レッドリアリティ

アタラクシア

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4日目

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駆け込んできたのは小さな小屋。軽トラックやトラクター、その他の農具が置かれている場所だ。

古ぼけた草の匂いが充満している。ノスタルジックな雰囲気でとてもいい場所だが、安らいでいる場合じゃない。

撒くために来たはいいものの、特に凛は何か策を考えているわけではなかった。とにかく道具がいっぱいある所。そこへ来れば何かができるだろうと考えてのことだ。

「うぇ……えっと、えっと」

中に入ってもめぼしい物は何も無い。五歳の頭ではこの状況を脱却できる作戦を即座に考えつくのは不可能だった。


とりあえず軽トラックの下へとスライディングで潜り込んだ。義明のような大柄な人間では入れないと見越してのこと。

「くだらんな」

追いついた義明は軽トラックの下に手を伸ばす。なんとか腕の射程外まで這いずった凛は、伸びてきている義明の手を踏みつけた。

「ちっ――!!」

手が引き戻される。安堵したのも束の間――なんと義明は片手で軽トラックを持ち上げたのだ。

「ふぁ!?」と驚く凛。固まった体を動かして向かってくる義明の手を回避。横を通ってまた逃げようとする。

「このっ――」

義明がまた手を伸ばそうとした時、凛は円柱の箱に入れられてあった農具たちを倒した。農具はちょうど義明の脚に当たる。

スネ、膝、太もも。下半身に当たる金属。先端が鋭くなっているのもあり、義明は痛みに襲われた。

「ぐっ……!!」
「――てやぁ!」

その隙にだ。凛は床に落ちてあった鎌を義明の脚に突き刺した。

「いっっ――躊躇くらいしたらどうだ……!!」

頬に浮かぶ血管。見てるだけでイライラしているのが分かってくる。


「ひっ、わぁぁぁぁ!!」

今度はトラクターの下へと逃げる凛。鬱陶しい行動の数々に義明の怒りも限界に近いところまで来ていた。

「このガキが……!!」

――トラクターを蹴り飛ばす。馬鹿げた力。クマとタメを張れそうだ。

ともかく凛はさらけ出された。捕まらないために走り出す。しかし――。


「――うわぁぁ!!」

――捕まった。猫のように首根っこを掴まれる。

「ようやく捕まえ――」

凛は――義明の股間をぶん殴った。5歳児と言えど人体の弱点。それもピンポイントに当ててきた。

反応する間もなく2発目。今度は蹴りあげる形。抜かりない。さすが桃也の娘と言ったところだ。

「――!?」

男性なら想像つくだろう。とんでもない痛みだ。いかに化け物じみた体格を持つ義明でさえ、弱点は変わらない。

思わず離してしまう手。凛を逃がすのはダメだ。しかし体が痛みで動いてはくれない。チャンスは逃がさない。凛は義明を横目に走り去っていった。



「――はぁはぁ!!」

家の裏まで回り込んだ。もっと遠くへ逃げたいところだが、もう体力の限界。

「はぁ……どうしようどうしよう」

痛いとはいえ、義明はすぐに追ってくるはず。見つかったらもう逃げられない。周りにも道具は何もない。

しかし1つ幸運なことがあった。家の裏には小屋があったのだ。今度は扉付き。鍵も空いている。隠れるにはうってつけだ。


――キィッ。

凛の横から聞こえてきた。扉を開ける音……じゃない。義明の声でもない。なにか動物の鳴き声だった。

「……お猿さん?」


それは小猿の鳴き声だった。真っ白の体毛。同年代と比べても小柄な体である凛ですら軽く持ち上げられるほど小さい。

なんでこんな場所に猿がいるのか。凛ですら疑問に思った。そんな凛に笑顔で小猿は近づいてくる。

「ど、どうしたのお猿さん。ママとはぐれちゃったの?」

聞いてみるが、返答はない。まぁ喋れるわけもないのだが。

「ここは危ないよ。変なおっきい男の人が追いかけてきてて――」


噂をすればなんとやら。憤怒の形相で追いかけてきている義明の姿がチラリと見えた。

「も、もう来ちゃったよぉ……」

選択肢はない。凛は小屋へと走ろうとした――が。どうしても小猿を放っておけない。

そんなわけがないのだが、もし義明が小猿を見つけたら殺してしまうかもしれない。凛はそう考えた。

こんなにも可愛い子を見捨てる訳にはいかない。決心した凛は小猿を抱き抱えると、小屋の扉を強く開けた。
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