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第9章 使、命
第316話 忠告
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結局、ぶつぶつもにゃもにゃ言いながら翠玉はその内とろとろし始めて眠ってしまった。
一日中頭をフル回転させているのだから、疲れも溜まるだろう。
起こさないように気をつけながら、かけ布をかけてやる。
眠るのには早い時間だ。
少し思い至って、椅子に掛けててあった上着を簡単に羽織ると、そのまま部屋を出た。
「おや、お休みでは無かったのですか?」
本部と呼んでいる部屋には至湧と蒼雲が残っていた。冬隼の来室を知ると、蒼雲はそそくさと部屋を出て行く。
ここ数日、冬隼と至湧の間に流れる空気を敏感に察した彼は、面倒ごとは御免だと逃げて行ったに違いない。
「そちらこそ」
蒼雲の退室を目で追いながら、短く応じる。
一応ここは湖紅軍の本部である。軍事機密も扱っているため、いくら友軍といえど他の国の軍部の者が居座るのは頂けない。
そんな空気を感じたのだろう。至湧は軽く肩を竦める。
「明日の夕、私は本陣に戻ろうかと思って、片付けをしていたのですよ。丁度お話できる時間があってよかった」
「なるほど、随分と長いことあなたをこちらに留めてしまって義兄上に申し訳ないことをした。」
「問題ありません。むしろ姫様とみっちり打ち合わせできましたから我が軍にとっても価値ある事でした。」
とはいえまだ明日1日分、擦り合わせる事はあるんですけどねと、彼は少し遠い目で言う。
そういえば翠玉もその話については遠い目で同じような事を言っていたなぁと思い出す。
「2人の連携には期待してますよ」
何の引っ掛かりもなく出た言葉に、冬隼自身が内心で驚いた。
それは目の前の至湧も感じたのだろう。
「随分と余裕をお持ちになった」
複雑な顔で笑った。
「おかげさまで」
憮然と答えると彼は、はぁ~と椅子の背に身体を預ける。
「もう付け入る隙はないんですね」
その表情は少し寂しそうで、しかしどこかこちらを試しているような、、、とにかく含みのある表情だった。
「当然だ」
憮然と答える。
そんな隙作ってやるものか!
ようやく本当の意味でも翠玉を手に入れたのだ。
みすみす掠め取られるわけがない。
そんな冬隼を見て、彼はもう一つ大きな息を吐いて、居住まいを正した。
「私がこんな事を申し上げるのもなんですが、姫様はお一人で随分と辛い思いをされて来たと思います。ですから、彼女が心から安らげるような場所を作って差し上げて下さい。」
「言われなくとも分かっている」
何故お前にそんな事を言われねばならんのだ、と冬隼は内心毒づく。
そんな彼を見て、至湧は少しおかしそうに頬を緩めた。
「でしょうね。貴方と一緒にいる姫様は本当に自然体で、あなたを信頼していらした。ですから姫様を裏切る事は、無きようお願いいたします」
彼女を幼い頃から見守ってきた男としての、お願いだと。彼は付け加えた。
「あいつ以外の女なんぞありえん。
むしろあいつだけで手一杯だ!」
大きな息を吐いて、冬隼は憮然と言い切る。
翠玉以外に妻を持つなど、今まで考えた事もない。そして今後も有り得ない。
断言できる。
その言葉を聞いて、至湧は立ち上がると、出口へ向かう。
「ならば良いのですが。もし姫さまを悲しませる事が有れば私がすぐに掻っ攫いにまいりますからお覚悟ください」
「承知した。」
最後に釘を刺すように言って、至湧は退室して行った。
どうやら、翠玉を諦めたというわけでは無いらしい。
涼しい顔をしているくせに、意外と執念深い。
これは本当に気を抜けば、奴が翠玉を攫いにくるだろう。
「くそっ、さっさと諦めやがれ」
冬隼の呟きは誰もいない部屋に響いた。
一日中頭をフル回転させているのだから、疲れも溜まるだろう。
起こさないように気をつけながら、かけ布をかけてやる。
眠るのには早い時間だ。
少し思い至って、椅子に掛けててあった上着を簡単に羽織ると、そのまま部屋を出た。
「おや、お休みでは無かったのですか?」
本部と呼んでいる部屋には至湧と蒼雲が残っていた。冬隼の来室を知ると、蒼雲はそそくさと部屋を出て行く。
ここ数日、冬隼と至湧の間に流れる空気を敏感に察した彼は、面倒ごとは御免だと逃げて行ったに違いない。
「そちらこそ」
蒼雲の退室を目で追いながら、短く応じる。
一応ここは湖紅軍の本部である。軍事機密も扱っているため、いくら友軍といえど他の国の軍部の者が居座るのは頂けない。
そんな空気を感じたのだろう。至湧は軽く肩を竦める。
「明日の夕、私は本陣に戻ろうかと思って、片付けをしていたのですよ。丁度お話できる時間があってよかった」
「なるほど、随分と長いことあなたをこちらに留めてしまって義兄上に申し訳ないことをした。」
「問題ありません。むしろ姫様とみっちり打ち合わせできましたから我が軍にとっても価値ある事でした。」
とはいえまだ明日1日分、擦り合わせる事はあるんですけどねと、彼は少し遠い目で言う。
そういえば翠玉もその話については遠い目で同じような事を言っていたなぁと思い出す。
「2人の連携には期待してますよ」
何の引っ掛かりもなく出た言葉に、冬隼自身が内心で驚いた。
それは目の前の至湧も感じたのだろう。
「随分と余裕をお持ちになった」
複雑な顔で笑った。
「おかげさまで」
憮然と答えると彼は、はぁ~と椅子の背に身体を預ける。
「もう付け入る隙はないんですね」
その表情は少し寂しそうで、しかしどこかこちらを試しているような、、、とにかく含みのある表情だった。
「当然だ」
憮然と答える。
そんな隙作ってやるものか!
ようやく本当の意味でも翠玉を手に入れたのだ。
みすみす掠め取られるわけがない。
そんな冬隼を見て、彼はもう一つ大きな息を吐いて、居住まいを正した。
「私がこんな事を申し上げるのもなんですが、姫様はお一人で随分と辛い思いをされて来たと思います。ですから、彼女が心から安らげるような場所を作って差し上げて下さい。」
「言われなくとも分かっている」
何故お前にそんな事を言われねばならんのだ、と冬隼は内心毒づく。
そんな彼を見て、至湧は少しおかしそうに頬を緩めた。
「でしょうね。貴方と一緒にいる姫様は本当に自然体で、あなたを信頼していらした。ですから姫様を裏切る事は、無きようお願いいたします」
彼女を幼い頃から見守ってきた男としての、お願いだと。彼は付け加えた。
「あいつ以外の女なんぞありえん。
むしろあいつだけで手一杯だ!」
大きな息を吐いて、冬隼は憮然と言い切る。
翠玉以外に妻を持つなど、今まで考えた事もない。そして今後も有り得ない。
断言できる。
その言葉を聞いて、至湧は立ち上がると、出口へ向かう。
「ならば良いのですが。もし姫さまを悲しませる事が有れば私がすぐに掻っ攫いにまいりますからお覚悟ください」
「承知した。」
最後に釘を刺すように言って、至湧は退室して行った。
どうやら、翠玉を諦めたというわけでは無いらしい。
涼しい顔をしているくせに、意外と執念深い。
これは本当に気を抜けば、奴が翠玉を攫いにくるだろう。
「くそっ、さっさと諦めやがれ」
冬隼の呟きは誰もいない部屋に響いた。
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