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4章

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その晩、少し遅い時間になったのを見計らって、私はジェイドの部屋に降りた。

私が自ら彼の部屋に入るのは初めてで、

「アルマ?どうしたんだ?」

階段を降りてすぐの扉をノックすれば、驚いた様子の彼が扉を開けて迎え入れてくれた。

「貴方は勝手に来たのに私はだめ?」

そう意地悪く笑えば、一瞬呆気に取られた彼は少し気まずそうに肩をすくめた。

「気づいていたのか?」

「やっぱり来たのね!」

呆れたように腕を組んで睨みつける。
実際のところ半信半疑だったのだが、まんまと彼はかかってくれた。

私にカマをかけられた事に気づいたジェイドは、「ごめん」と苦笑した。

ジェイドに誘われて、窓辺の長椅子に並んで座る。
小さなテーブルにはお酒の入ったグラスがひとつあって。どうやら一人でお酒を飲んでいるところだったらしい。

「アルマも、飲むか?」

そう問われて私は首を横に振る。
見るからに強そうなお酒だ。きっと自力で部屋に戻れなくなる。

それに目的は彼と話をする事だから、飲んでしまったらそれすら有耶無耶になりそうだ。


「アミーラ王女から、聞いたわ。」

そう告げれば、彼は手にしたグラスのお酒を煽って空にすると、テーブルに戻して私に向き合った。

「あぁ、、、最初から逃げずにあぁすれば良かったんだ、お前に変に当たる前に」

そう言うと、私の頬を彼の指が撫でる。
前の強引なものではなく、いつものように、壊れ物を扱うような優しい触れ方で。

見返した彼は私の視線を受けると、バツが悪そうに視線を僅かに逸らせる。

「ユーリに言われたんだよ」

「ユーリ様が?」



問い返せば、頬に触れたままだった彼の手が、目の下のあたりをゆっくりと親指で撫でる。

「お前を泣かせるなって、、、」

まるで涙を拭うように。

「すまない。今思えば単なる八つ当たりだ。前にお前はきちんと言ってくれたのに、、。そこまで俺のこと思ってないんじゃないかって勝手に卑屈になって腹を立てた。
本当はすぐにでも王女に会ってお前に謝りたかった、最悪な事に仕事が立て込んでて、、、あの日王女と話が終わって、居ても経ってもいられなくて、アルマの部屋に行った。」

それが、私が寝起きに嗅いだ彼の残り香だったのだろう。
あんなに香りが残るほど、そばにいてくれていたのだ。

「ごめんな。」

グリーンの瞳が苦しげに覗き込んできて、私は慌てて首を振る。

なぜか涙が溢れてきて、今度は本当に彼の親指に優しく拭われた。


「はぁ、また俺はお前を泣かせてるな、、、昔から成長してないってことか」

ため息を吐いて、苦笑するジェイドに私も肩をすくめて見せる。

「きっと、私も泣き虫なままなのよ」

彼の手の中でクスクス笑うと、そのまま彼の大きな手が頬から首筋を通り首裏まで回ると、グッと力強く引き寄せられる。

首裏を押した手がゆっくりと背中を降りてしっかりと彼の大きな身体に抱き寄せられると。

「アルマを愛してる、たとえ公にできなくてもずっと」

耳元に口付けるように寄せた彼の声が低く響いて、ぞくりと身体が熱くなる。

彼の唇が、耳元から頬を通り、唇に触れる。啄むように優しく柔らかくて、温かい。

何度か重なる内に、思い切ったようにジェイドの厚い舌が入ってきて深くなる。

この前は怖くて戸惑ったのに、、、不思議と嫌ではなくて、それどころかなんだか心地よくて。

気がついたら私も彼の動きに応えていた。

「んっ、、、っ、ふぁっ、、、」

合間にくぐもったような、それでいて甘い声が漏れてしまって、恥ずかしくて思わずジェイドの胸にぎゅっと捕まる。

どれくらい経ったのだろうか、互いの唇が離れて余韻を楽しむように軽く口付けあった。

気がつけば私は彼の両膝の間に腰を落ち着けていて、身体をすっぽりと彼に包まれてしまっていた。

呼吸が落ち着いたところで彼を見上げれば、彼はとろけるように甘くて、そしてどこか男の色気を纏った視線を私に向ける。

先程の行為を思い出しながら、そんな彼の視線に当てられた私の胸は煩いほどに騒いでいて、、、

でもきちんと、、伝えなければいけない事は伝えたくて、必死で彼の瞳を見据える。

「あのね。ジェイドは自分ばっかって言うけど、そんなことないんだからっ!
私だって、ジェイドの事思ってる。そりゃあ、ジェイドほど年季は入ってないけどっ、、、わっ!」

あまり心臓が持たない気がして、つい早口で一気に話せば、最後の言葉をいい終わるや否や、強い力で身体を包み込まれて。再び抱きしめられてしまう。
耳元に来た彼の唇が、再び耳に口付けられて首筋を甘く啄んで、そして私の寝巻きの襟元まで来たところで、ジェイドは大きなため息を吐いた。


「はぁ~、クソっ!ユーリめ!」

「?」

乱暴に毒づくジェイドの言葉に、何故今ユーリ様なのだろうか?と首を傾ける。

そんな私の身体をもう一度引き寄せてギュウっと抱きしめた彼は、何故だかとても悔しそうに身体を離すと。

「部屋まで送る」
と私の手を取った。

「すぐ上なんだから大丈夫よ?」

お酒も飲んでいないのだし、面倒をかけることはないのだがと、立ちあがろうとした彼を制すると。

「送りたいんだよ」

なんだか拗ねた口調で言われて、手を引かれた。

そうして、そのまま彼に手を引かれて、来た道を自室に戻る事になって、そして彼によってベッドまで送られると

「おやすみ」
またあの甘くてとろけるような瞳と声で囁かれてキスをされて

布団に入れられた。

彼の部屋に続く床がパタリと閉まる音を聞いた私は、慌てて頭まで布団を被る。

なんだかとんでもなく顔が熱くて、胸が騒いで眠れそうになかった。
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