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1章「対立するエルフの森」
38話「植え付けられる感情!」
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風圧。圧倒的な風圧。高密度なエネルギーのぶつかり合いによる破壊力。その爆心地から離れていても感じるパワー。
へし折れる木々。樹齢ウン十年はあるだろう木が一瞬にして無に返された。
「っっ…………っう!」
超高圧放出される水。反動を支える脚の地面はヒビを入れて何とかヘキオンを支えている。風圧に髪と服を揺らしながら、放出する水に意識を向けていた。
『ぐぅ……クソッタレめ……まだ全開の出力が出せん……』
超高密度に放出される雷。大地を踏み締める脚の筋肉はピキピキと唸りをあげている。風圧でなびく体毛。青白い雷は麒麟の体を這いながら、高密度雷球体へと向かっている。
高い音をだすぶつかり合い。ふたつのエネルギーの中心。持続すればこの森ごと崩壊させてしまうだろう。
そうなればヘキオンは死ぬ。麒麟からしたらそうする方が得策だ。このまま戦っても強さが同程度なので泥試合になることは確実。
ならば相打ちとなってもここで殺すべきだ。それは明白。頭でも簡単に理解できる。
しかし麒麟にはそれができない。なぜかって?
『……く、クソっ』
恐怖だ。死への恐怖。痛みへの恐怖。生物である以上、痛覚を持って産まれてきた以上。それは避けることができない。
ヘキオンと麒麟との耐久力差は圧倒的。このまま森が消し飛ぶほどの爆発が起きても麒麟はギリギリ生き残るだろう。
このギリギリというのがみそだ。苦しみ。痛み。想像するだけで地獄。
神に近いとされる種族に産まれてきた麒麟にとって、痛みなど程遠い存在だった。死など程遠い存在だった。それが今間近に迫っている。それも人間という下等種族によって。
ここまでの事柄から見て麒麟の判断を予測することは至極簡単なことだろう。
『――っっ!』
麒麟とヘキオン、それと膨大なエネルギーの3つを覆う緑のドーム。ふわふわ、ぷかぷか、ぷにぷにしている。メルヘン世界にあっても疑問はない。
「――こ、これは!?」
ヘキオンが反応する。だが反応したところでなにかできるわけでもない。少しでも力を抜けば押し負ける。そうなれば生き残る手段はない。
緑のドームは段々と小さくなっていき、ヘキオンと麒麟に圧迫感を与えていった。
バチりと光る閃光。視界が一瞬だけ緑に染められる。
『――リベリオン』
瞬間。放っていた魔法が消えた。
広大だったエネルギーがゼロへと戻される。2人が放っていた魔法も根元から消失した。
「うぇ!?……あれ?なんで無くなったの!?」
焦った様子で両手を見る。当然だ。自分がわざと消したのではないからだ。
リベリオン。麒麟などの幻獣種のみが使える技。一定の範囲内の魔法、それによって起きたエネルギーを全てゼロにすることができる。自分や他人の魔法などは関係なく、それが魔法である限りは全て消すことができる。
『はぁ……はぁ……か……はぁ……』
この技は膨大な魔力、そして体力を使う。封印から復活した麒麟は本来の100分の1の魔力も持っていなかった。
なおかつ封印解除直後なので魔法も最大限使うことが出来ていない。つまり必要以上の魔力を使ってしまったということだ。
ただでさえ消えかかっている魔力を無駄に根こそぎ使ってしまった。ヘキオンの強さも麒麟にとっては予想外。麒麟からしたら何もかもが予想外の出来事である。
「な、なにをしたの!?」
『……さぁな』
揺れる頭を整え、定位置まであげる。もうひとつ麒麟が予測していることがあった。
それはヘキオンの魔力量。出力は低いとはいえ、自分の必殺技と同等の威力の技を放っていた。そんなレベルの技を使えば魔力を大幅に削られるのは必須。
それ以前にヘキオンは魔法を大量に使っている。水で殴ったり、水を圧縮膨張させたり、水で空を飛んだり。魔力が枯渇していても不思議ではない。
麒麟が狙っているのはそこ。自分自身も魔力が削られているが、ヘキオンを殺せるくらいの量は残っている。そう確信していた。
そうなれば自分は殺せる。この目障りな人間を殺せる。とも。
「――まぁいいや。今のが必殺技なんだったらある程度の強さの上限は理解することができたし」
ヘキオンは割とケロッとしていた。
通常は魔力が減れば身体面にも影響が出る。呼吸数が多くなったり、体の動きに支障が出たり、心臓の鼓動が速くなったりなどだ。
しかしヘキオンからはそんなのを感じ取ることはできない。ただいつも通りに佇んでいる。
「私はまだまだ元気だよ!!」
手に水を纏わせ、まるで疲れてないかのように構えた。
『――なんなんだ……お前は。……なぜ魔力が減っていない……?』
唖然とする麒麟。初めて驚いたような表情を見せた。
「さぁ。私って昔から人より魔力が多かったし」
『にしても限度があるぞ……何かを隠しているな?』
「別に隠してなんかない。あなたが深読みしているだけ。私はただの人間だよ!」
