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番外編ー清劉戦ー
3日目夜 決戦の前
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夜陰にまぎれて宮を出たのは予定より少し早めの時間だった。
皇太后と異母兄との謁見の際のやりとりを思うと、彼等の中では翠玉は異母姉を落とし入れた人物、つまりは親子の敵であると認識されているらしい。
どこかに監視がついていてもおかしくはないだろうと、念を入れてお忍びの物見のふりをして出かけながら、監視の存在を探る。
烈のつけてくれた影の1人が一行の周囲を注意深く観察し、問題がない事を確認して、そこでようやく目的地である後宮の北側に向かう。
清劉皇帝の後宮は、側室や皇子皇女を多く抱えた先代の御代に拡張を行い、その中でも1番新しく、そして歪な形をしているのが、今回翠玉達が狙う北殿だ。
なぜ歪な形にせざるを得なかったのかと言うと、それは北殿の間近に歴代の皇族の廟が迫っていたからなのだ。
流石に歴代の皇帝や皇后の墓を立ち退くことは出来なかったようだ。
故に後宮からはその廟が見えないよう、一段と高い城壁が設置されているのだ。
先人の目からまるで何かやましい事を隠したいのだろうか?後宮の片隅で飼い殺されていた頃の翠玉は、そんな皮肉めいた事をよく考えたものだ。
北殿の城壁が見えて来た頃、不意にそんな事を思い出しながら、密かに自嘲する。
本当に、少しだけ。表情を変えただけなのに、半歩先を歩いていた冬隼がこちらを振り返って、視線だけで「どうした?」と問うて来る。
本当に、なんでこの人はこれほどまでに翠玉の感情の動きを具に察知するのだろうか。
それほどまでに、彼が翠玉の心情に気を配ってくれている以外に他ならないのだが、それにしても凄すぎる。
向けられた視線に、微笑み返して「大丈夫よ?」と肩をすくめて見せると、随分馴染み深くなった節くれだった大きな手が、翠玉の後頭部を撫でる。
その温かな夫の体温が、胸の奥に少しだけ顔を出した古い蟠りのような黒い影を押し戻した。
まだ、後宮で飼い殺されていたあの頃。あの壁の向こうにある廟は、いずれ翠玉が1人寂しく行く場所だと思っていた。
当然母や兄弟と共に葬って貰えるなどと期待はできない。
ただただ形式的に葬られ、そしてすぐに忘れられるのだと思っていた。
まさかこんな未来があるなどと露ほども予想せず。
「ありがとう」
そう小さく告げれば、一瞬だけ冬隼は眉をよせて、小さく頷くと前を向く。
後頭部を撫でていた手が、翠玉の手を捕まえて、勇気づけるようにキュッと握った。どうやら離すつもりはないらしい。
城壁がどんどん近づいて、そして一行は廟の少し手前の夜陰に身を隠す。
側には数名の人の気配。
秘密裏に国境を超えて来た配下達の気配を確認し、ゆっくり息を吐く。
あとは無事に潜入するだけだ。
北殿への入り口や、北殿の構造はすでに頭に入っている。
目的の人物がどこにいるのかも、予測済みだ。
内部に入れば、先行して密かに後宮に入れた烈の手の者が最新の情報を教えてくれる手筈になっている。
流石に歴代の皇帝と皇后や側室、夭折した皇帝の子達を祀る廟の入り口には兵が配されている。
彼らに直前まで気づかれるべきではないため、少し距離を取ると、しばらくして烈が姿を現した。
彼には、この皇宮を取り囲む友軍の全体的な調整を頼んでいる。影から影へと隠密に、しかもかなりのスピードで移動でき、敵の匂いを嗅ぎ分ける事が可能な烈の能力にはうってつけの任だと、冬隼のお墨付きだ。
そんな彼が、今ここに現れたという事は、何か伝えるべき事があるのだろう。
「予定外の事が起こっております。皇帝は側近を引き連れ後宮で予定にない酒宴を催し始めた様子」
「なるほど、随分と気分をよくしたか……参加しているのは側近だけか?」
眉を寄せた冬隼が低く問うと、烈が「いえ」と首を振る。
