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5章

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ユーリ様が宮内の階段を踏み外し、脚を折ったのだ。

私が予定通り、駆けつけた時には、医務室の入り口付近は話を聞きつけてきた議会の重鎮達に囲まれ、ユーリ様は医務室の中で医師の手当を受けていた。


「陛下に何があったの?」

事前の打ち合わせ通り、一緒にいたはずのジフロードに問えば

「それが、階段を踏み外されて、踊り場まで落ちてしまわれて、、、私が一緒におりましたのに、お助けできず申し訳ありません。」

ジフロードは、迫真の演技で後悔するように唇を噛んだ。


「怪我の具合は?」

医師に問えば、これも打ち合わせ通り医師が

「おそらく骨折かと、、、固定をしておりますのでこのまま運んで、自室の方で完全に固めた方がよろしいかと」

と提案する。

周りの事情を知らない者達が一斉にどよめく。

「それはしばらく陛下は表にお出になれないと言うことか?」

「議会はどうするのです?」

「しかし脚では同じ宮内でも通うことは難しいでしょう」

「脚はきちんと直さねば後遺症が残ります。私の父もむかし、、、」

などと私達の会話を聞いた議員たちが戸口で口々に言い合うのをが聞こえる。


「おそらくは、、、しばらくは動かれない方がいいでしょう。お部屋で詳しく診察をしてからでないとわかりかねますが。」

そう、外の議員達にもわざと聞こえるように医師が話すので、


「とにかくお部屋を移りましょう!」

私も慌てたようにそれに応じる。

「ユーリが怪我をしたって?」

そこにジェイドが予定通り到着する。

「俺が運ぼう、仮にも国王陛下の身体を兵に触れさせて運ばせるわけにはいかない」

ねぇなんだか物分かり良すぎじゃない?とあまりにもすんなりジェイドがユーリ様のお怪我を受け入れた気もするが、おそらく滅多にない一大事に、他の者達は疑問を持つものもいなかった。

「私も参りましょう。診断を聞いて議会に報告いたしますので、議員の皆様は議場にお戻りください」

そう言ってジフロードが議員達を議場に戻して、自身もユーリ様を抱き上げたジェイドの後ろについた。


そうして、なんとか色々取り繕って、ユーリ様を運んで、全員がリビングルームに入ると大きく息を吐いた。

「とりあえず上手く行ったな」

ここまでユーリ様を運んできた、ジェイドがソファに座って呟いた。


「ジフロード、上手かったわ」

私もジェイドの隣に腰掛けると、安堵した様子でユーリ様の上着を脱がせているジフロードに声をかける。

「ふふ、宰相なんていう仕事ができる奴なんて、無害な顔して腹の中で何か考えてるような人間じゃないと無理だもの。こんなのジフには朝飯前だよ」

なぜかユーリ様がおかしそうに笑って、ジフロードに悪戯めいた視線を向ける。

「国王という者だってそうだと私は思いますがね?」

しれっと言い返したジフロードも珍しく口角を上げて応戦している。

普段真面目で、ユーリ様に振り回されているようなジフロードだけれど、こんな一面もあるのかと、珍しく思いながら、私は全員分のお茶を入れ始める。


しばらくして、予定通り、知らせを聞いた先王陛下ご夫妻がやってきて、少しして入れ替わるようにジフロードが議会への説明のために議場に降りて行った。


「はぁ、ここからはお篭りの生活かぁ、仕方ないけど滅入りそうだ」

お腹を撫でながら、それでもやはりどこか安心した様子のユーリ様に、お母様である王太后様が

「少しの間だけだからゆっくりなさい、なんとかなるから。ここからは母としてお腹の子どもとの時間を楽しむのも大切よ?」


その手を取って優しく笑った。

国王陛下のお怪我は、大々的に公表された。足のお怪我は治癒までは歩行が困難で、ニューイヤーが明けた頃にリハビリをしつつ、戻れる見通しだという事になった。

ユーリ様の指示で国王不在の間は、議会など表の仕事は先王陛下と私が代わりに代行する事を発表したものの、やはり革新派は身重の私を引き合いに出し、アースラン殿下を引っ張り出してきた。

しかし、アースラン殿下が「国王陛下からのご指示がない以上そのつもりはない」と辞退なさった。

そしてわたしは詰め物を増やした大きなお腹を抱えて先王陛下と議会へ通う日が始まったのだった。
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