無職で何が悪い!

アタラクシア

文字の大きさ
上 下
2 / 117
序章

2話 割と近い過去!

しおりを挟む
「えぇ!?ダメなの!?」

ヘキオンの驚き声が周りにこだました。周囲の人たちが驚きでビクッとはねる。


ここは冒険者がよく訪れる街『スタートタウン』。ギルド、武器屋、図書館、服屋、薬屋、食料品店……などなど、ここに来ればだいたいなんでも揃う。そのため駆け出しの冒険者から、熟練の冒険者まで幅広い層の冒険者が来る街なのだ。


ヘキオンは買取屋に来ていた。買取屋というのは、外の魔物や動物、植物や珍しい木の実などを買い取ってくれる店だ。冒険者が仕事のついでの小遣い稼ぎとしてよく使われている。

ヘキオンはカウンターでごねていた。後ろに人がいないからいいが、いた場合は迷惑この上ないだろう。

「な、なな、なんでぇ!?ここら辺じゃ取れないようなやつだよ!お買い得だよ!」
「いやだってこれ皮の取り方雑じゃん?こことか肉付いてるし……」

ヘキオンが出したのは赤目兎と呼ばれる動物の皮だ。ここら辺では取れないが特別珍しい物でもない。普通の相場なら100円ほどだろう。

「付いてる肉はおまけってことで……」
「ダメだ。そもそも肉を取ってきた方がよかっただろ。ちょっと価値は下がるけどその方が確実だし、楽だぜ」
「……た、食べちゃった」
「残念だったな。はやく帰れ」

頬を膨らませ「ケチ!」と言って、机の上に置かれた皮をぶんどった。ドンドンと足音を鳴らして立ち去っていく。

「……最近の子は怖いねぇ~」

ヘキオンが立ち去っていく様子を店員は気だるそうに眺めていたのだった。








――半年前。

「ちゃんと荷物持った?お金は?着替えは?地図はちゃんとバックに入れて――」
「あーあー!入ってる入ってるよ!そんなに心配しなくてもいいじゃーん」
「女の子の一人旅なんだから心配するに決まってるでしょ!種族関係なく男っていうのは脳みそが頭じゃなくてチ〇コについてるような奴らしか居ないんだから!!」
「それはど偏見すぎるよお母さん……それだとお父さんも変態みたいになるでしょ」
「お父さんはなの。お父さんはいいのよ」
「はぁ……」

ヘキオンが革のバックを母に背負わされている。ちょうどこの日は旅立ちの日。16歳となって成人したヘキオンは今日から旅立つことにしたのだ。


「じゃあ行ってきます!」

ヘキオンは軽くリュックを背負いなおして家から飛び出ようとした。

「待って!」

母親が引き止める。ヘキオンのちょっと立っていた髪の毛を手でささっと解いた。目を瞑ってしばらく会えないであろう母の手を感じている。

「あなたこの前『野宿の練習するんだ!』とか言って外で野宿した時に風邪ひいたんだから気おつけなさいよ」
「大丈夫だよ。ちゃんと毛布も持ってるし」
「もう……」

ヘキオンの頭を優しく撫でる。

「……お父さんのことを気にしすぎてもダメよ。あなたの人生なんだから、あなたの好きに生きなさい」
「うん。でも会った時は家に帰るように言うよ。あと1発ぶん殴ってくる!」
「そこまで乱暴しなくても――やっぱりしてきて。1発と言わずに100発くらい。帰ってきたらその倍は殴っておくから」
「お母さんバイオレンスだね……」

ヘキオンとお母さんが同時に笑う。笑った顔は似ており、やはり親子と言ったところだ。

「……元気でね」
「お金が溜まったらまた帰ってくるよ」
「その時にご馳走用意しておくからね」
「楽しみにしてる……行ってきます!」

ヘキオンは家と母親に背を向けて歩き出した。その背中は心做しか、10年前に出ていったヘキオンの父親と重なっているようだった。

家から歩いていくヘキオンを見つめる母親。その目にはキラリと光る涙が一筋流れていた。

「……この家も……1人になっちゃったなぁ……」

母親がヘキオン一家の写真を手に取った。その写真にはキラキラとしている笑顔を見せたヘキオン、その横には同じく笑顔のヘキオンの両親が写っていたのだった。












続く
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。

重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。 あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。 よくある聖女追放ものです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

処理中です...