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2章

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「一年以内、、、か」

帰宅の馬車の中で、私は一人ぽつりとつぶやいた。

あの初夜の晩にジェイドから「自分のことを見てほしい」と言われてから、いずれはと、どこか漠然と思っていた。
しかし、考えてみればうかうかしてられるような状態じゃあないのに、何をぼんやりしていたのだろう。

多分そんな私たちを見かねて王太后陛下が、ひと肌脱いでくださったのだろう。

「はぁ、もぅしっかりしなさい!アルマ!!」

パンっと頬を両手で叩いて気合を入れた。




そしてその晩、私は結構酔っていた。

お義母さまから言われた事と、自分の覚悟がずっと頭の中をぐるぐるして、ユーリ様とジェイドが心配するのをよそに、ワインを何杯も流し込んだのだ。


ふわふわする頭で、ジェイドに手を引かれ、よたよたと薄暗い自室に入り、前を歩く、ジェイドの後頭部を眺めながら、ぼんやりと考える。

問題はいつ、このことをジェイドに切りだすか、、、なのだ。


一年以内とお義母様がいうのなら、多分彼の頭にもその期限はあるだろう。
彼は私に彼の子供を産んで欲しいと言ったけれど、こうして毎晩のように私を寝台に送り届けるだけで何の進展もない。

あれ?なぜなのだろうか?


ひょっとして、私に魅力を感じないからなのだろうか?

それはなんだか悔しいぞ。

ぐらんぐらんと回る頭の中でそんなことを考え出すと、なぜかとても腹立たしい感情が沸々と湧いてきた。

そう、この時の私は全く冷静でなかったのだ。




ジェイドに手を引かれて、無事にベッドに腰掛けると、彼はベッドサイドに用意された水をグラスに注いでくれる。

いつも彼はそうして、私に水を飲ませてから帰っていくのだ。

しかしこの時、全く正気でなかった私は、差し出されたグラスを拒否してしまった。

そして代わりに、彼の困惑している瞳を見つめ、酔いで潤んだ瞳で

「ねぇ、口で飲ませて」


と強請ったのだ。本当にどうかしてたのだと思う。

私を見下ろしているジェイドの喉仏がこくりと上下するのが分かった。

「お前、何言ってるかわかってるのか?」

まるで信じられないとでも言うようなジェイドの言葉に、こてんと首を傾け、唇を尖らせる

「わかってるわよぅ」

そう言って、彼を見上げて、「さぁどうぞ」と目を閉じたのだ。

しばらくの間があって、彼が私の肩に触れて、そして暖かくて柔らかいものが唇に触れた。

ちゅるりと唇の間から、彼の唇の熱とは対照的に冷えた水が流れ込んできて、そしてコクリと私の喉を落ちていく。

火照った体と唇にその冷たさがジワリとしみ込んで、、、頭の中がすっきりとして、そこで私は一気に正気に戻った。

ちょっと待って、私何しでかしてるの!?
慌てて目を見開けば、目の前にはジェイドの麗しい顔があって、あぁまつ毛長い!美しい!なんて頭の片隅で考えながら、「どうしよぉぉぉぉ!!」と叫んでいた。

それなのに、そんな私の混乱をよそに、ジェイド唇はさらに深く私の唇をとらえていく。
それどころか、にゅるりと唇の間を彼の分厚くてさらに熱い舌が割って入ってきて、私の舌を優しく掬い取り絡めてくる。


その官能的な動きと、肩に置かれていた彼の手が私の背を這って、腰を引き寄せて彼の体と密着した熱で、一旦冷めた私の体の熱が再燃して、頭の中がクラクラとしてきた。

ちゅくちゅくと、舌を絡め合う音と、互いの熱い息遣いが部屋に響くのを、どこかぼんやりと聞きながら、あれ?でもこれって願ったりなんじゃぁ、、、。とどこか冷静に考えている自分もいて。

なんか気持ちいいし、このままでもいいかも、、、。とか思えてしまってきた。


そんなことを考えていると、知らない間に体はベッドに倒されていて、ジェイドのエメラルドのような瞳が、ギラリと熱を含んで見下ろしていた。
あぁやっぱりこの瞳、きれいだわ。吸い込まれるようにその瞳を見つめて惚れぼれとしていると。

不意に、するりと寝巻きを解かれ、すこしヒヤリとした、大きくてざらついた手が胸に触れた。

反射的にびくりと体が跳ねた。自分でない人間が自分の肌に触れる違和感と、これから始まる未知の行為に、突然怖いと言う思いが浮かんできてしまったのだ。

しかし、貴族に生まれて、王妃として嫁いだ身の自分がこればかりのことで怖気づくわけにはいかない。だってそれが私の使命なのだから。胸の奥に湧いてくる恐怖を押しとどめようと、歯を食いしばり、ぎゅっと瞳を閉じた。

大丈夫だ、だって相手はジェイドなのだ。彼が私に無理を強いることがあるはずないのだから。

そう自分に言い聞かせれば、なんだか少し怖い気分が和らいだような気がして、ゆっくり力を抜いて目を開く。

エメラルド色の瞳とすぐに視線が合った。そこには先ほどまでの熱はなくて。寝巻の下を這っていた彼の手が止まっていた。

「やめよう、まだ早いな」

自嘲するように彼は言って、私の上から体を起こした。ついでに乱れていた寝巻きも直される。

「な、んで?」
呆然と呟くと、彼の手が額を撫でた。

「お前の意思じゃないだろう?、、、母様に何か言われたな?」


確信を持ったその問いは図星で。咄嗟に反論できずに息を詰めた。


「やっぱりか」

ため息と少し怒気をふくんだ彼の言葉には失望も混じっている。


「だって、、一年以内に妊娠しないと不味いんじゃ」

起き上がって追いすがるように彼のシャツの裾を掴むと、ジェイドは黒髪をくしゃりと掻き上げると

「それか、ったく!気にすんな!そんなもん!」

忌々しそうに、吐き捨てた。

「でも!」

身を乗り出そうとした私の肩を、ジェイドが押し留める。


「俺は、まだ覚悟もできていないお前を抱きたくはない。」

意志の強い、彼の瞳がしっかりと私を捕らえていた。

「でも、、、」

「アルマ」

静かに諭すような彼の声が部屋に響いた。


「頼むから、大事にさせてくれ」

その言葉は、やけに優しくて、痛々しい響きを含んでいて

言葉が出なかった。


言葉を失って、愕然と彼を見ている私の髪を、彼はサラリと撫でて。

「おやすみ」

部屋を出て行ってしまった。
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