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序章
2話 割と近い過去!
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「えぇ!?ダメなの!?」
ヘキオンの驚き声が周りにこだました。周囲の人たちが驚きでビクッとはねる。
ここは冒険者がよく訪れる街『スタートタウン』。ギルド、武器屋、図書館、服屋、薬屋、食料品店……などなど、ここに来ればだいたいなんでも揃う。そのため駆け出しの冒険者から、熟練の冒険者まで幅広い層の冒険者が来る街なのだ。
ヘキオンは買取屋に来ていた。買取屋というのは、外の魔物や動物、植物や珍しい木の実などを買い取ってくれる店だ。冒険者が仕事のついでの小遣い稼ぎとしてよく使われている。
ヘキオンはカウンターでごねていた。後ろに人がいないからいいが、いた場合は迷惑この上ないだろう。
「な、なな、なんでぇ!?ここら辺じゃ取れないようなやつだよ!お買い得だよ!」
「いやだってこれ皮の取り方雑じゃん?こことか肉付いてるし……」
ヘキオンが出したのは赤目兎と呼ばれる動物の皮だ。ここら辺では取れないが特別珍しい物でもない。普通の相場なら100円ほどだろう。
「付いてる肉はおまけってことで……」
「ダメだ。そもそも肉を取ってきた方がよかっただろ。ちょっと価値は下がるけどその方が確実だし、楽だぜ」
「……た、食べちゃった」
「残念だったな。はやく帰れ」
頬を膨らませ「ケチ!」と言って、机の上に置かれた皮をぶんどった。ドンドンと足音を鳴らして立ち去っていく。
「……最近の子は怖いねぇ~」
ヘキオンが立ち去っていく様子を店員は気だるそうに眺めていたのだった。
――半年前。
「ちゃんと荷物持った?お金は?着替えは?地図はちゃんとバックに入れて――」
「あーあー!入ってる入ってるよ!そんなに心配しなくてもいいじゃーん」
「女の子の一人旅なんだから心配するに決まってるでしょ!種族関係なく男っていうのは脳みそが頭じゃなくてチ〇コについてるような奴らしか居ないんだから!!」
「それはど偏見すぎるよお母さん……それだとお父さんも変態みたいになるでしょ」
「お父さんは特別なの。お父さんはいいのよ」
「はぁ……」
ヘキオンが革のバックを母に背負わされている。ちょうどこの日は旅立ちの日。16歳となって成人したヘキオンは今日から旅立つことにしたのだ。
「じゃあ行ってきます!」
ヘキオンは軽くリュックを背負いなおして家から飛び出ようとした。
「待って!」
母親が引き止める。ヘキオンのちょっと立っていた髪の毛を手でささっと解いた。目を瞑ってしばらく会えないであろう母の手を感じている。
「あなたこの前『野宿の練習するんだ!』とか言って外で野宿した時に風邪ひいたんだから気おつけなさいよ」
「大丈夫だよ。ちゃんと毛布も持ってるし」
「もう……」
ヘキオンの頭を優しく撫でる。
「……お父さんのことを気にしすぎてもダメよ。あなたの人生なんだから、あなたの好きに生きなさい」
「うん。でも会った時は家に帰るように言うよ。あと1発ぶん殴ってくる!」
「そこまで乱暴しなくても――やっぱりしてきて。1発と言わずに100発くらい。帰ってきたらその倍は殴っておくから」
「お母さんバイオレンスだね……」
ヘキオンとお母さんが同時に笑う。笑った顔は似ており、やはり親子と言ったところだ。
「……元気でね」
「お金が溜まったらまた帰ってくるよ」
「その時にご馳走用意しておくからね」
「楽しみにしてる……行ってきます!」
ヘキオンは家と母親に背を向けて歩き出した。その背中は心做しか、10年前に出ていったヘキオンの父親と重なっているようだった。
家から歩いていくヘキオンを見つめる母親。その目にはキラリと光る涙が一筋流れていた。
「……この家も……1人になっちゃったなぁ……」
母親がヘキオン一家の写真を手に取った。その写真にはキラキラとしている笑顔を見せたヘキオン、その横には同じく笑顔のヘキオンの両親が写っていたのだった。
続く
ヘキオンの驚き声が周りにこだました。周囲の人たちが驚きでビクッとはねる。
ここは冒険者がよく訪れる街『スタートタウン』。ギルド、武器屋、図書館、服屋、薬屋、食料品店……などなど、ここに来ればだいたいなんでも揃う。そのため駆け出しの冒険者から、熟練の冒険者まで幅広い層の冒険者が来る街なのだ。
ヘキオンは買取屋に来ていた。買取屋というのは、外の魔物や動物、植物や珍しい木の実などを買い取ってくれる店だ。冒険者が仕事のついでの小遣い稼ぎとしてよく使われている。
ヘキオンはカウンターでごねていた。後ろに人がいないからいいが、いた場合は迷惑この上ないだろう。
「な、なな、なんでぇ!?ここら辺じゃ取れないようなやつだよ!お買い得だよ!」
「いやだってこれ皮の取り方雑じゃん?こことか肉付いてるし……」
ヘキオンが出したのは赤目兎と呼ばれる動物の皮だ。ここら辺では取れないが特別珍しい物でもない。普通の相場なら100円ほどだろう。
「付いてる肉はおまけってことで……」
「ダメだ。そもそも肉を取ってきた方がよかっただろ。ちょっと価値は下がるけどその方が確実だし、楽だぜ」
「……た、食べちゃった」
「残念だったな。はやく帰れ」
頬を膨らませ「ケチ!」と言って、机の上に置かれた皮をぶんどった。ドンドンと足音を鳴らして立ち去っていく。
「……最近の子は怖いねぇ~」
ヘキオンが立ち去っていく様子を店員は気だるそうに眺めていたのだった。
――半年前。
「ちゃんと荷物持った?お金は?着替えは?地図はちゃんとバックに入れて――」
「あーあー!入ってる入ってるよ!そんなに心配しなくてもいいじゃーん」
「女の子の一人旅なんだから心配するに決まってるでしょ!種族関係なく男っていうのは脳みそが頭じゃなくてチ〇コについてるような奴らしか居ないんだから!!」
「それはど偏見すぎるよお母さん……それだとお父さんも変態みたいになるでしょ」
「お父さんは特別なの。お父さんはいいのよ」
「はぁ……」
ヘキオンが革のバックを母に背負わされている。ちょうどこの日は旅立ちの日。16歳となって成人したヘキオンは今日から旅立つことにしたのだ。
「じゃあ行ってきます!」
ヘキオンは軽くリュックを背負いなおして家から飛び出ようとした。
「待って!」
母親が引き止める。ヘキオンのちょっと立っていた髪の毛を手でささっと解いた。目を瞑ってしばらく会えないであろう母の手を感じている。
「あなたこの前『野宿の練習するんだ!』とか言って外で野宿した時に風邪ひいたんだから気おつけなさいよ」
「大丈夫だよ。ちゃんと毛布も持ってるし」
「もう……」
ヘキオンの頭を優しく撫でる。
「……お父さんのことを気にしすぎてもダメよ。あなたの人生なんだから、あなたの好きに生きなさい」
「うん。でも会った時は家に帰るように言うよ。あと1発ぶん殴ってくる!」
「そこまで乱暴しなくても――やっぱりしてきて。1発と言わずに100発くらい。帰ってきたらその倍は殴っておくから」
「お母さんバイオレンスだね……」
ヘキオンとお母さんが同時に笑う。笑った顔は似ており、やはり親子と言ったところだ。
「……元気でね」
「お金が溜まったらまた帰ってくるよ」
「その時にご馳走用意しておくからね」
「楽しみにしてる……行ってきます!」
ヘキオンは家と母親に背を向けて歩き出した。その背中は心做しか、10年前に出ていったヘキオンの父親と重なっているようだった。
家から歩いていくヘキオンを見つめる母親。その目にはキラリと光る涙が一筋流れていた。
「……この家も……1人になっちゃったなぁ……」
母親がヘキオン一家の写真を手に取った。その写真にはキラキラとしている笑顔を見せたヘキオン、その横には同じく笑顔のヘキオンの両親が写っていたのだった。
続く
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