レッドリアリティ

アタラクシア

文字の大きさ
上 下
8 / 119
1日目

疑問

しおりを挟む
「そういえば」と美結がキョロキョロ辺りを見始めた。

「――荷物ってまだ届いてないの?」

引っ越し業者にほとんどの家具を積んでいる。来る時もすれ違った覚えはない。何も無ければ行動することができないのだが。

「あぁ、家具なら私が受け取ってるよ。一緒に入れようか」
「……え。あ、ありがとう……ございます」

曲がった腰をゆっくり動かしながら、自分の家へと歩いていく。一人で行かせるわけにもいかない。自分たちの家具だ。はしゃぐ凛を抱っこしながら、2人は時斜の後ろをついていく。


美結が桃也の服の裾を小さく引っ張った。内緒話を言うように、桃也の耳まで口を近づける。

「普通はさ、隣だからって荷物を受け取る?」

まぁ確かにそうだ。ただの家具とはいえ、自分たちの家の物を勝手に受け取られるのは、あまりいい気分ではない。

「さぁ、田舎なんだから普通じゃない?」
「でも……なんだか怖い」
「そんなこと言うなよ」

背中をポンポンと叩く。

「私心配になってきた……この村でやっていけるのかな……?」
「いずれ慣れるさ」
「……凛は大丈夫かな?」
「こんな自然豊かな村で暮らすんだ。立派に育つよ」

はしゃぎ回って疲れている凛の頭を撫でながら、桃也は答えた。





――数時間後。


ダンボールを地面に置く。重量から開放された背中をストレッチさせた。歳をとるとすぐに背中が痛くなってしまう。

若い頃はもっと動けていた。さっき美結に言った「歳をとったな」という言葉が自分に刺さっている気がしてならない。

「……俺もランニングとかしようかな」

そう呟きながら、桃也は額の汗を拭った。


時斜は見た目によらず力持ちであった。机や凛の玩具用具などを美結と2人で運んでいた。

最初は警戒していた美結も数分すれば時斜と仲良くなっており、まるで家族のようなコンビネーションを疲労している。……どちらもコミュ力が高いようだ。

「タンスは……一人で大丈夫かい?」
「はい。洗濯機を美結と一緒にお願いできますか?」
「モチロン!美結さんいっちゃうわよ!」
「任せてください時斜さん!」
「凛は花瓶持っていってくれる?」
「はーい!」

小さいプラスチック製の花瓶に入れられたタンポポ。これは3人でピクニックに行った時に凛が採ってきたものだ。

「――大事なものなの?」
「うん!宝物だよ!」

時斜の言葉に笑顔で返す。

「ふぅん……そうなんだ」

満面の笑みであった。そのはずだ。だが桃也の目にはどうも、その笑顔が見えていた。





「ねぇもう飽きたー!」

そこから更に時間が経った頃。やることがなくなり暇を持て余していた凛が駄々をこね始めた。

よく考えてみれば当たり前だ。子供が家具を運んでいる様子を見て楽しいわけがない。

だがバタバタと暴れてホコリを撒かれるのは困る。桃也と美結は困った顔で見ていた。

「うーん……ちょっと休んで村を散歩するか?」
「もうすぐだからやっちゃうよ。私は時斜さんと終わらせとくから、凛をお願いね」
「あいよ」

美結の後ろで時斜がマッスルポーズをしていた。まだまだ元気という合図だろうか。凛も真似をしていた。

「じゃあ行くか」
「うん!」

猫のような素早さで玄関へと移動。お気に入りの靴へとすぐさま履き替えた。

「……将来は忍者かな?」

興奮している凛をなだめつつ、桃也は靴紐を結んだ。





時間はちょうどお昼。畑では住民の方々が仕事をしていた。最近は農作業も現代化しているというのに、この村では手作業でする人が多かった。

「農家さん!」
「そうだよー。農家さんだね。何を作ってるのかな?」
「うーん……パイナップル!」
「パイナップルかぁ……流石にパイナップルは育ててないかなぁ」

パイナップルは凛の大好物だ。しかも酢豚のパイナップルも好きな珍しい子である。


「こんにちは!!新しく引っ越してきた羽衣です!!」

畑作業をしている人に挨拶をする。農作業だけあって、前腕の筋肉はスポーツ選手みたいに綺麗に付いている。

「……あぁ、君が新しい子かぁ!!」

クワを地面に突き刺した。額の汗を拭いながら、桃也と凛に歩み寄ってくる。

傷だらけ。それでいてマッチョだ。背丈は低めだが、筋肉が恐ろしいほどある。そんな見た目が怖いからか、威圧感を桃也は感じた。

凛も感じ取ったのか、桃也の後ろに隠れる。まぁ初対面の怖いお爺さんと流暢に話せる5歳児などいない。

「こら――」
「いいよいいよ……お嬢ちゃん名前は?」
「……凛」
「いい名前を付けてもらったな。おじちゃんは龍三りゅうぞうってんだ。かっこいい名前だろ?」
「――うん」

龍三は爽やかな笑みを浮かべて凛の頭を撫でた。凛も怖がることはなく、されるがまま撫でられている。

威圧感は変わらない。だが凛は恥ずかしそうな笑顔を龍三に向けていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

始業式で大胆なパンチラを披露する同級生

サドラ
大衆娯楽
今日から高校二年生!…なのだが、「僕」の視界に新しいクラスメイト、「石田さん」の美し過ぎる太ももが入ってきて…

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

僕が見た怪物たち1997-2018

サトウ・レン
ホラー
初めて先生と会ったのは、1997年の秋頃のことで、僕は田舎の寂れた村に住む少年だった。 怪物を探す先生と、行動を共にしてきた僕が見てきた世界はどこまでも――。 ※作品内の一部エピソードは元々「死を招く写真の話」「或るホラー作家の死」「二流には分からない」として他のサイトに載せていたものを、大幅にリライトしたものになります。 〈参考〉 「廃屋等の取り壊しに係る積極的な行政の関与」 https://www.soumu.go.jp/jitidai/image/pdf/2-160-16hann.pdf

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

処理中です...