レッドリアリティ

アタラクシア

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3日目

露見

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「帰ったらどうするんだ?」
「今日はゆっくり休みたい……けどなぁ。さっさとこの村から離れて潜伏でもするかな。親父の家にでも」
「……自首はしないのか?」
「ない」

キッパリと答えた。

「刑事の前でよく言うな」
「刑事である前にお前は友達だ。バラしたとしても恨みはしない。それはそれとして逃げるけどな」
「逃げれると思ってんのか?」
「なんだよストーカーか?」
「お前はストーカーよりも酷いだろ」

笑う2人。どちらも自然な笑顔だ。どちらも優しい笑顔だ。片や刑事。片や殺人鬼。こんなことになるなど昔は思っていなかった。

そしてこんな目に会うことも思っていなかった。狂気のような空間。まともであった小次郎も狂うしかないのだ。

気が合うちょっとした瞬間。長らく桃也が遠くに行ったような気がしていた。それが今だけは近くにいる気がする。

ダメなことだ。嫌なことだ。それでも。自分の友人が、昔と同じの友人がいるだけで嬉しくなる。心の底から。

だけど全てが終わったら。刑事として、人間として。桃也を捕まえないといけない。それが……嫌だ。

(腹の立つやつだ……)

最悪だ。最低だ。ただの感情論だ。ただの自分勝手だ。被害者の家族に殺されても文句は言えない。

それでも桃也を捕まえたくない。友人で居たい。親友で居たい。友人として話をしていたい――。





――そんな時間に限って、長く続くことは無い。





部屋の扉が開けられた。鳥肌が総立ちする。神経の電気信号が全て停止する。血管が冷たくなる感覚が襲ってくる。

開けたのは誰だ。敵か。味方の可能性もある。そうあって欲しい。願望に近い希望が2人の心に現れた。


――だが。現実はそう甘くない。出てきたのは義明と蓮見、そして氷華だった。

「……氷華。これはどういうことだ?」

まるで親に注意されている子供のように。縮こまっている氷華がピクっと跳ねた。

この反応。『裏切ったのではない』と桃也は判断した。実際にそうである。が、今はそんなことどうでもいい。

それよりもこの状況を打破しなければ。逃げるにしても、戦うにしても、簡単にできることじゃない。

「黙ってちゃあ分からないんだが?」
「う……あ……」
「ちゃんと喋らないか。馬鹿じゃないだろ?」

追い詰めるように話す蓮見に氷華は何も言えずにいた。


「まぁいいさ。後で話を聞こう。――さて、桃也と……牧野小次郎だっけ?」

こちらに矛先が向いた。

「桃也。昨日の仮面はどうした?今日は付けてないのか?」
「……あれは気分によって付けるか決めんだよ」
「なーんだ。アレかっこよかったのに」

桃也は包丁を握り締める。小次郎は拳銃をいつでも抜けるように構える。

「そういえばなーんでここにいるんだ?」
「小次郎と久しぶりに会ったからな。ちょっと肝試しでもって」
「大学生じゃあるまいし。歳を考えろよ」
「失礼な、いつでも心は大学生だぞ」
「一家の大黒柱がそんなんでいいのかよ」
「他人の家に口出しするもんじゃないぞ」

さっきから喋っていない義明が拳を固めた。ホースのように図太い血管が手の甲に浮かび上がる。

まるで鉱物だ。鉄器だ。下手な金属なら確実に壊せるような拳をしている。

「おっと話が逸れたな。どんな理由にしろ、この場所を見られたからには消さないといけない」
「消す?儀式みたいに拷問をしないのか?俺はお前らの仲間を殺した悪いヤツだけど」
「なんでもかんでも拷問する野蛮人みたいに言うな。我らの儀式にはちゃんと意味も意義もある」

氷華は……動かない。動けないの方が正しいか。罪悪感と恐怖。顔が真っ青になっている。

「だけどまぁ……消すのはだ」


その言葉の意味が分からないほど桃也は馬鹿じゃない。

「横の刑事さん。お前の家族もだ。そして……氷華」
「――!」

呼吸が荒ぶっている。脂汗が額から滝のように流れる。

「お前以外は全員拷問する。お前に関わった者は全員痛めつける。お前の後から地獄へ行く者は全てボロボロになっていると思え」
「……そりゃまた随分と悪趣味だな。凛は5歳だぞ?」
「関係ない。氷華もまだ16だ」

――青筋が桃也の首に浮かぶ。額に浮かぶ。氷華とは逆に、顔が赤く染まっていく。包丁を握る力が強くなる。

「安心しろよ。殺しはしない。ただ調教するだけだ。将来が楽しみだなぁ……素晴らしい子供を産んでくれる」
「そうか……そうかァ……」

挑発なのは理解している。それでも――それでも怒りは抑えられない。自分の子供を「拷問する」と言われて怒らない父親はいない。



「やれるもんなら――」
「――もう捕まえてる。と言ったら?」

――。

「馬鹿だなぁ。あっちに1人でも残してたら良かったものを。全員でこっちに来たからこうなるんだよ」

瞳孔が開く。フツフツと沸騰していたモノが一気に冷めていった。真っ赤な怒りが――完全な殺意へと変わる。
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