無職で何が悪い!

アタラクシア

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1章「対立するエルフの森」

35話「対立と対照!」

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麒麟の頭上。今までとは違う形に雷が集まってきた。例えるのならば丸鋸。丸鋸を横にしたような形だ。それこそチェーンソーのような甲高い音をたてている。

首の振り。それと同時に雷の円がヘキオンに向かってきた。

「――!」

素早く上に飛び上がる。高速の攻撃。まるで新幹線のような速さでヘキオンの下を通過していった。


通り過ぎた雷の円。木々を切り倒して進み、挙句の果てには数十mはあろう大岩を一刀両断していった。当たればタダでは済まなかっただろう。

「や……やば……」

先程よりも強い。本気だ。本能でそれを感じ取ることができる。


ヘキオンの驚きなどお構い無しに続く攻撃。電磁球を造り出し目の前に設置した。

「わわ……」

空中に投げ出された体は電磁球へと抵抗なく引き寄せられる。

水を噴出して電磁球から離れるヘキオン。近くの木に捕まって磁力から逃れる。

「やっぱりあれが厄介だね……」

冷や汗をひとつ。頬を伝う汗に温度を感じていた。


一筋の天に昇る光が現れる。天を貫くほどの大きな雷の剣。今までの攻撃から見て、喰らえば即死は待ったナシ。

それはヘキオンは理解しているようだ。同じように水圧で範囲から回避する。

『鬱陶しい……ヤツめ!!』

大地に歪みを入れながら叩きつけられる雷の剣。地鳴りが山全体を揺らしていった。


再度掲げられる蒼銀の光。ヘキオンからしたら対応することなどは容易い。

水を放って攻撃範囲から避ける。と、同時にヘキオンの横を雷の剣が通り過ぎる。

『消えろ!!』
「ちょっ――」

叩きつけられた雷の剣が横へと薙ぎ払われる。

草刈りのように刈られる木。もはや刈られるというより消し飛ばされている。高熱のレーザー光線のように発射され続ける剣。


横には逃げられない。ならば上。


下に水圧を放って間一髪で上空に逃げる。

「あっぶな……」

下を軽く見るヘキオン。

地面は根こそぎ削られており、岩石ごと抉られたことによって地面はガタガタではなくサラサラとなっている。


「今度は私の番だ!!」

片足に水を集中させる。集中させた脚を鞭のようにしならせ、麒麟に向かって強く振った。

「――アクアスラッシュ水切り!!」

距離は離れている。脚が伸びるわけでもないので普通は当たらない。


ヘキオンの振りと同時に放たれる水。鋭く尖った斬撃の軌道のように進んでいく。例えるのなら、水版のかまいたち。まさしくと言ったところだろう。

水は麒麟の体を切り裂いた。といっても表面の皮のみで筋肉やその中にまでは到達しなかったが。

『ぬぅ――』

思わず漏れ出る痛み。切れた傷からは血がタラタラと流れ落ちている。

『この……私に……傷を……!!』

怒りに燃える麒麟を他所に攻撃態勢を整えるヘキオン。地に足をつけ、サッカーボールを蹴るかのように脚を後ろへ振り上げている。

アクアスラッシュ水切り!!」

蹴り上げられる脚。同時に放たれる水の斬撃。地面を切り裂きながら麒麟に向かって突き進む。


『がぁッ――』

苦痛の声と共に飛び散る鮮血。




――麒麟は今まで自分の血を見たことはなかった。

自分が絶対強者だと確信していた。しかし今はどうだ。目の前には王としての、自分のプライドをズタズタにした下等種族がいる。




「――ぐぬぬ……」

右腕を麒麟に突き出し、その二の腕を左手で抑える。地面につけている脚に力を入れる。それは銃の反動を受け止めるかのように。

水が突き出したヘキオンの掌に集まる。大気中の水分が塊となり、大きくなってヘキオンの掌に集約されていく。集約された水はギュッギュッとおにぎりを握るかのように圧縮される。

首筋に浮かび上がる血管。ヘキオンの顔が苦痛に歪む。

「ぐぅぅ……あぁぁ……」

震える筋肉。増える呼吸数。噛み締める歯。圧縮してもなお段々と大きくなっていく水の塊。


『――調子に乗るなよ人間!!』

放電。飛び散る雷撃がヘキオンの横を通り過ぎていく。

『それは大技のつもりか!?そんなもので私を殺せるとでも!?』

頭を地面に下げ、角をヘキオンに向ける。青色の雷撃が角を染め上げた。

『殺せると思うのならばやってみろ……私は貴様を真正面から消し飛ばしてやる!!!』

角の前に青色の球体が浮かび上がる。見るからに高密度のエネルギーが詰まっているのがわかった。

『これで終わりだ人間!!細胞ひとつも残らず消滅させてやる!!』

浮かぶ草や砂鉄。あまりの電力に空間が歪んでいる。地獄のような禍々しい音が周りに響く。



――。



『――くたばれぇぇぇぇぇぇ!!!!』
「――アクアブラスト水の波導!!!!」

放たれる高圧の水。放たれる高出力の電気。

ふたつの高密度なエネルギーがぶつかり合った。












続く
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