レッドリアリティ

アタラクシア

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2日目

狂宴

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髪の長い女性だ。身長は目測で170cmほど。年齢は分からない。暗くて顔が見えないので判断がしずらい。多分若いだろう。

白い服。色は違うが、形は見た事があった。――執行教徒の服。全身黒色のあの服。フードのない白色バージョンみたいな。


後ろに人がいるという事実だけで恐怖となる。だがそれ以上に恐怖する原因があった。

女性の両手には大小の刀を持っていたのだ。刃は光すら反射しない。金属なのに不思議だ。手入れがされてないのか。

ふたつの刀は下へ向いている。しかし女性自身は桃也の方を見ていた。顔色は伺えないが、少し驚いているように感じる。

よく考えてみれば当たり前。真っ黒な衣装に赤いニコちゃんマークの仮面を被っている男を見たなら驚くのは普通だ。

つまりどちらも驚きと恐怖で動けなくなる。女性の目には殺意を感じたが、一時的に殺意が揺らりと鈍っていた。



不意打ちができたであろうタイミング。女性はそれを逃してしまった。だが相手が人間だとすぐに気がつく。そして桃也も自分がするべきことに気がついた。

――気がついたのは同時。

片方は『侵入者を殺す』こと。
片方は『この場から逃げる』こと。



動いたのも同時だった。桃也は女性のいる場所とは反対側にダッシュ。女性は桃也をすぐさま追いかける。

スピードは女性の方が上だ。後方から近づいてくる足音。できるだけ加速するが、女性のスピードはもっと速い。

追いつかれたら殺される。あんな武器を持ってる相手とマトモに戦うなんてできない。そりゃ桃也も包丁を持っていたが、どこにでも売っているような包丁で刀と戦えとか無理がある。

だけど追いつかれるのは時間の問題だ。なにか手を。手を考えないと。だがこんな都合のいいタイミングで、いいアイデアなんか思い浮かばない。

周りには畑と森の茂み。武器になるような、状況を打破できるようなものは――見当たらない。今ある物でどうにかしないと。

「クソっ――!!」


ならせめて時間を稼ぐ。少しでもアイデアを考える時間を作る。

桃也は方向を急転換して茂みに突っ込んだ。女性の方は予想でもしていたのか、特に意外な様子もすることなく茂みの中まで着いてくる。

踏みしめる木の葉。折れる木の枝。つまづきそうになるが、無理やり走る。転ければ追いつかれる。殺される――。

前は殺していた側だったのに。人生は何があるか分からないな。……なんて思っても、もう遅い。今はとにかく逃げる。


――残念ながら桃也の想像通りにはいかなかった。稼げた時間はほんのちょっぴり。木々の間を走っても女性はすぐそこまで近づいてきた。

(逃げられない――)

黙って殺されるのか。――ダメだ。美結と凛が危ない。女子供2人だけだとすぐに村人に捕まってしまう。

死ぬわけにはいかない。決心した。覚悟を決めた。懐から包丁を取り出す――。


狙ってくる場所は予想がつく。女性は刀を下に向けていた。そしてこの暗闇。この暗闇において、女性が1番避けるべきことはことだ。

機動力を失わせる。狙ってくる場所は脚だろう。ただし脚を直接狙ってくることはしないはずだ。

例えば下から切り上げるとか。いや違う。相手も暗闇では見にくいはずだ。ならできるだけ攻撃を開けようとするはず。

つまり横薙ぎ一閃。無数にある可能性の中から相手の攻撃を予測した。ただし予測はあくまでも予測。間違えば殺される。

もうすぐで女性に追いつかれてしまう。脚を狙うのなら、角度的に防ぐことはできない。じゃあ避ける――。



桃也はジャンプした。木を踏み台にして高く飛び上がる。――女性の刃は予測通りに通り過ぎた。

膝裏の辺りを横一線。体を超低姿勢にして力いっぱい刀を振るう。避けられるとは思っていなかったようで、刀は止まることなく踏み台にした木に刺さった。

喜ぶのはまだ速い。振ったのは大の方の刀。まだ左手の刀が残っている。短い刀だが、桃也の持っている包丁よりかは長い。

残った刀を振り上げる。ジャンプは上にしたので、前方向には進んでいない。一気に距離を詰められてしまった。


避けられない。察した桃也は懐から包丁を取り出した。逆手に持って刀を受け止める――。

刀は斜めに滑った。高い金属音と共に少しの火花を散らしながら、女性の刀は地面へと落ちていった。
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