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劣情【ライル独白】

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リリーを船上で初めて見た時、ひとめで見覚えのある顔だと思った。

もう捨て去ったはずの記憶の片隅に残っている、幼い少女の顔と合致したのは、気絶させた彼女の横顔を見つめている時だった。

厄介な事になった…うんざりしながら、しかし王子だった時の自分の記憶に残るほどの階級にいたご令嬢がなぜあんな粗末な積み荷とついでに人を運ぶような船に乗っていたのだろうか?
しかも供も護衛も連れずに…。

記憶に残る彼女は、いつも幾多もいるご令嬢の中に埋もれて、決して他の令嬢達のように近づいて来ることもなかったし、俺に興味があるようにも見えなかった。
少しだけ年下であったことから気後れしている…というわけでも無さそうで…正直この顔と王子という肩書に群れてくる女達よりも、妃にするならあれくらい冷めている女の方がいいのだろうなぁと思えるような令嬢の一人だった。

意思が強そうで勝気そうな顔立ちも、好みではあった。

かと言って彼女がどこの家の令嬢で何という名前なのかも調べさせるほど興味がそそられていたわけではない。

まさか、その少女が数年たつとこれほど美しく、いい女に育っているとは…な。
寝顔を眺めながら、その名前も知らなかった幼い令嬢の成長ぶりをしみじみと感じる。
船上でとらえられて、怯えながらも、気丈にこちらを睨み据えるその豪胆な性格と気高さすら感じる姿は正直息を飲むほどに美しかった。

その瞬間に初めて、あぁこの女が欲しい。そんな思いが沸き上がった。


目覚めた彼女の口から、やはり自分の正体に気付いた事を知り、そして彼女がなぜあんな粗末な船に乗っていたのか、その事情も理解できた。

どうやら本当に偶然、彼女の乗り合わせた船を襲ってしまったらしい。
新大陸でパン屋を開くという彼女の計画は、突飛で世間知らずの令嬢の発想としてはなかなか斬新で面白かった。
あんな風に、俺に興味がないという顔で、スカしていたあの少女が…更に彼女に興味をひかれた。


しかし…自分達があの船を襲った事により、しばらくは祖国と新大陸を結ぶ航路は監視が厳しくなる。
その上、アドレナードの婚約者がその船に乗っていたという情報がどこからか伝われば、しばらくは新大陸の入港にも彼女を探すことを命じられた者が配されるだろう。

正直今、彼女をここから出すことは得策ではない…俺の事情としても、彼女の事情としても。

彼女には悪い事をしてしまったと思った。自分達があの船を標的にしなかったら、きっと上手く逃げられたかもしれない。
その機を逸してしまったのだ。

とにかく、どうにか彼女を引き留めて…そしてどこかのタイミングで無事に新大陸に逃がしてやろう。と心の中では決めて、それでもそれが今の俺に確実にできるかどうかは分からなかったから、下手な希望を伝えることはせず、監視下に置かせてもらうと彼女に宣告した。

正直…その過程で彼女をその気にさせて手に入れてしまってもいいと、下心も働いた。

だからこそ、嫁として側に置くことを決めた。

俺が収めている島ではあるものの、元来海賊の根城になっていた場所だ。全ての者が善良であるわけでも無い。特に島の女たちと毛色の違う彼女は随分目立つ上、世間知らずだ。
しょうもない男達の手籠めにされかねない。

それは…絶対に許せない。

勝手な独占欲が働いて、彼女に触れてみれば、甘い香りと良く手入れされたきめの細かい白い肌と、その柔らかい触り心地に一気に虜になってしまった。

タイミング悪く現れたディーンにはおそらく俺のそんな劣情は見破られていただろう。
しかし彼自身、いずれ俺にも相手が必要だと思ってはいただろうから、特に反対の意はないようで、ただ「あまり無理に押すと嫌われますよ」と釘を刺されたくらいだ。


とにかく、なんだかんだと理由を付けて強引に嫁として彼女を手の内に入れる事に成功した。

はじめはこんな島での不便な生活に令嬢育ちの彼女が馴染めるのかと心配もしていたが、それも杞憂に終わった。

彼女は毎日楽し気におばあの家に出かけていくし、家の事も貴族令嬢とは思えないほど卒なくこなす。
どうやら2年準備していたというのも、、生半可な気持ちでやっていたわけではないのだろう。

自分自身、いずれクーデターで王宮を追われるかもしれないと思い準備をしておきながら、実際に自分の事を自分でできるようになるまでに随分と時間を要した。

それを、供を従えずに…大した女だ。


はじめは、あわよくば…と思っていた。しかしそれも彼女と共に過ごして行く内にどんどん引かれていく自分がいた。
彼女でなければ嫌だ…もう手放すことなんて考えられない。

気が付いたら、数日の航海に留守番で置いていくことすらできないほどに執着して…そしてどうにか振り向いてもらえないだろうかと乞うように彼女に触れてしまう。

ディーンの言う通り、あまり押しすぎるの良くないのは分かっている。しかしどうしても逸る気持ちを抑えられない。彼女に触れた、敵の海賊の男達に激しく怒りを覚えるほど…余裕がないのだ…情けない。


すぅすぅと腕の中で上下する華奢な背中を見つめる。最近ようやく一緒に眠る事に慣れてくれたらしい。いずれは…こちらを向いて無防備な寝顔を見せてくれる時が来るのだろうか?こちらに手を回して、胸に顔をうずめて、甘えるようにして…彼女にとってそんな存在になるのだ…

自由をやると言ったとしても、彼女が俺のそばに居たいと言ってくれるようになるように。


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