上 下
19 / 97
2章

7

しおりを挟む
差し込んできた朝日がやけに眩しくて、そして何故か頭がズキリと痛んで、私は一気に覚醒した。


見上げた先にあるのは、最近おなじみになった自室のベッドの天蓋だ。

あぁ、、朝か。

そこでゆるゆると思考が動き始めて、、、あれ?昨夜はたしかユーリ様とジェイドとワインを飲んでて、、、あれ?まさか私ったらそのまま、、、。

そして徐に持ち上げた左手に、何か白いものを握りしめていることに気付いた。


白い布、、、少し硬い生地のそれは、シャツの形をしていて、、、ふわりと香水の香りが鼻をくすぐった。

そしてその香りには、なんとなく馴染みがあった。少し前に嗅いだ香りだ

そこで、ようやく自分がこのベッドで目覚めた流れをだいたい、、、そう、だいたいと言うか、ほとんど理解した。



ジェイドに世話になった上、私は彼のシャツをひん剥いたのだろうか、、、なんて事を!

寝相は悪くないはずだ、、でも時々寝ぼけてやらかしたことは数回ある。酔ってたし、、、否定できない。


起き上がって、じっくりとシャツを見る。

汚したりはしていないらしい、よかった。

簡単に畳むと、ふわりと生地から彼の香りが立った。

まるでつい先ほど脱いだかのように鮮明な、、、

いやいや、まてまて、もしそうだったらまずいでしょ!

慌ててブンブン首を振って、シャツを置くと、それから逃げるようにベッドから立ち上がる。


「これ、、、どうしよう」


一体どのタイミングで返せばいいのだ、、、侍女に渡せばいいのだろうか、、、でも、私が何故、義弟のシャツを持っているのかって話になるし、、それとも本人に直接?いつ渡せるのかも分からない。

困った、どうしようかしら、室内を歩き回りながらブツブツ言っていると、コンコンと扉をノックする音がする。

いつもより少し早い時間だけれど、アイシャだろうか?

そうだ!彼女に相談してみよう。

そい思っていそいそと扉を開いて、、、

目の前に立っている人物の顔を見て、、、固まった。


「起きていたな?」


「お、はょぅ、、ジェイド」

扉の前に憮然と立っていたのは、紛れもなく、今頭を悩ませていたジェイドだ


彼も寝起きなのだろう。いつもは後ろに流している前髪は彼の頬に掛かるように落ちていて、その間から除く切れ長のグリーンの瞳は、まだ眠いのか憂いを含んでいる。

「こんな時間に、、どうしたの?」

困惑するように見上げた私に彼は視線をわずかに反らせる。



「シャツを回収に来た、、きっと始末に困っていると思ってな」

「あ、なるほど、、、。」

ついぽかんとしながら、納得の声を上げる。

どうやら私が困るだろう事を彼も想定していてくれたらしい。

「待ってて!」
そう言って、一度扉を閉じようとした時、リビングの先の廊下で侍女が動く気配を感じた。

素人の私でも感じる事ができたのだから、ジェイドはもっと早く気づく事が出来たのだろう。

「あっ!」と思った時にはすでに彼に肩を抱かれて、寝室に駆け込んでいた。

シャツと同じ、、、それよりも濃いジェイドの香りと、薄いシャツ越しにもわかる引き締まった筋肉の感触がやけに鮮明に感じられて

一瞬のうちに頬に血がめぐったのが分かる。



扉を閉めたのと同時に、先ほどまでジェイドがいた間に侍女が数人、入ってきた音を聞く。



「間一髪!危ねぇ」

ククッと低い彼の笑い声が耳元で聞こえ、わずかな息遣いが産毛を撫でた。


「っ、、、」
思わず肩を竦めて固まる。だってこんな近くに男性が近づくことなんて今まで無かったのだもの。

突然寝起きにこんな事をされて、平気でいられるほど、私は男性に慣れていないのだ。


そんな私の反応に、ジェイドが気づいたかどうかはわからない。
一瞬だけ、ギュッと彼の私を抱く手に力が入ったけれど、あれ?っと思っている間にそれは解かれて、彼の身体が離れた。

