無職で何が悪い!

アタラクシア

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1章「対立するエルフの森」

27話「解放される魔獣!」

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「――たっだいまー!」

ビチビチ動く魚を3匹手に持ちながら上がってきた。当たり前だが頭の先からつま先までびちゃびちゃである。

「おお!凄いね。素潜りでそんなに取れるんだ」
「ふふふ。実は私も田舎育ちだからね。よく素潜りとかしてたんだ!」

魚を地面に置く。陸に打ち上げられてもなおまだまだ元気に跳ねていた。新鮮さが見てとれる。

艶々の表面。まだまだ黒い目。色は白く、産卵期の鮭のようだ。腹はプックリ膨れており中身が詰まっていて美味しそう。

「これってなんの魚?」
「ここら辺ではユッコって呼ばれてる魚だよ。今がちょうど旬なんだ。これはお腹にたっぷり卵が入っているし絶対美味しいよこれ」

跳ねる魚のお腹をぷにぷにとつつく。弾力。指が弾むような弾力。触るだけで美味しいのが分かる。


「――そういえば……ヘキオン服大丈夫なの?」

びちゃびちゃのヘキオン。服が張り付き体のラインがピッタリと現れている。なかなかスタイルがいい。目を見張るものがある。カエデがいたら鼻血を出して卒倒しそうだ。

「ハハハ……」
「……」
「……どうしよ」







ここは洞窟。ウッドエルフたちの村の近くにある洞窟だ。名前は灯火の洞窟エンバースファイア

そんな洞窟にはウッドエルフたちの間で様々な噂がたてられていた。
(エルフ柱が建てられている)
(行った者は殺される)
(凶悪な殺人鬼が住んでいる)
根も葉もない噂だが、怖がって近づく者はいなかった。

真実を知る者は少ない。だが少ないと言うだけであって、というわけではない。

そんな洞窟に男が1人。白髪の老エルフ。この男は見たことがある。ウッドエルフの村の村長だ。

村長に近づく男がいた。灰色の皮膚に鋭い眼光。ザッシュだ。右手には宝玉が握られている。

「遅かったな。死んだかと思ったぞ」
「持ってきてやったんだ。……って約束は守ってもらうぞ」
「私は嘘はつかないぞ。着いてこい」

村長が洞窟の奥へ奥へと歩き始めた。少し渋った様子のザッシュだったが、覚悟を決めたようで村長に着いていくように歩き始める。




しばらく流れる静けさ。二人の仲は険悪なようで喋ろうともしない。洞窟の水滴が落ちる音が静けさを更に強めていた。

洞窟の中は湿っぽい空気が流れている。古き者の柱と比べるとその差は歴然だ。謎の不気味さもこちらが上手。

進む道はガタガタでジグザグだ。上下の移動も激しく、道も整えられていないので歩くのにもひと苦労するだろえ。しかしそんな道でも2人は息を切らすことなく歩き続けていた。


「――ここの伝説は知っているな」

先に話したのは村長だった。静寂だった空間に音が入る。

「……昔エルフたちを恐怖に陥れた殺人鬼が封印されている……みたいなやつか?」
「あながちそれらも間違いではないが……実際のところは少しだけ違う」
「じゃあ……一体何が?」


村長が足を止めた。ちょうどそこは行き止まりの場所。止まるのは自然だ。

しかし自然でない物がある。細い灰色の石の台座。丸いくぼみが1つある。まるで宝玉を入れてくださいと言わんばかりの丸いくぼみだ。

「幻の魔物。雷を司る神とまで言われており、その強大な力から過去のエルフたちが掃討した魔物。その幼体がここに封印されている」
「なぜその幼体は殺さなかったんだ?」

ザッシュがそう言うと、村長は目に見えてわかるほどに震え出した。目には恐怖の色が浮かんでいる。

恐怖しだした村長に少し驚く。村長は震える体からひり出すように声を出す。

「……。他の同種と比べても強すぎた。しかもその魔物はまだ産まれて間もなかった。レベルも低かった。……そんな状態でも殺そうとしたウッドエルフたちは50人以上死んだと言われている……もう少しでも成長していれば被害はさらに凄かったかもしれん」

固唾を飲むザッシュ。ただ疑問がある。多々あるが、その内の一つをザッシュは村長に問うた。

「……あんたが頼んだのは『ダークエルフを皆殺しにするために、古き者の柱にある宝玉を取ってこい』ってことだったよな?」
「いかにも」
「ずっと思っていたが、なぜそんなに回りくどいことをする。普通に殺してこいと命令すれば良いだろう。それにそんな魔物が出てきたらダークエルフどころか、お前たちウッドエルフも全員皆殺しにされるんじゃないか?」

震えていた村長の体がピタリと止まる。

「――それが目的だからだ」











その瞬間。ザッシュの肉体は地面に倒れた。

「――なっっ」

反応するまもなく、抵抗するまもなく、ザッシュは声を出した。体に静電気のようなものが流れている。それは音を立ててザッシュにダメージを与えていた。

「麻痺の魔法だ。しばらくそこで見ていろ」
「お……まえ……なに……を」
「……私だってこんなことはしたくない。ウッドエルフとダークエルフが一緒に暮らせるようにしたかった。それは本心だ」

涙がぽとりと流れる。シワシワの顔にほんのちょっぴりだけ潤いが宿った。

「だがダメだった。何年経っても憎しみが消えなかった。……貴様らがしてきたことを許すのは無理だった!!!私の嫁と娘にあんなことをした貴様らがな!!!」

台座を叩く村長。その口調、その表情、その眼。全てから怒りが伝わってくる。悲しみが伝わってくる。

「本当はお前とクエッテの結婚も許してやりたかった!!だがダークエルフのあの灰色の皮膚を見るだけで……見るだけで死にたくなってくる!!その気持ちがお前に分かるかぁ!!??」

その圧に押されてか、何も言えずにいるザッシュ。村長は涙を飛ばしながら話した。

「……村の村長である私がこのザマだ!!ウッドエルフとダークエルフが共存するのは無理なんだ!!……もうこれ以上……これ以上は……あんなことになって欲しくない……村のヤツらには悲しい思いをして欲しくない……」

村長の言葉は本心だろう。事実だろう。ありのままを伝えているのだろう。ザッシュもそのことが分かってるからこそ、反論することができずにいたのである。

「だから……もうこんなことは起こさせない。ウッドエルフもダークエルフも全員殺す。私とお前を含めてな!!」
「そ……んな……まて……やめろ!!」
「お前は前に『カエデという男が全て解決してくれる』と言っていたよな。だったらエルフ以外の被害は無いはずだ……もし被害が出たなら貴様のせいになる」

宝玉を振りかざした。痺れる体を無理矢理動かして宝玉を入れるのを止めようとする。

――しかしもう遅い。

「カシオペ……シオン……もうすぐ……そっちに行くぞ……」

宝玉は台座へと入れこまれた。












続く
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