無職で何が悪い!

アタラクシア

文字の大きさ
上 下
17 / 117
1章「対立するエルフの森」

17話「場所の優位などぶち抜け!」

しおりを挟む
「――狙いは……どこに……」


シュッ。

弓が撃たれた。真下。ヘキオンがいないとわかってるはずなのに撃った。

「――まさか」

ヘキオンは気がついた。女が狙っている場所を理解した。


先ほどのウォーターサーチで辺りの地形を頭に入れてある。

女が狙っていたのはヘキオンではなかった。女が狙っていたのは。もっと言うなら地面の層の隙間だ。

ヘキオンがいるのは坂道。女は上の方から狙っている。

女はヘキオンの情報は知らない。だが自分が近距離を苦手とすることを知っている。相手が近距離戦に長けている相手なら自分が不利になる。

ならば暗闇の中、相手を待つのはダメ。まともに戦う必要も無い。ならば間接的にも殺せればいいのだ。


ゴゴゴゴゴゴ……。

音が耳に入る。地面がそこから捲りあげられるような音。土と土が滑るような音が周りに響き渡っている。

「――土砂崩れか!」

ヘキオンの読み通り。ヘキオンに向かって大量の土砂が流れてきた。

圧倒的物量。圧倒的範囲。地獄のような音を鳴らしながら、三途の川のようにも思える土砂たちがヘキオンに向かって流れてくる。


「う、上に――」

行動した時には遅かった。既に土砂はヘキオンの目の前に来ていた。

「あ――」










木の幹の上。弓を構えた女が座っていた。

胸の辺りを赤い布で隠し、スカートに似た赤いヒラヒラとしたものを腰に巻いている。顔は可愛いと言うよりも美しいと言うべきだろう。

「――――」

弓を背中に仕舞う。どうやら仕事が終わったようだ。

地面に飛び降りる。普通なら脚が折れるようなレベルの高さを軽く飛び降りた。その高さを当たり前のように着地する。

「――まずは……1人殺した」

肩をコキコキと鳴らす。

「そこにいるんでしょ。出てきなさい」

斜め後ろ。女はそこにあった木に向かって話しかけた。


「――バレてたか」

木の影からヌルッとカエデが出てくる。さっきまで後ろにいたはずだが、いつの間にかここまで移動してきていた。

「やっぱり隠れて行動するのは苦手なんだよなぁ。どーしても強すぎて目立っちゃう」
「あなた何者。あの距離で私に気がつくのはおかしい。ウッドエルフでも気がつけるか分からないくらいなのに」
「さーね。ちょっと強いただの人間だよ」

女がしまった弓をまた取り出した。カエデに向かって臨戦態勢をとる。

「それよりも。急に撃ってこなくてもよかったじゃないのか?話し合おうという気概はないのかね」
「……『ここに侵入してきた者は殺せ』とお爺様から言われている。だから撃った」
「なんでそこまでするんだよ。……もしかしてお宝でもあったり?」
「言うつもりは無い。無駄なお話もここまで」

女が矢を弦に入れた。鋭い目でカエデを見つめている。

「俺とやり合うつもりかい?どこぞの野生動物じゃないんだから力の差くらいはわかるだろ。本当に俺を殺したいならその冷や汗を仕舞え」

女の額から汗が1粒流れた。顔には出ていないが、カエデが自分よりも圧倒的に強いことは理解しているようだ。

「……や、やってみないと分からない」
「まぁ別にいいけどよ。ただ俺よりもやりたそうなヤツがいるんだけどな」
「は?何を言って――」










女の頬に拳がめり込んだ。水を纏った拳。ヘキオンの拳だ。

アクアスマッシュ水破!!」

女の体が殴り飛ばされた。カエデが体をサッと横に向ける。女はカエデを通り過ぎ、太い木に背中から叩きつけられた。

「――カエデさん!!危ないことがあったら助けてくれるって言ったじゃん!!」
「君なら危なくないと思ったからね。現に自分の力で切り抜けられたでしょ?」
「で、でもぉ……」
「わざわざ時間稼ぎをしてあげたんだぞ。お礼をして欲しいくらいだ」

ヘキオンが頬を膨らませる。


「――な、なぜ」

女が立ち上がった。綺麗な鼻から血がドクドク流れている。

「どうやって……あそこから」
「……単純。流れてくる土砂を殴って掻き分けただけ。逃げるのは無理だったからね」



土砂が来た時。逃げられないと悟ったヘキオンは逆のことを考えていた。



土砂に向かってアクアスマッシュを何度も打ち込み、流れてくる土砂を全て弾き飛ばしたのだ。

あとはすぐに女の方へ向かうだけ。女はヘキオンを殺したと思い込むだろう。つまり油断する。接近して殴るだけだ。

ただ近づくだけなら気がつかれていただろう。カエデが女と話をしていたのはそのためだ。ヘキオンの接近を気づかせないようにするため。

このような要因が重なり、ヘキオンは女に一撃入れることができたのだ。



「――ふん。先にあなたを殺す」

ダラダラ流れる鼻血を無視し、矢をつがえた弓をヘキオンに向けた。

「まぁ俺は見てるよ。死にそうになったら止めてやる」
「そんな状況にはなりません。夜食でも獲ってきててください」

水を纏った拳を蛇のように廻し、ヘキオンはいつものように構えた。












続く
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

処理中です...