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愛を告げる理由②

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「特に思春期になるとさ、そんな親の姿なんて見て居たくないだろう?あからさまに嫌な顔をして見せて居たら、父が言うんだ。『王妃であろうと、妻と呼べる者は無二の存在なんだ。私にとってその存在がお前の母であり、母上にとってもそれが私なのだ。お互いを認め合って大切にできるのはお互いしかいないのだから、そんな相手を大切にして、愛を伝えて何が恥ずかしいのだ?』って」

手早く餌を取り付けて、また海に放った彼は懐かしむようにその言葉を口にして肩を竦める。


「とてもお優しい方だとは聞いていたけれど・・・素敵なお父様だったのね!」

私の言葉に、彼は「ははっ」と声を上げて笑った。

「確かに優しい人だったな。母にとっては最高の夫だったし、子どもにとってもいい父だった。ただ残念なのは、その優しい性分が国王なんて地位には向かなかった・・・と言うだけだ。王家の長男として生を受けてしまったこと、野心家の弟を下に持ってしまったのがあの人の不幸な所だろうな」


眉を少し下げて、切なげに竿を先を見る彼の横顔を私はまじまじと見つめる。


とても素敵な、ご両親の話・・・けれども彼等の最後は伝え聞く話では辛いものだった。

「クーデターが起こる可能性は父も母も覚悟はしていた・・・なるべくそうならないように、努力はしていただろう。だが、あの優しい父はやはりどうしても未然に自らの弟を陥れて失脚させることができなかった。最終的に、もうどうにもならないところまで来て、そこであの二人が考えた事は、俺を逃がして自分達は失脚する事だった。長く抵抗を続ければ、関係のない市民たちにまで戦いの火の粉が飛ぶ。多少王室内がごたついただけならばすぐに政治も建て直されるだろうと」


「っ…それでお二人は・・・離宮で?」


私の問いに、彼はちらりとこちらを見て「あぁ」と悲し気に笑った。

お二人は、追手を逃れて、王宮の外れにある離宮に火を放ってそこで一緒にご自害なされた。

王族やその主権に関係のない私達市民には、王宮内で火災があって、後から聞くところによると国王陛下と王妃陛下がそこでお亡くなりになって、それがどうやらクーデターによるものだと知らされたのだ。
だから私達市民は、それがどこか雲の上の、自分達には関係のない遠い世界の話だと思っていたのだ。

それはきっと国王陛下が意図してそう計らったからなのだと、今初めて気づかされた。

あぁ、だからきっと、この人は自分が王座を取り戻そうとかそうした事を考えなかったのだ。
折角御父上が最小限に収めた傷を広げたくない。お二人の死を無駄にしたくないという事なのだろう。

「父は最初、母も逃がそうとしたんだ。けれど母がそれを拒んだ・・・『無二の存在を失ってなお、生き永らえるつもりははりません。いずれはどちらかが病で分たれる事になるだろうと思っていたのが、共に手を取り合って逝けるのなら本望だ』って。どんな伝えられ方をしているのかは分からないが、あの人たちはあの人たちで選んでそうなった。悲しくもあるし、叔父に怒りは感じるけれど、俺はあの二人の関係性は本当に唯一無二のパートナーだと思ったよ。」

そこまで言って彼は視線を私に向けて、そしてじっと見つめる。


「だから、いつか俺にも無二の存在ができたら、その時は父のように惜しむことなく愛を伝えようって、そう思て来たんだ」
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