「皇后、側室も同席しております。皇太后はいないとの事……ただ、一つ潜入させている者は顔を知りませんので不確定ですが、董伯央らしき人物も一緒だと……」
「董伯央が?」
思わず訝しむ声が出た翠玉に、「はい」と烈は静かに告げる。
「何度か皇帝が董殿、伯央殿と声をかけて、新たな友と称して随分ともてなしているそうで……」
「間違い無いわね。多分……明日の各国の会談の前に結託したんだわ。本当に董伯央……侮れない男だわ」
低くうめくと、冬隼と視線が合う。
董伯央は董伯央で、この機会に片付けてしまいたいとは思っていたので、同じ場所にて片付くならば渡りに船だ。
しかし、切れ者の彼がそう上手くはやられまい。
混乱に乗じて後宮の警備体制を崩し、皇帝の守りが固まる前に片をつけるつもりでいたが……董伯央が存在することによって彼が余計な助言や指示をして体勢を固められる事は避けたい。
何とか早期に分断したいところだ。
そこまで考えたところで、翠玉はある事を思い出す。
それは、獲物を狙う野生動物のようなあの色素の薄い切れ長の相貌。
「烈……狂人の居場所は把握している?」
唐突な翠玉の問いに、烈が一瞬息を呑む気配を感じる。
「西側の隠し通路界隈で先ほど微かな香りを感じました。おそらく董伯央が中にいる事はかぎつけておられるようですね。あの辺りから潜入するおつもりでしょう。」
「やはりね……」
「どうされるおつもりで?」
翠玉の呟きに首を傾けた烈のその表情は、何かを察して楽しげだ。
彼にも薄薄予測は付いているだろう。
「兄様と合流するようけしかけて、そこから入るのが1番早く獲物に会えるわよって!あと、その兄様にもこの状況を伝えてもらえる?目指すのは皇帝の寝所ではないとね。禁軍の一部も投入して一気になだれ込んで片をつけるわ。禁軍の……卓牙の方にも伝えてくれる?「一本槍の如くの働きを」って!私は予定通り皇太后の方へ向かうわ」
「承知いたしました」
含んだ笑みを浮かべた烈は、一度主人である冬隼に視線を向け、冬隼が頷くのを確認すると
「ではっ」
と一礼して姿を消した。
烈の気配が消えると、再びその場は静寂に包まれる。
「一本槍……とはどう言う意味だ?」
しばしの静寂の後、ポツリと、隣で待機する冬隼が問うて来る。
作戦前の今そんな事を問うて来るのか?冬隼にしては珍しいなと思いつつ、肩をすくめる。
「私の師の口ぐせね。禁軍の将の卓牙は、私の師の孫なの。師の好敵手だった将軍が過去に戦場で群がる敵を蹴散らしながらなりふり構わず一直線に攻め込んで、自身の主人……私のお祖父様に当たる当時の皇帝を助け出した時の事を、こう形容していたの。ようは些事に構わず兄様の援護へ向かいなさいって事よ。」
ただ、それだけのことで、おそらく卓牙相手ならばこれが1番わかりやすいと言葉を選んだのだと説明すれば、冬隼は「そうか……」と少々複雑そうに微笑んで、沈黙した。
「ふっ、くくっ!殿下ってば、やきもちやきさんなんだからっ!」
「っ……華南!!」
すると今度は後方から、可笑しそうに笑いを堪えるような華南の声と、慌ててそんな妻の言動を諌める隆蒼の忍んだ声が聞こえて来て。
「っふふふ!だって、もう可笑しくてっ!卓牙ってあの以前翠玉様のお部屋にあった、あの報告書の元恋人って間違って書かれていた人でしょう?」
何が起こっているのかいまいちわからず説明を求めるように華南を振り返ると、笑いを必死で堪える華南に問いかけられる。
実は翠玉の出産が間近に迫った頃、翠玉の部屋の一斉改装が行われ、その際にどこかに紛失していたあの報告書が出て来たのだ。
それを華南と笑い話半分で読んだ事を思い出して、そんな事もあった事を思い出す。
たしかにあの報告書には卓牙は翠玉の恋人だった事があるなどと書かれていて、冬隼もそれを信じていた時期があったのは翠玉も覚えている。
しかし、想いを通じ合わせた頃、それは完全に間違った情報であると、冬隼にも説明したはずなのだが。
「っ、華南……黙れ」
どこか拗ねたようなばつの悪そうな言葉と共に、冬隼が華南を睨め付ける。
「ふふっ、すみませぇん。もう殿下ってば!お子様までいるのに昔の恋人と翠玉様にしか通じない言葉一つに嫉妬するなんて、心狭いんだからっ!」