『――クソッタレめ……』
麒麟は唖然とした顔をすぐに直し、戦闘態勢をとった。
見た目は普通だ。しかし麒麟の心の中には、初めて恐怖という感情が産まれてこようとしていた。
続く
へし折れる木々。樹齢ウン十年はあるだろう木が一瞬にして無に返された。
「っっ…………っう!」
超高圧放出される水。反動を支える脚の地面はヒビを入れて何とかヘキオンを支えている。風圧に髪と服を揺らしながら、放出する水に意識を向けていた。
『ぐぅ……クソッタレめ……まだ全開の出力が出せん……』
超高密度に放出される雷。大地を踏み締める脚の筋肉はピキピキと唸りをあげている。風圧でなびく体毛。青白い雷は麒麟の体を這いながら、高密度雷球体へと向かっている。
高い音をだすぶつかり合い。ふたつのエネルギーの中心。持続すればこの森ごと崩壊させてしまうだろう。
そうなればヘキオンは死ぬ。麒麟からしたらそうする方が得策だ。このまま戦っても強さが同程度なので泥試合になることは確実。
ならば相打ちとなってもここで殺すべきだ。それは明白。頭でも簡単に理解できる。
しかし麒麟にはそれができない。なぜかって?
『……く、クソっ』
恐怖だ。死への恐怖。痛みへの恐怖。生物である以上、痛覚を持って産まれてきた以上。それは避けることができない。
ヘキオンと麒麟との耐久力差は圧倒的。このまま森が消し飛ぶほどの爆発が起きても麒麟はギリギリ生き残るだろう。
このギリギリというのがみそだ。苦しみ。痛み。想像するだけで地獄。
神に近いとされる種族に産まれてきた麒麟にとって、痛みなど程遠い存在だった。死など程遠い存在だった。それが今間近に迫っている。それも人間という下等種族によって。
ここまでの事柄から見て麒麟の判断を予測することは至極簡単なことだろう。
『――っっ!』
麒麟とヘキオン、それと膨大なエネルギーの3つを覆う緑のドーム。ふわふわ、ぷかぷか、ぷにぷにしている。メルヘン世界にあっても疑問はない。
「――こ、これは!?」
ヘキオンが反応する。だが反応したところでなにかできるわけでもない。少しでも力を抜けば押し負ける。そうなれば生き残る手段はない。
緑のドームは段々と小さくなっていき、ヘキオンと麒麟に圧迫感を与えていった。
バチりと光る閃光。視界が一瞬だけ緑に染められる。
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瞬間。放っていた魔法が消えた。
広大だったエネルギーがゼロへと戻される。2人が放っていた魔法も根元から消失した。
「うぇ!?……あれ?なんで無くなったの!?」
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『はぁ……はぁ……か……はぁ……』
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なおかつ封印解除直後なので魔法も最大限使うことが出来ていない。つまり必要以上の魔力を使ってしまったということだ。
ただでさえ消えかかっている魔力を無駄に根こそぎ使ってしまった。ヘキオンの強さも麒麟にとっては予想外。麒麟からしたら何もかもが予想外の出来事である。
「な、なにをしたの!?」
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揺れる頭を整え、定位置まであげる。もうひとつ麒麟が予測していることがあった。
それはヘキオンの魔力量。出力は低いとはいえ、自分の必殺技と同等の威力の技を放っていた。そんなレベルの技を使えば魔力を大幅に削られるのは必須。
それ以前にヘキオンは魔法を大量に使っている。水で殴ったり、水を圧縮膨張させたり、水で空を飛んだり。魔力が枯渇していても不思議ではない。
麒麟が狙っているのはそこ。自分自身も魔力が削られているが、ヘキオンを殺せるくらいの量は残っている。そう確信していた。
そうなれば自分は殺せる。この目障りな人間を殺せる。とも。
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ヘキオンは割とケロッとしていた。
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しかしヘキオンからはそんなのを感じ取ることはできない。ただいつも通りに佇んでいる。
「私はまだまだ元気だよ!!」
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「さぁ。私って昔から人より魔力が多かったし」
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『――クソッタレめ……』
麒麟は唖然とした顔をすぐに直し、戦闘態勢をとった。
見た目は普通だ。しかし麒麟の心の中には、初めて恐怖という感情が産まれてこようとしていた。
続く
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