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序章
5話 その男は無職!
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「……と、とりあえずギルドに戻ろう」
フラフラしながら立ち上がる。薬草の入ったバックをギュッと抱え込んでいる。どれだけ疲れてもそこは忘れてないようだ。
「お金~。お金~。……もしかして宿に泊まるには毎日これしないといけないのぉ……」
明らかに落胆している。やはり毎日いい思いするにはある程度頑張らないといけないのだ。
「――ん?」
瞬間。周りが暗くなった。時間にして、まだ昼だ。夜ではない。
暗くなった。これは夜になる時みたいな感じではない。例えるのならば太陽がビルに隠れてる時のようだ。
ゆっくりと後ろを振り向いていく。さっきまで消えていた心臓の音が大きくなっている。呼吸、手足の震え。無くなっていた物が出てきた。
ガルルルルゥゥゥゥ……。
さっきまでの唸る声。確かに似ていた。似てはいた。だがさっきの狼とは威圧感が違う。ついでに見た目も違う。
さっきの狼よりも黒い体毛。真っ赤な牙、銀色の瞳。四足歩行だった狼が二足歩行になっている。
上半身は筋骨隆々。ボディービルダーでもここまで大きい人はいないだろう。上半身に比べれば細くはあるが、それでもガッシリしている下半身も威圧感を醸し出すのを手伝っている。
「ウルフィー……ロード……!?」
ウルフィーロード。ウルフィーの上位種。全ての面においてウルフィーの上位にいる魔物。当たり前だがウルフィーよりもレベルが高い。
ウルフィーが平均レベル5~6に対して、ウルフィーロードの平均レベルは100ほどだ。
そしてヘキオンが対峙しているこのウルフィーロードのレベルは103。そしてヘキオンのレベルは14。つまり大ピンチということだ。
「あ……あ……あ、ぁぁ」
声が出ていないようだ。当たり前だ。道端を歩いていたらライオンが出てきたようなものだ。
恐怖で体が震えている。腰が抜けたようで地面に体が落ちている。
ガフッガフッガフルルルルルゥゥゥゥ!!
ウルフィーロードの右腕が上げられた。鋭利な爪が天にキラリと光る。
腰が抜けて動けていない。動けていたとしても逃げられないだろう。感情が恐怖に支配されている。
目から涙がほろりと流れた。その涙は恐怖からか、残してしまう母親に対してか、未練が残っているからか、もしくは全てからか。
声すらも出てこない。叫んだとしても助けは来ないだろう。まさに絶望。絶望を景色にしたらこうなるだろう。
「…………くぁ……」
その爪は空気を切り裂くように。空間を切り裂くように。音を切り裂くように。
掲げられた爪はその軌道をヘキオンに向けて叩きつけられた――。
「……え?……」
来るはずであろう痛みが来ないことに違和感を抱いたのか。それとも急に消えた影を疑問に思ったのか。
涙目をウルフィーロードの方に向けた。
「――無事か?」
そこには木の棒を持ったカエデがいた。その隣には上半身が消し飛んだウルフィーロードが立っている。
下半身のみで立っているウルフィーロードをカエデが蹴り倒す。
「…………」
「これからはちゃんとギルドの人に地域の情報を聞いておくんだな」
「……ぁ、ぁぅ」
まだ腰が抜けて立てないようだ。カエデのことをビクビクしながら見ている。
「……腰が抜けてんの?」
「は……はぃ」
「わかったよ。ほれ」
ヘキオンに向かって手をだす。その手はガッシリしていて、手のひらだけでその人が強いというのが分かる。
まだヘキオンは涙目だ。だがそれでも勇気を出したのか、震えながらカエデの方に手を出した。
「名前は?」
「……へ、ヘキオン……魔法使いです」
「そうか。俺はカエデ。無職だ。よろしく」