「っ……恋人ではなかった筈だ!」
「最初に突っ込むところそこな辺り拘ってますよね!仲が良かった男性がいて、その存在が近くにいるって言う事で気が気じゃないって言えばいいのにぃ~」
「っ……」
華南が呆れたように放った言葉に冬隼が息を呑んで言葉を失った。
どうやら全て図星のようで……。
一度チラリと冬隼が翠玉を見て、すぐに気まずげに視線を逸らせた。
その横顔は、少しばかり拗ねているようにも見える。
華南に視線を向ければ、華南は華南で戦いの前とは思えないほどの極上の笑顔をこちらに向けていて、その隣の隆蒼は少々疲れた顔をしている。
「えっと……」
困って何かを言わねばと思ったところで、冬隼の大きな手が、翠玉の頭をくしゃりと撫でる。
「いい、わかっている……少し面白くなかっただけだから気にするな」
ぶっきらぼうに言われたその言葉に、頬がにわかに熱くなるのを、感じていると。
「ぶっ!くっ、くっ」
華南が後ろで必死で笑いをこらえる気配と
「お前な……台無しだぞ」
と隆蒼がげんなりした様子で妻を嗜める声が聞こえてきた。
--------------------------------
お久しぶりです。
前回の更新から半年もお待たせしてしまい申し訳ありません。
のんびり書くと言って、本当にのんびりになってしまいました。
おかげで元々の予定の内容からかなり膨らんでしまい、未だ私の手元でも完結できていません(^^;
のんびり不定期に更新していきますので、ゆるりとお付き合いいただければと思います。
近況とTwitterでもお知らせしました通り、「後宮の棘~行き遅れ姫の嫁入り~」が7/15頃より書店さんに並ぶこととなりました。
各所WEB販売サイトでも予約スタートしているようです。是非お手にとっていただけたら、作者泣いて喜びます^_^
併せまして7/15に書籍該当部分が引き下げられますこともお伝えさせていただきます。
読み返すなら今です!笑
ここまで来られたのも皆様のお力添えがあってこそと思っております。ありがとうございます。今後とも楽しんでいただけるものをお送りできるよう精進してまいりますので、よろしくお願いいたします^ ^
皇太后と異母兄との謁見の際のやりとりを思うと、彼等の中では翠玉は異母姉を落とし入れた人物、つまりは親子の敵であると認識されているらしい。
どこかに監視がついていてもおかしくはないだろうと、念を入れてお忍びの物見のふりをして出かけながら、監視の存在を探る。
烈のつけてくれた影の1人が一行の周囲を注意深く観察し、問題がない事を確認して、そこでようやく目的地である後宮の北側に向かう。
清劉皇帝の後宮は、側室や皇子皇女を多く抱えた先代の御代に拡張を行い、その中でも1番新しく、そして歪な形をしているのが、今回翠玉達が狙う北殿だ。
なぜ歪な形にせざるを得なかったのかと言うと、それは北殿の間近に歴代の皇族の廟が迫っていたからなのだ。
流石に歴代の皇帝や皇后の墓を立ち退くことは出来なかったようだ。
故に後宮からはその廟が見えないよう、一段と高い城壁が設置されているのだ。
先人の目からまるで何かやましい事を隠したいのだろうか?後宮の片隅で飼い殺されていた頃の翠玉は、そんな皮肉めいた事をよく考えたものだ。
北殿の城壁が見えて来た頃、不意にそんな事を思い出しながら、密かに自嘲する。
本当に、少しだけ。表情を変えただけなのに、半歩先を歩いていた冬隼がこちらを振り返って、視線だけで「どうした?」と問うて来る。
本当に、なんでこの人はこれほどまでに翠玉の感情の動きを具に察知するのだろうか。
それほどまでに、彼が翠玉の心情に気を配ってくれている以外に他ならないのだが、それにしても凄すぎる。
向けられた視線に、微笑み返して「大丈夫よ?」と肩をすくめて見せると、随分馴染み深くなった節くれだった大きな手が、翠玉の後頭部を撫でる。
その温かな夫の体温が、胸の奥に少しだけ顔を出した古い蟠りのような黒い影を押し戻した。
まだ、後宮で飼い殺されていたあの頃。あの壁の向こうにある廟は、いずれ翠玉が1人寂しく行く場所だと思っていた。
当然母や兄弟と共に葬って貰えるなどと期待はできない。
ただただ形式的に葬られ、そしてすぐに忘れられるのだと思っていた。
まさかこんな未来があるなどと露ほども予想せず。
「ありがとう」
そう小さく告げれば、一瞬だけ冬隼は眉をよせて、小さく頷くと前を向く。
後頭部を撫でていた手が、翠玉の手を捕まえて、勇気づけるようにキュッと握った。どうやら離すつもりはないらしい。
城壁がどんどん近づいて、そして一行は廟の少し手前の夜陰に身を隠す。
側には数名の人の気配。
秘密裏に国境を超えて来た配下達の気配を確認し、ゆっくり息を吐く。
あとは無事に潜入するだけだ。
北殿への入り口や、北殿の構造はすでに頭に入っている。
目的の人物がどこにいるのかも、予測済みだ。
内部に入れば、先行して密かに後宮に入れた烈の手の者が最新の情報を教えてくれる手筈になっている。
流石に歴代の皇帝と皇后や側室、夭折した皇帝の子達を祀る廟の入り口には兵が配されている。
彼らに直前まで気づかれるべきではないため、少し距離を取ると、しばらくして烈が姿を現した。
彼には、この皇宮を取り囲む友軍の全体的な調整を頼んでいる。影から影へと隠密に、しかもかなりのスピードで移動でき、敵の匂いを嗅ぎ分ける事が可能な烈の能力にはうってつけの任だと、冬隼のお墨付きだ。
そんな彼が、今ここに現れたという事は、何か伝えるべき事があるのだろう。
「予定外の事が起こっております。皇帝は側近を引き連れ後宮で予定にない酒宴を催し始めた様子」
「なるほど、随分と気分をよくしたか……参加しているのは側近だけか?」
眉を寄せた冬隼が低く問うと、烈が「いえ」と首を振る。
「皇后、側室も同席しております。皇太后はいないとの事……ただ、一つ潜入させている者は顔を知りませんので不確定ですが、董伯央らしき人物も一緒だと……」
「董伯央が?」
思わず訝しむ声が出た翠玉に、「はい」と烈は静かに告げる。
「何度か皇帝が董殿、伯央殿と声をかけて、新たな友と称して随分ともてなしているそうで……」
「間違い無いわね。多分……明日の各国の会談の前に結託したんだわ。本当に董伯央……侮れない男だわ」
低くうめくと、冬隼と視線が合う。
董伯央は董伯央で、この機会に片付けてしまいたいとは思っていたので、同じ場所にて片付くならば渡りに船だ。
しかし、切れ者の彼がそう上手くはやられまい。
混乱に乗じて後宮の警備体制を崩し、皇帝の守りが固まる前に片をつけるつもりでいたが……董伯央が存在することによって彼が余計な助言や指示をして体勢を固められる事は避けたい。
何とか早期に分断したいところだ。
そこまで考えたところで、翠玉はある事を思い出す。
それは、獲物を狙う野生動物のようなあの色素の薄い切れ長の相貌。
「烈……狂人の居場所は把握している?」
唐突な翠玉の問いに、烈が一瞬息を呑む気配を感じる。
「西側の隠し通路界隈で先ほど微かな香りを感じました。おそらく董伯央が中にいる事はかぎつけておられるようですね。あの辺りから潜入するおつもりでしょう。」
「やはりね……」
「どうされるおつもりで?」
翠玉の呟きに首を傾けた烈のその表情は、何かを察して楽しげだ。
彼にも薄薄予測は付いているだろう。
「兄様と合流するようけしかけて、そこから入るのが1番早く獲物に会えるわよって!あと、その兄様にもこの状況を伝えてもらえる?目指すのは皇帝の寝所ではないとね。禁軍の一部も投入して一気になだれ込んで片をつけるわ。禁軍の……卓牙の方にも伝えてくれる?「一本槍の如くの働きを」って!私は予定通り皇太后の方へ向かうわ」
「承知いたしました」
含んだ笑みを浮かべた烈は、一度主人である冬隼に視線を向け、冬隼が頷くのを確認すると
「ではっ」
と一礼して姿を消した。
烈の気配が消えると、再びその場は静寂に包まれる。
「一本槍……とはどう言う意味だ?」
しばしの静寂の後、ポツリと、隣で待機する冬隼が問うて来る。
作戦前の今そんな事を問うて来るのか?冬隼にしては珍しいなと思いつつ、肩をすくめる。
「私の師の口ぐせね。禁軍の将の卓牙は、私の師の孫なの。師の好敵手だった将軍が過去に戦場で群がる敵を蹴散らしながらなりふり構わず一直線に攻め込んで、自身の主人……私のお祖父様に当たる当時の皇帝を助け出した時の事を、こう形容していたの。ようは些事に構わず兄様の援護へ向かいなさいって事よ。」
ただ、それだけのことで、おそらく卓牙相手ならばこれが1番わかりやすいと言葉を選んだのだと説明すれば、冬隼は「そうか……」と少々複雑そうに微笑んで、沈黙した。
「ふっ、くくっ!殿下ってば、やきもちやきさんなんだからっ!」
「っ……華南!!」
すると今度は後方から、可笑しそうに笑いを堪えるような華南の声と、慌ててそんな妻の言動を諌める隆蒼の忍んだ声が聞こえて来て。
「っふふふ!だって、もう可笑しくてっ!卓牙ってあの以前翠玉様のお部屋にあった、あの報告書の元恋人って間違って書かれていた人でしょう?」
何が起こっているのかいまいちわからず説明を求めるように華南を振り返ると、笑いを必死で堪える華南に問いかけられる。
実は翠玉の出産が間近に迫った頃、翠玉の部屋の一斉改装が行われ、その際にどこかに紛失していたあの報告書が出て来たのだ。
それを華南と笑い話半分で読んだ事を思い出して、そんな事もあった事を思い出す。
たしかにあの報告書には卓牙は翠玉の恋人だった事があるなどと書かれていて、冬隼もそれを信じていた時期があったのは翠玉も覚えている。
しかし、想いを通じ合わせた頃、それは完全に間違った情報であると、冬隼にも説明したはずなのだが。
「っ、華南……黙れ」
どこか拗ねたようなばつの悪そうな言葉と共に、冬隼が華南を睨め付ける。
「ふふっ、すみませぇん。もう殿下ってば!お子様までいるのに昔の恋人と翠玉様にしか通じない言葉一つに嫉妬するなんて、心狭いんだからっ!」
「っ……恋人ではなかった筈だ!」
「最初に突っ込むところそこな辺り拘ってますよね!仲が良かった男性がいて、その存在が近くにいるって言う事で気が気じゃないって言えばいいのにぃ~」
「っ……」
華南が呆れたように放った言葉に冬隼が息を呑んで言葉を失った。
どうやら全て図星のようで……。
一度チラリと冬隼が翠玉を見て、すぐに気まずげに視線を逸らせた。
その横顔は、少しばかり拗ねているようにも見える。
華南に視線を向ければ、華南は華南で戦いの前とは思えないほどの極上の笑顔をこちらに向けていて、その隣の隆蒼は少々疲れた顔をしている。
「えっと……」
困って何かを言わねばと思ったところで、冬隼の大きな手が、翠玉の頭をくしゃりと撫でる。
「いい、わかっている……少し面白くなかっただけだから気にするな」
ぶっきらぼうに言われたその言葉に、頬がにわかに熱くなるのを、感じていると。
「ぶっ!くっ、くっ」
華南が後ろで必死で笑いをこらえる気配と
「お前な……台無しだぞ」
と隆蒼がげんなりした様子で妻を嗜める声が聞こえてきた。
--------------------------------
お久しぶりです。
前回の更新から半年もお待たせしてしまい申し訳ありません。
のんびり書くと言って、本当にのんびりになってしまいました。
おかげで元々の予定の内容からかなり膨らんでしまい、未だ私の手元でも完結できていません(^^;
のんびり不定期に更新していきますので、ゆるりとお付き合いいただければと思います。
近況とTwitterでもお知らせしました通り、「後宮の棘~行き遅れ姫の嫁入り~」が7/15頃より書店さんに並ぶこととなりました。
各所WEB販売サイトでも予約スタートしているようです。是非お手にとっていただけたら、作者泣いて喜びます^_^
併せまして7/15に書籍該当部分が引き下げられますこともお伝えさせていただきます。
読み返すなら今です!笑
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