41 / 77
2章
39 いい仕事
しおりを挟む
「霜苓様の素性はなるべく知る者が少ない方がいいので、色々と誤魔化すために……少々脚色を」
蘭玉がいない時を、狙って汪景を留めると、至極当然の事をしたという顔で、そう言われ、霜苓は長ーいため息を吐いた。
「一体どんな説明をしたんだ! なんだかすごい勘違いをされているような気がするのだが……」
「表向きと同じ理由です。 戦場で出会いを果たし心を通わせられた。しかし互いの立場からお別れになる。殿下は霜苓様を忘れられず、霜苓様もまた殿下を忘れられず、お子を授かった。お一人で赤子を抱き、健気にも殿下を探す旅に出られようとなさっていた際に殿下と再会を果たし、夫婦として歩まれるために、上弦に向われる……ってところですかね?」
「っ……なるほど……」
「身分の違いも、ありますから、これくらい美談にして民衆の心を掴む事も大切なのです」
多分あとは妹の思い込みで作り上げてますかね……あいつ恋物語とか大好きなんですよ。身分違いの恋とか、障害があるからこそ萌えるとかよく言っているので、適当に流してください」
それに……と汪景は言って、格子窓の先に指を指す。
格子窓の先には、立派な朱塗りの回廊が見えて、そのさきに小さな露台があり、庭へ降りることができる。その回廊を、並んで歩く蘭玉と夫の天俊の姿がある。
丁度二人が足を止めて、何やら会話を交わしている様子で……近い距離で見つめ合い、天俊が蘭玉の頬をなでている。そしてそれに甘えるように、蘭玉がその手に自らの手を重ねて、頬を寄せる。そして夫の手の平に口づけてその手を握って、甘く微笑む。それを見下ろす天俊も甘い笑みを浮かべている。
ほんの数秒間の、ささやかな小さな戯れだ。しかしそれだけのことなのに、霜苓は言葉を失ってそれを見つめる。
「アレが、まぁ夫婦らしい反応ですかね……観察なさるのもいい勉強になるかと思いますし、妹に色々と聞いてみるのもいいと思いますよ?」
「たしかに……これは……勉強になるな」
あんな風に自然と男女が触れ合う姿を霜苓は初めて見たが……たしかにこれは知らなければ咄嗟にこんな反応はできないだろうと関心して、吸い寄せられるように歩を進める。
「いささか彼らはいちゃつきすぎなので、あそこまでしなくてもいいとは想いますが……聞いていませんね……」
汪景が気づいたときにはすでに霜苓の姿は自身の目の前になく、代わりに格子窓に張り付くようにして、妹夫婦を観察している後ろ姿が見える。
「さすが影の者、動きがお早いですね……しかし本当に優等生というか真面目な方だ……」
思わず汪景の笑みが深くなる。
これは少しばかりいい仕事をしたかもしれない。
蘭玉がいない時を、狙って汪景を留めると、至極当然の事をしたという顔で、そう言われ、霜苓は長ーいため息を吐いた。
「一体どんな説明をしたんだ! なんだかすごい勘違いをされているような気がするのだが……」
「表向きと同じ理由です。 戦場で出会いを果たし心を通わせられた。しかし互いの立場からお別れになる。殿下は霜苓様を忘れられず、霜苓様もまた殿下を忘れられず、お子を授かった。お一人で赤子を抱き、健気にも殿下を探す旅に出られようとなさっていた際に殿下と再会を果たし、夫婦として歩まれるために、上弦に向われる……ってところですかね?」
「っ……なるほど……」
「身分の違いも、ありますから、これくらい美談にして民衆の心を掴む事も大切なのです」
多分あとは妹の思い込みで作り上げてますかね……あいつ恋物語とか大好きなんですよ。身分違いの恋とか、障害があるからこそ萌えるとかよく言っているので、適当に流してください」
それに……と汪景は言って、格子窓の先に指を指す。
格子窓の先には、立派な朱塗りの回廊が見えて、そのさきに小さな露台があり、庭へ降りることができる。その回廊を、並んで歩く蘭玉と夫の天俊の姿がある。
丁度二人が足を止めて、何やら会話を交わしている様子で……近い距離で見つめ合い、天俊が蘭玉の頬をなでている。そしてそれに甘えるように、蘭玉がその手に自らの手を重ねて、頬を寄せる。そして夫の手の平に口づけてその手を握って、甘く微笑む。それを見下ろす天俊も甘い笑みを浮かべている。
ほんの数秒間の、ささやかな小さな戯れだ。しかしそれだけのことなのに、霜苓は言葉を失ってそれを見つめる。
「アレが、まぁ夫婦らしい反応ですかね……観察なさるのもいい勉強になるかと思いますし、妹に色々と聞いてみるのもいいと思いますよ?」
「たしかに……これは……勉強になるな」
あんな風に自然と男女が触れ合う姿を霜苓は初めて見たが……たしかにこれは知らなければ咄嗟にこんな反応はできないだろうと関心して、吸い寄せられるように歩を進める。
「いささか彼らはいちゃつきすぎなので、あそこまでしなくてもいいとは想いますが……聞いていませんね……」
汪景が気づいたときにはすでに霜苓の姿は自身の目の前になく、代わりに格子窓に張り付くようにして、妹夫婦を観察している後ろ姿が見える。
「さすが影の者、動きがお早いですね……しかし本当に優等生というか真面目な方だ……」
思わず汪景の笑みが深くなる。
これは少しばかりいい仕事をしたかもしれない。
3
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
魔族 vs 人間。
冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。
名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。
人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。
そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。
※※※※※※※※※※※※※
短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。
お付き合い頂けたら嬉しいです!
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる