後宮の棘

香月みまり

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第9章 使、命

第319話 膠着

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両軍の戦いは序盤から膠着状態が続いた。

普通に押し込んでくる紫瑞、緋堯軍に対し、碧相、湖紅軍もそれぞれがうまく押し戻していた。

そんな事を数日している内に、どうやら今年の雨季が早く到来したらしい。

まとまった雨の日が数日続いた。


そんな中で湖紅軍は日分けに兵を雨のしのげる州府に下げて休息を取らせつつ戦場を睨んでいた。


「このまま雨季に入ったら、とてもじゃないけど半年では終わらないわ」

雨脚の強くなる窓の外を眺めて、翠玉は焦っていた。
どうにも敵の動きが見えないのに日々が過ぎて行くのが気持ち悪い。


昨日までは城の外で他の兵と共に野営をしていて冷えた身体を用意された湯に足を入れて温める。

兵達が冷えるのなら、自分達もと天幕で過ごしていたのだが、雨が降り続くこと3日、ついに下の者達から、頼むから指揮官達は室内で休んでほしいと懇願されてしまった。


渋々戻ってきたものの、
そうなると兵達の体調も心配になってくる。
早く片付けて、彼らも暖かい場所で休ませてやりたい。

朝から降り続く雨のせいで、空は暗い。
時間的に夕刻が、近づいてきて、今日も何も変化がなかった事に焦るばかりだ。


「なんて顔をしてるんだ?」

入室してきた冬隼は、すぐに翠玉の顔を見てその心情を察したらしい。


「焦るな、、こちらと同様、いやそれ以上にあちらも消耗しているはずだ」

たしかに、こちらにはまだ屋根のある場所がある。しかし平原に天幕を貼るしかない敵軍はそれ以上に消耗が激しいはずだ。



そうだとするなら

「勝負は雨が止んで再開した時だろう。あちらも長雨にこれからも振り回されてるのは御免だと思うぞ?」

冬隼の言うことは的を得ている。それは分かっているのだ。

「そりゃぁそうだけど」

「まぁたしかに、雨上がりすぐじゃあ、お前のあの秘密兵器は使えないかもしれんが...悠安がもうそろそろ材料が尽きると嘆いてたぞ」


「もう、あれくらいで大丈夫よ!兵達の暇つぶしに提案してみたのに、思いの外頑張って作ってくれたのね」


足を湯から出す。
ずいぶん温まって身体がぽかぽかしてきた。


「あなたもやる?」

じっと見られていたので、やりたいのかと思って声をかければ彼は笑って、いいと首を振ってこちらにやってくる。

「あ、まってお湯、冷めたから入れ直さないと!」そう言いかけた時、ひょいと椅子から彼に身体を持ち上げられる。

「ふわぁ!」

慌てて冬隼の首にしがみつけば、そのまま運ばれて寝台に降ろされる。

「お前に温めてもらうからいいさ」


降ろされながら慌てて見上げた冬隼の顔は、不適に笑っていて、その瞳には最近馴染みになった欲を浮かべた色が。


「え、まって、まだ夕方、、、」

慌てて後ずさるが、背中に手を回されていて動けなかった。

「もう今日はやることも無いしな。軍議も終わったし」

「でも、こんな時に」

翠玉の言葉に、冬隼は意外そうに目を瞬いた。

「兵達にも、禁止はしてないぞ?そういう仕事の女達がそれ目当てに城下に集まってきてる事はお前も知っているだろう?それに今夜は少しだが兵達にも酒も振る舞っている」

「う、、、そうだけど」

すすっと、冬隼の手が脹脛を撫でる。

「こんな脚見せられて我慢できるほど、俺は立派な指揮官じゃあないからな」

そう言って不敵に笑った。





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