「よろしく……お願いします」
ヘキオンとカエデの手は強く握りしめられた。
「――え?無職?」
続く
フラフラしながら立ち上がる。薬草の入ったバックをギュッと抱え込んでいる。どれだけ疲れてもそこは忘れてないようだ。
「お金~。お金~。……もしかして宿に泊まるには毎日これしないといけないのぉ……」
明らかに落胆している。やはり毎日いい思いするにはある程度頑張らないといけないのだ。
「――ん?」
瞬間。周りが暗くなった。時間にして、まだ昼だ。夜ではない。
暗くなった。これは夜になる時みたいな感じではない。例えるのならば太陽がビルに隠れてる時のようだ。
ゆっくりと後ろを振り向いていく。さっきまで消えていた心臓の音が大きくなっている。呼吸、手足の震え。無くなっていた物が出てきた。
ガルルルルゥゥゥゥ……。
さっきまでの唸る声。確かに似ていた。似てはいた。だがさっきの狼とは威圧感が違う。ついでに見た目も違う。
さっきの狼よりも黒い体毛。真っ赤な牙、銀色の瞳。四足歩行だった狼が二足歩行になっている。
上半身は筋骨隆々。ボディービルダーでもここまで大きい人はいないだろう。上半身に比べれば細くはあるが、それでもガッシリしている下半身も威圧感を醸し出すのを手伝っている。
「ウルフィー……ロード……!?」
ウルフィーロード。ウルフィーの上位種。全ての面においてウルフィーの上位にいる魔物。当たり前だがウルフィーよりもレベルが高い。
ウルフィーが平均レベル5~6に対して、ウルフィーロードの平均レベルは100ほどだ。
そしてヘキオンが対峙しているこのウルフィーロードのレベルは103。そしてヘキオンのレベルは14。つまり大ピンチということだ。
「あ……あ……あ、ぁぁ」
声が出ていないようだ。当たり前だ。道端を歩いていたらライオンが出てきたようなものだ。
恐怖で体が震えている。腰が抜けたようで地面に体が落ちている。
ガフッガフッガフルルルルルゥゥゥゥ!!
ウルフィーロードの右腕が上げられた。鋭利な爪が天にキラリと光る。
腰が抜けて動けていない。動けていたとしても逃げられないだろう。感情が恐怖に支配されている。
目から涙がほろりと流れた。その涙は恐怖からか、残してしまう母親に対してか、未練が残っているからか、もしくは全てからか。
声すらも出てこない。叫んだとしても助けは来ないだろう。まさに絶望。絶望を景色にしたらこうなるだろう。
「…………くぁ……」
その爪は空気を切り裂くように。空間を切り裂くように。音を切り裂くように。
掲げられた爪はその軌道をヘキオンに向けて叩きつけられた――。
「……え?……」
来るはずであろう痛みが来ないことに違和感を抱いたのか。それとも急に消えた影を疑問に思ったのか。
涙目をウルフィーロードの方に向けた。
「――無事か?」
そこには木の棒を持ったカエデがいた。その隣には上半身が消し飛んだウルフィーロードが立っている。
下半身のみで立っているウルフィーロードをカエデが蹴り倒す。
「…………」
「これからはちゃんとギルドの人に地域の情報を聞いておくんだな」
「……ぁ、ぁぅ」
まだ腰が抜けて立てないようだ。カエデのことをビクビクしながら見ている。
「……腰が抜けてんの?」
「は……はぃ」
「わかったよ。ほれ」
ヘキオンに向かって手をだす。その手はガッシリしていて、手のひらだけでその人が強いというのが分かる。
まだヘキオンは涙目だ。だがそれでも勇気を出したのか、震えながらカエデの方に手を出した。
「名前は?」
「……へ、ヘキオン……魔法使いです」
「そうか。俺はカエデ。無職だ。よろしく」
「よろしく……お願いします」
ヘキオンとカエデの手は強く握りしめられた。
「――え?無職?」
続く
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