヘキオン。なんだかリスみたいだ。小動物みたいで可愛い。


「それじゃあ……本当にさよならだね」
「またいつか……」

手を振るクエッテとザッシュ。その顔には寂しさと感謝を混ぜたような表情があった。

そんな見送るふたり。それに手を振る旅人ふたり。それは見えなくなっても手を振り続けていたのだった。




「行っちゃったね」

クエッテが呟く。ザッシュは静かに「うん」と一言。

「嵐のような人たちだったな……」
「嵐にしては、随分といいことの方が多かったけどね」

手を繋ぐ2人。クエッテの細い指とザッシュの太い指が絡まる。

「……あの二人も俺らみたいにくっつけばいいんだがな」
「片方はまだそのつもりはないらしいけどね」

優しい笑い。幸せな空間。暖かい言葉で埋め尽くされた領域。ふたりは幸せそうに笑い合う。


そんなふたりを影で見る男。フラグメンツだ。

「……ふん」

フラグメンツは寂しそうに、だけどどこか満足したかのような笑みを浮かべると、どこかへと歩いていったのであった。








「ふぅふぅ」

森を歩くカエデとヘキオン。

「色んなことがあったけど……楽しかったですね」
「そうだな……来てよかっただろ?」
「はい!」

ヘキオンが日差しに照らされた笑みを浮かべる。そんなヘキオンの笑みを見た時、カエデの脳内によぎったのは『結婚』という漢字2文字であった。

真っ赤になるカエデ。ヘキオンはそんなカエデを見てないようだ。

「ところでこの森ってあとどれくらいで抜けれるんですかね?」
「――え?あ、あぁ。確かな……後ちょっとだったような」
「後ちょっと!ちょっと悲しい感じもするけど、やった!」

ぴょんぴょん跳ねて喜びを表現する。

「それで?どれくらいなんですか?」
「えーっと確か……10kmくらいだね」
「へぇ。10kmかぁ」
「……」
「……」




















「――いやそれ後ちょっとって言わないからぁぁぁぁ!!!!」












続く
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