20 / 97
2章
8
しおりを挟む夜、ユーリ様に誘われて共有スペースに向かえば、テーブルには、私が所望したモンシェールのベリーのタルトとショコラがきちんと用意されていた。
「ジェイドは少し遅れるから先に食べいていいそうだよ?モンシェールのケーキなんて久しぶりだなぁ」
いつもの如く、艶かしい寝巻き姿の陛下も、目を輝かせている。
殿下も昔からモンシェールのケーキは大好きで、確か、、、
彼女の皿を見れば、木の実のタルトとフランボワーズフレーズ。彼女が昔から好んで食べていたものがきちんと用意されている。
「アルマのおかげで私も得しちゃった!」
弾むようにソファに座ると、彼女は皿を取ってヒョイと木の実のタルトを持ち上げるとそのままかじりついた。
「う~ん!最高!ワインが欲しい」
満足そうな彼女に誘われるように、私も向かいのソファに腰掛けると、皿を取る。
ユーリ様に習ってベリーのタルトにかじりつく。
幼い頃、こんな姿を母達に見られると、「はしたない」とよく咎められた。だから私たちはよく母達の目を盗んで、こんな食べ方をしていた。
ユーリ様もそれを思い出したのだろう。彼女の顔が、悪戯な笑みをうかべている。
多分私も同じ顔をしている。
「こうして堂々食べられるのは最高だね!」
「ふふ、本当に。やっぱりタルトはこの食べ方が一番美味しいと思います」
私の言葉にユーリ様がパチリとウインクをして私に微笑む。
「同感だよ。これからたまにはオヤツに用意させようか」
「まぁ、嬉しいです」
素敵な提案に、ぴょんと跳ねて、身を乗り出す。
「それは、まさか俺にと言うわけではないだろうなぁ?」
突然、ユーリ様のお部屋の戸口から、呆れたようなバリトンボイスが聞こえて、私とユーリ様は声の主を振り返る。
「ジェイド、お疲れ様。ケーキをありがとう」
「先にいただいているよ!もちろんまた次も頼むよ!軍司令殿!あとワインが有ればありがたいんだけど、君のワインセラーにちょうど良さそうなものはないかな?」
仕事を終えて、ジャケットを脱いだだけのジェイドは、苦虫を噛み潰したような顔で、立っている。
「ケーキの次は、ワインかよユーリ。昨日も散々飲んだだろうが」
「あんなの寝酒にもならないよ!」
さらりと言って除ける姉に、弟は呆れたように息を吐いた。
「少し待っていろ、、」
そう言って踵を返して出て行ってしまった。
「国境線は葡萄の産地で有名だからね。アイツあっちに行ってワインの味を覚えたらしくて、ずいぶんいいものをコレクションしてるんだ。」
ふふふっとユーリ様はそれはそれは楽しそうに笑った。
「一人で飲むより、みんなで飲んだ方が楽しいじゃない?アルマも遠慮なく飲んだらいいよ、寝てしまったらジェイドが寝台まで運んでくれるし。昨夜は無事だった?」
私は途端に、顔が熱くなった。
「ぶ、無事に決まってます!」
慌てて首を横に振って、残りのタルトを口に放り込んだ。まさかジェイドのシャツを奪っていたなんて事は言えない。
「そうなの!?(チッ、あの意気地なし)」
ユーリ様は驚きながら、何かブツブツ言って、背もたれに身体を預けた。
そのタイミングで、例によってパカリと床板が外れてそこから、ジェイドが顔を出す。
最初こそ驚いたものの、そろそろ見慣れてきた。
「貴腐ワインにしてみた。」
ジェイドはそう言ってワインをユーリ様に渡すと、私の横に腰掛けた。
「流石、分かってるねぇ~。これならアルマも飲めるしね」
ジェイドから受け取ったボトルのラベルを眺めて、ユーリ様は満足そうだ。
どこにあったのかすかさずオープナーを取り出して、意気揚々と開けている。
その間にジェイドは、自身の脇に設られているチェストからワイングラスを3人分出している。
あ、私が飲むのも決定事項なのね。
今日こそは、ジェイドに迷惑をかけないようにしなくては。
そうして始まった深夜のスイーツ&お酒タイムは私たちの日課になって行ったのだった。
そして私は毎夜のように、眠ってしまうか、フラフラになってジェイドにベッドまで送られるという醜態を晒す事になっていた。
だって2人とも強すぎるのだ。
そして私が弱い事を知りながら、、、彼等は飲ませるのだ、、、。本当にひどい。
10
お気に入りに追加
1,855
あなたにおすすめの小説
【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】
臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!?
※毎日更新予定です
※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください
※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています
「後宮の棘」R18のお話
香月みまり
恋愛
『「後宮の棘」〜行き遅れ姫の嫁入り〜』
のR18のみのお話を格納したページになります。
本編は作品一覧からご覧ください。
とりあえず、ジレジレストレスから解放された作者が開放感と衝動で書いてます。
普段に比べて糖度は高くなる、、、ハズ?
暖かい気持ちで読んでいただけたら幸いです。
R18作品のため、自己責任でお願いいたします。
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
契約期間が終わったので、お飾りの妻を引退しようと思います。
野地マルテ
恋愛
伯爵の契約妻ミエーレは、義父を看取った後もんもんと考えていた。ミエーレは『余命いくばくもない父親を安心させたい』と言う伯爵ギドの依頼でお飾りの妻──いわゆる契約妻になっていた。優しかった義父が亡くなって早二月。ギドからは契約満了の通達はなく、ミエーレは自分から言い出した方が良いのかと悩む。ミエーレはギドのことが好きだったが、ギドから身体を求められたことが一切無かったのだ。手を出す気にもならない妻がいるのはよくないだろうと、ミエーレはギドに離縁を求めるが、ギドから返ってきた反応は予想外のものだった。
◆成人向けの小説です。※回は露骨な性描写あり。ご自衛ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる