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私のせい①
しおりを挟む「どうして・・・こんな事に?」
船が到着して、待機していたギルバートとダンテ医師と共に船に乗り込めば、甲板には数人の怪我人が座り込んでいた。
そのほとんどが、ライルの臣下達で、出迎えに出てくれたディーンも左腕に包帯を巻き、吊った状態で私達を出迎えた。
「何があったんだね?」
周囲を見渡して、低く問うダンテ医師にディーンは「こちらです」と行先を示しながら説明を始めた。
「国軍の船とかち合いまして、交戦となりまして・・・少々深追いをしすぎました。」
「国軍の?やつら下手に手を出さなければ、交戦などして来ない筈だろう?なぜそんなものと!?」
驚いたように声を上げるダンテ医師は、以前船医として航海に同行していた事もある。ありえないだろう!と驚きを隠せない様子の反応にディーンが申し訳なさそうに眉を下げる。
「色々とありまして・・・追い払うために威嚇をしましたところ、彼方も反応をしまして・・・そしてライル様が深追いをしてしまい、我々はライル様を引き戻そうとしたところ、このような形に」
「頭が暴走したのか!?珍しいな。」
そうつぶやいたダンテ医師の言葉に、一度だけチラリとディーンがわたしに視線を向けたのに気づく。
何だろうか?と見返すとすぐ逸らされて、それ以降視線が合う事は無かった。
しかし、それだけでわたしには何となく、ことの発端が何であるのか分かってしまった。
ちょうどその時、一つの船室の扉の前に到着した。
「ここです」と言ってノックもせずにディーンが開いた扉の先には、ライルが横たわっていた。
苦し気に激しく上下する胸元は剥き出しで、白い包帯がぐるぐると巻かれており、その所々に血が滲み出て、額には玉の汗が浮いている。
「これはなかなか・・・」
すぐに、そうつぶやいたのはダンテ医師で、彼はすぐさま部屋に入ると、自身の手にしていた鞄を開いて、ライルの側に寄る。
「傷はいつのものだ?」
「3日ほどです。応急的に縫い止めて消毒はしておりますが、塞がらず、熱も上がっています。」
戸口で立ち尽くすだけの私の耳には、ダンテ医師とディーンの会話がどこか遠くで聞こえるような気さえした。
ふらりと、足元が揺れて咄嗟に隣に同じように立ち尽くしていたギルバートに支えられる。
「ギル!リリー様を外にお連れしろ」
すぐさまディーンの指示が飛んできて、ギルバートによって私は部屋を出された。
「ここで処置するしかねぇな。医療の心得のある奴はいるか?人手がいる。」
「分かりました」
そんなやりとりを聞きながら、呆然と私はギルバートによって隣の船室に誘われ「ここでお待ち下さい」と言われて小さく頷くことしか出来なかった。
各手配のためギルバートが出ていくと、身体が震え出す。
ライルにもしものことがあったら・・・
もしライルが死んでしまったら
そんな事を考えるととてつもなく怖くなってきた。
彼を、失いたくない。
でもきっとこれは、私のせいなのかも知れない。
先程のディーンの視線を思い出す。
もしかしたらライルは、私のために・・・。
そう考え出すと、これまで全ての事に合点がいった。
私を守るために、わたしに彼が言えなかったこと・・・。
もしかして、わたしにきちんと話をするために、こんな無茶をしたのではないだろうか。
そうであるなら
「っ・・・私のせいだ」
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