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1章
22 至福の時間
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朝日が差し込んで目が覚めた。起き上がろうとして、腕の中で何か暖かなものを感じて、陵瑜はギョッとする。
霜苓が腕の中ですうすうと眠っていた。伏せた長く濃いまつ毛に白い肌が……
たまらなく可愛らしい……
本当ならば、あの朝に自分が見る光景だったものが、突然腕の中にあることに、動揺と胸の高鳴りが隠せなかった。
しかし……なぜ、霜苓がここに……?
考えても、答えに行きつかない。
とにかく至福の時間である。
香りを吸い込めば、乳のような甘い香り。あの時の彼女とは随分違うが、柔らかい香りに更に胸が締まるような愛おしさを感じる。
これから毎日こうして眠れたらいいのに……しかし、それはきっと嫌がられる。
一体自分はどうやってこの状況を勝ち取ったのだろうか。覚えてないのが惜しい。
日はだいぶ出てきているから、そろそろ起床の時間であるが、もう少しこの褒美の時間を堪能したい、そう思った矢先に、隣の寝台で珠樹がモゾモゾと動き出すのが見て取れた。
寝台の奥にいるとはいえ落ちそうで怖い。
諦めて、名残惜しいが、起こさないように霜苓の身体から腕を抜いて、寝台から抜け出すと、珠樹を抱き上げる。
トントンと揺らして腰のあたりを叩いてやれば、むぐむぐと口を動かしながら、まどろむ様子に、自然と目尻が下がる。
こちらもたまらなく可愛い。
うっすらと開けた暗緑色の瞳。自分の娘である証であるそれに、自分の顔が映り込んでいる。
「絶対に守るからな、お前も母さんも」
誓うように告げると、どうやらしっかり目が覚めたらしく、パチパチとこちらを見た珠樹が、次の瞬間にはくしゃりと顔を歪めて、「ふえっ!」と声をあげる。
泣き出す寸前のその声に、後方でむくりと霜苓が起き上がる気配がした。
「乳の時間だな」
何事も無かったかのように起き上がった霜苓は寝台が変わっていることに驚く様子はなく、真っ直ぐにこちらに向かってくると、陵瑜の手から珠樹をうけとってじっと見上げてくる。
「っ……どうした?」
共に寝ていた事を言われるのだろうか……緊張して、伺うように問いかける。
「乳の時間だ。少し外してもらいたい」
どうしたもこうしたもないだろう? と当然のような顔をされてしまう。
「っ……あぁ……すまない」
慌てて部屋を出る。毎度授乳の時には席を外しているのだ、あまりに狼狽えていて失念していた。
落ち着け……焦るな……
そう扉の前で自分の胸に手を当てて言い聞かせていると、気配を察したのか、向かいの部屋の扉が開いて漢登が顔を出す。
「どうしたんです? 焦って……なんかやって追い出されました?」
哀れむように言われて、大きく息を吐いた。
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