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1章

17 再会の裏側①

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 汪景と漢登の部屋を出て自室に戻ると、規則正しい寝息が2人分聞こえて、ほうっと息を吐く。 

 新月からまだ数日しか経っていないためか月の明かりは弱く、しかしそれでも、不思議なことに2人の顔はよく見えた。

 陵瑜の出入りする音や気配にも、霜苓が緊張することはない。

 それだけ心を許してくれているということなのだろう。
 今の彼女の中では依頼主と雇われの身であるという関係性が1番安心できて腑に落ちているのだ。本意ではないが、今はそれでいい。とにかく、あの朝のように、手元にいたものが、いつの間にかすり抜けて行きさえしなければいいのだ。


 霜苓と過ごしたあの晩は、結局はそれを望んでいた霜苓ではなく、陵瑜にとって忘れられぬ夜となった。

 初めは初心な生娘そのもので、慣れぬことに戸惑いながら、陵瑜に誘導されていく様は、陵瑜の心を掻き立てた。

 正直どんな女達との床でもどこか冷めきっていた自分があれほど夢中になって女の肌を求め、胸を焦がす事があるなどと思いもしなかった。

 戦勝の高揚感と彼女から発されていた媚薬の残り香の影響もあったのだろうか。一度では飽き足らず、2度3度と互いに求め会い、疲れ果てて眠りについた。


 眠りに落ちる直前、先に気を失うように眠ってしまった霜苓の手を握り、彼女をこのまま手放せないと思った。

 朝、目を覚ましたら、自分の身元を彼女に明かして、何か助けが必要ならば手を貸すと話してみよう。
 二人でできる手立てを考えたらいい。そう思っていたのに、明け方目を覚ますと、彼女はすでに陵瑜の側にはいなかった。

 どうやら彼女は本当に、一夜だけの思い出としていたのだろう。

 自分と彼女の温度差に愕然としながらも、普段ならばそこで見切りをつけるものを、なぜか全く諦めることなどできなかった。

 結局それから数日、終戦処理に追われつつも、兵たちの中に彼女の姿を探したりもしたが、ついに見つけ出す事は叶わず、上弦に戻った。

 上弦に戻ると、あの時多少無理をしてでも彼女と接触し、話をすべきだったのだと、その頃になって死ぬほど後悔することとなった。

 留守にしていた間の仕事に追われて、昼も夜もない生活を送る中でも、時折霜苓の事を不意に思い出して焦りが募った。彼女が他の男達の手に落ちる前に、なんとか助け出してやれないだろうか……と。

 あの戦で軍が密かに雇っていた殺を生業とする部族は3つあった。

 まず霜苓がどこの部族に属するのか……それを特定するのにも難儀した。
 その上、秘密の多い彼らの住処を突き止めて、そこに向かうまでの段取りを組むのに、かなりの時間を要した。

 周囲の者たちには目を覚ませ、他にもそのような不幸な女はこの世に沢山いるのだと散々言われたが、それでも押し通した。

 結局周囲が折れて上弦を出立するまでに1年の月日を要した。

 もう間に合わないかもしれない、だが今からでも彼女を救い出す。どんな彼女になっていようと、自分の手の内に収めるまでは諦めない。

 そう決めて霊月山の麓までやってきて……そして、あの運命の夜を迎えた。
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