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3章

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ユーリ様の、、、もとい私の妊娠が大々的に公表されたのはそれから2週あまり後の事だった。

結婚からわずかの懐妊の知らせに、世間は大きく湧いた。
連日新聞には私とユーリ様が幼い頃からいかに思い合っていたのか、結婚後も仲睦まじく過ごしていたのかと「その情報はどこで仕入れたの?」と思うような内容の記事まで出回っていた。

当人たちが読めばそのすべてが勝手な記者や周りの者の創作であることは分かるのだが、まぁ好意的に取られているのならば問題ないだろうと、そのままにしている。


祝賀ムードを、どこか他人のように一歩引いた場所から見ながら、私の生活は変わりなく粛々と繰り返されていく。

少し変わったことと言えば、、、。

リビングに戻って来るなり、ばたりとソファに倒れるユーリ様と。

「そのように勢いよくお倒れになっては!!」
と慌てて彼女の腕をつかむジフロードだ。


彼らは、朝の謁見を終えて戻ってきた所である。


「うぅ~。クラクラする。気持ち悪い~」

ソファに置かれたクッションに顔をうずめたユーリ様がうなり声を上げると、ジフロードが慌てた様子で部屋の端に置かれたワゴンに走る。

レモン水と干しブドウを練り込んだパンの乗った皿を持ってきて、ユーリ様に水を渡すと食べやすいようにパンをちぎって渡してやる。


しばらく無心でパンを千切る宰相と、それをとり憑かれたように機械的に口に放り込む国王という、シュールな絵面を眺めることになる。

最近では、これが日常の光景となっているのだから、私も慣れてしまった。


当然妊娠が進めばやってくるのは悪阻というもので、私自身、本でしか知ることがなかったそれは、幼い頃から身体を鍛えてきたユーリ様をも苦しめているのだ。

どうやら彼女の場合、空腹になると気分が悪くなり、めまいがするという症状らしい。
朝食を取っても朝の謁見を済ませる頃には、空腹がやってくるため、だいたいいつもふらふらになって戻って来る。

流石に謁見の最中に食べるわけにもいかないだろうし。

それでも最近は「妃の体調が心配なので、なるべく早く終わらせたい」と王妃を溺愛する国王という設定で、謁見をなるべく早く切り上げるようにしているのだという。

おかげで私は、悪阻に苦しむ王妃を装い、表に出ることもままならない。

とはいえやることは、山積みなので退屈することはない。


空腹を満たし、少し楽になった様子のユーリ様に私は3つに分けた紙束を差し出す。

「こちらはサインを終えたもの、こちらは判を押したものです。そしてこれが本日の決済分です」

「ありがとうアルマ、助かるよ」

そう言って、弱ったように笑うユーリ様は、まだ顔色が悪い。

「本日の分を読み上げますので、楽になさってください」

そう言えば、彼女は申し訳なさそうな顔をしつつも身体を倒して目を閉じた。

最近ではこの仕事スタイルがおなじみになってしまった。

私が読み上げ、それを聞いたユーリ様が思案して処遇を考える。

その隣でそれを聞きながらジフロードは私の押した印やサインに不備がないかを確認していく。

この数日で、私はユーリ様の筆跡を完全にマスターした。というより昔からお手紙をいただくたびにそのお名前の筆跡を指でなぞっていたので目にも指にも馴染みがあり造作もなかった。


そうして3人で仕事を何とか片付けていく。

私は懐妊したという事になってから、外へ出る仕事は全てなくなり、王宮内でも対外的な仕事も自粛している。

流石にやり過ぎではとも思うが、現国王の第一子を身ごもった王妃に何かあってはいけない、しかも少し前に襲撃された前例もあったために、誰も不思議には思わないらしい。

故に王妃としての仕事はわずかな書類仕事のみであり、時間を持て余しているので、ユーリ様のお手伝いに割く時間は山ほどあるのだ。

だからその日も永遠と書類を読み上げて振り分けて、そうして午前を終えた。


ユーリ様の体調に合わせて早めにランチを取る。
今日は週末であるため幸い午後の謁見はない。
急ぎの書類も片付く目途が立ったので、少し休んだらどうかとユーリ様に提案していた所、パタパタと珍しく急いだ様子の足音音が響いてきて、ノックと共にアイシャが入室してくる。

彼女がこんな様子でいるのは珍しい。余程の事があったのだろうと腰を浮かせる。


「先王陛下と、王太后様がお見えでございます」



その言葉に、私とユーリ様は顔を見合わせる。

「「まずい!!」」

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