無職で何が悪い!

アタラクシア

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1章「対立するエルフの森」

20話「麗しきエルフの森!」

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丁寧に作られた藁の家。広く取られたまっさらの木の柵。動物の皮が綺麗に干されており、真ん中の焚き火には多くのエルフが集まっていた。

子供のエルフ。青年のエルフ。老人のエルフ。年齢性別問わず、様々なエルフたちがそこにいた。

山の中にある不自然なほど平坦な大地。そこにクエッテの村があった。

「――ラペットガット村。ここが私たちが住んでいるところよ」

クエッテは村の扉を開けたのだった。





「おいクエッテ!!どういうつもりだ!!??」

クエッテが若い男に怒鳴られている。その後ろではビクビクしているヘキオンと平然としているカエデを軽蔑の眼差しで迎えるエルフたちがいた。

「……こうするしかなかった。とにかく村長に会わせて」
「会わせるわけないだろ!!今すぐその人間を殺せ!!そう命令されていただろ!!」

男がクエッテの胸元を掴んだ。親の仇を見るかのような目でクエッテを睨みつけている。

「おーおー野蛮だね。ちゃんと睡眠はとってるのか?」
「黙れ人間!!クエッテが殺さないなら俺が殺ってやる!!」

クエッテを突き放し、男がカエデの方に歩いてきた。腰から黒い短刀を取り出している。

ヘキオンはビビってカエデの後ろに隠れた。他人にここまで殺意を向けられるのは生まれて初めてだったからだろう。

「やめておけよ。クエッテは抵抗しなかったぞ?」
「それはあいつがビビりなだけだろ!!俺は違う!!俺はこの村で1番強いぞ!!」

大きい声を出して鼓舞をしている。しかしそれでは隠しきれない冷や汗が男の頬を通り過ぎた。

「ま、待って」
「ダメだ。こいつから仕掛けてくるんだ。殺されても仕方ないだろ。村人全員は殺さないさ」

制止しようとするクエッテを無視して男の方へ歩くカエデ。男は振り上げた短刀をカエデに向かって振り下ろしてきた――。







「やめんかァァァ!!!!!!」

瞬間。とんでもない怒号が村を包み込んだ。一瞬で男の動きが止まる。

怒号を放ったのは白髪の老エルフだった。鋭い眼光をしており、体には獣につけられたであろう傷が着いてあった。

「……村長……」
「……人間。用があるのは私だろ。来るなら来い」
「話が早いな」

ズカズカと背を向けて歩く村長にカエデは着いて行った。その後ろをヘキオンがさらにちょこちょこと着いていく。

「クエッテ。お前は休んでいろ」
「……はい」

クエッテに顔を向けることなく命令する。静かにクエッテは反応した。

「ダメだ。クエッテもこい」
「なっっ――調子に乗るなよ人間!!」

男がカエデに襲いかかろうとした。それを周りのエルフが制止する。

「――やめろ!!……わかった。すまないクエッテ。来てくれ」
「……分かりました」

村長に続くクエッテ。エルフの村の人々はそんな4人を無音で見つめていたのであった。










「――それで何の用だ人間」

村長の家。大きな椅子に腰掛け話す村長。隣にはクエッテ。その正面に立つのはカエデとヘキオン。

やはりと言うべきか、かなり険悪なムードが漂っていた。

「簡潔に言おう。おたくの村人さんに危うく殺されかけた。これは賠償ものなんじゃないかな?」
「……この森に勝手に入ってきた貴様らが悪いのだろう」
「この森はお前らの物じゃない」

鋭く突きつけられる眼光。ヘキオンはその眼光にたじろいでいた。

「話を聞くに……お前らは何かを隠しているようだったなぁ。もしやお宝だったりして……」
「貴様が望むようなものでは――いや、わかった。いいだろう」
「いいね。その決断の速さは好きだぞ」

カエデか指をパチンと鳴らした。


「――ただし。1つだけ願いがある。それを叶えてくれたら貴様らの望むものをやろう」
「……はぁ」

1つため息をつく。

「お前は立場を分かってるのか?別にやろうと思えばここにいるエルフを皆殺しにできるんだぞ」
「殺したら望みのものの場所も分からないぞ」
「なら体に聞くまでだ。徹底的に痛ぶって――」
「か、カエデさん!!」

ヘキオンが怒るように声を出した。さすがにやりすぎたと感じたらしい。

涙目でフルフルと怒るヘキオンを見たカエデはまた1つため息をついた。

「……ごめん。悪ふざけがすぎた。許してくれ」
「……ふん。許すわけないだろう。この村にズケズケと入り込んでおいてこの仕打ち……いつか必ず晴らしてやる」
「お前に言ってない。それに今ここで1番強いのは俺だ。決定権は全て俺にある。お前らは俺に従えば――」
「カエデさん!!」
「すまんすまん。もうやらない。君の前で無意味に乱暴なことはしないよ」

怒るヘキオンをなだめるように声を発する。

「……私から見るに、決定権はお前にはなさそうなんだがな」
「この子は例外だよ。……仕方ない。大人しく言うことを聞いてやる」

頭をポリポリとかきながらカエデは応えた。












続く
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