ようやく自由になって見上げれば、彼の美しいグリーンの瞳が私を見下ろしている。

「侍女が起こしに来る時間まではまだ時間があるな?」

確認のように聞かれて、私はコクリと頷く。

まだ30分ほどはあるはずだ。

「そうか、、、ならば帰りはこちらの出入り口を使わせてもらった方が良さそうだな。シャツは?」

「あ、寝台のところに!」

慌ててジェイドから離れて、寝台へ向かい、先程自ら畳んだシャツを差し出す。

畳んで置いてよかった。抱きしめて寝ていたなんて知られたら、、、恥ずかしすぎる。

「その、ご迷惑をおかけしたみたいで」

なんと礼を言っていいやら分からない、というよりどんな醜態を晒したのだろうか、、、知りたいようで、知りたくない。

「気にするな。ただあっちに寝ていたのをこっちに移しただけだ。よく眠っていたな、引いても引いても握り込んで離さなかったぞ」

シャツを受け取ったジェイドは、肩を竦め揶揄うような口調で、簡単に状況を説明した。

「あ、よかった。わたしがひん剥いたわけじゃないのね!」

安堵と共に咄嗟に出てしまった私の言葉に、ジェイドは数秒、その長い睫毛をパチパチと瞬いて


フッと噴き出した。
すぐに声を殺さねばならない事を思い出して、拳を口元に当てて、それでもクツクツとおかしそうに肩を揺らして笑っている。

私の頬が一気に熱くなる。

「っ、、、そんな笑わなくても!」

酔ってたんだもの。そして、起きたら男性の服を握り締めていたら、誰だってそうおもうだろう。

「いや、すまん。なんか、アルマらしい発想で、、、」

私の抗議に彼はまだおかしそうに、笑いを噛み殺しながら、悪いとも思っていなさそうな顔で謝罪される。

私はむくれた。


「ごめん。大丈夫だ。運ぶ時に不安定だったのか、無意識に俺のシャツを握り込んでしまっただけだから、、、怒るなよ」

「そんなニヤニヤされて謝られても、、、」

ジトっと睨みつけると彼は参ったなぁと肩を竦めて


「悪かった。じゃあホラ、お詫びの印に今夜はモンシェールのケーキを献上するから」

食べもので私を釣り出した。

モンシェールのケーキ、、、それは城下にある、わたしが幼い頃から大好きなケーキのお店、、、。王妃になって王城に入ってから、しばらく食べていない、、恋しい味、、、。

そんなもので、、、釣られるものか!


「タルトと、ショコラがいいわ!」


「仰せのままに、王妃陛下」

恭しく胸に手を当てて騎士の礼を取るジェイドは、まだ、笑いを堪えているような顔をしていて、、、

くっ、簡単に買収されるなんて悔しい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R-18】年下国王の異常な執愛~義母は義息子に啼かされる~【挿絵付】

臣桜
恋愛
『ガーランドの翠玉』、『妖精の紡いだ銀糸』……数々の美辞麗句が当てはまる17歳のリディアは、国王ブライアンに見初められ側室となった。しかし間もなくブライアンは崩御し、息子であるオーガストが成人して即位する事になった。17歳にして10歳の息子を持ったリディアは、戸惑いつつも宰相の力を借りオーガストを育てる。やがて11年後、21歳になり成人したオーガストは国王となるなり、28歳のリディアを妻に求めて……!? ※毎日更新予定です ※血の繋がりは一切ありませんが、義息子×義母という特殊な関係ですので地雷っぽい方はお気をつけください ※ムーンライトノベルズ様にも同時連載しています

「後宮の棘」R18のお話

香月みまり
恋愛
『「後宮の棘」〜行き遅れ姫の嫁入り〜』 のR18のみのお話を格納したページになります。 本編は作品一覧からご覧ください。 とりあえず、ジレジレストレスから解放された作者が開放感と衝動で書いてます。 普段に比べて糖度は高くなる、、、ハズ? 暖かい気持ちで読んでいただけたら幸いです。 R18作品のため、自己責任でお願いいたします。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話。加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は、是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン🩷 ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。 ◇稚拙な私の作品📝にお付き合い頂き、本当にありがとうございます🧡

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

契約期間が終わったので、お飾りの妻を引退しようと思います。

野地マルテ
恋愛
伯爵の契約妻ミエーレは、義父を看取った後もんもんと考えていた。ミエーレは『余命いくばくもない父親を安心させたい』と言う伯爵ギドの依頼でお飾りの妻──いわゆる契約妻になっていた。優しかった義父が亡くなって早二月。ギドからは契約満了の通達はなく、ミエーレは自分から言い出した方が良いのかと悩む。ミエーレはギドのことが好きだったが、ギドから身体を求められたことが一切無かったのだ。手を出す気にもならない妻がいるのはよくないだろうと、ミエーレはギドに離縁を求めるが、ギドから返ってきた反応は予想外のものだった。 ◆成人向けの小説です。※回は露骨な性描写あり。ご自衛ください。

処理中です...