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第8章 絆
第304話 無策
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パチパチパチパチと碁石を動かす音が部屋に響いている。
翠玉が一度手を止めれば、今度は対面の至湧も碁石を動かしてくる。
「むー」
パチパチ
「そうするとここがですね……」
パチパチ
「くぅ~」
パチパチ
「手詰まり、だわ……」
「そのようです」
はぁ~っと2人で卓に脱力する。
「いったいあの男は、なにを考えているの!?全っ然!読めないわ~」
大手を上げて椅子に退けぞる翠玉は、もぉ嫌だぁ~と駄々をこねる勢いだ。
「少し休憩なさってはどうです?」
華南が声をかければ、
「うぅ……そうする~」
その場に伏せそうな勢いで、翠玉も同意する。
「お茶でもお入れしますね」
「お願い~」
もう考えたくない~甘いもの欲しい~と唸る翠玉に、張り詰めていた室内は一気に休憩の雰囲気に変わった。
「考えすぎているのかもしれないわねぇ」
「それはあるかもしれません。」
華南から茶を受け取ると翠玉はぼんやり呟いて、至湧もそれは自分も考えていたと、同意する。
華南が少し首を傾ければ、それに気づいた翠玉は、少し口元を緩めた。
「小細工をさせないためだけなのかも、だから直前で方向を変えた。
こちらに準備の隙を与えないためにね」
「その考えもあるかもしれませんね。僕が指揮官でも相手が知り尽くした戦場は嫌ですからね。
かと言って、関塞に、2国との国境線って状況も嫌ですけどね、普通」
至湧の言葉に翠玉が、「私も嫌よ」と同意する。
「開戦してみないとわからない、と言うことよね。おそらくは」
「まぁ、それならそれでいいんじゃないか?」
翠玉の開き直った言葉に、突如間の抜けた声が割って入った。
快活なその声は
「兄様!!と……冬隼」
いつやってきたのか、碧相の駐留地に置いてきた兄と、忙しくあちこち動き回っている夫の登場に、その場にいた全員がわずかに腰を浮かせた。
「お前ら2人が考えて無理なら、あとはやってみて考えるしかねぇ」
「そんな簡単に……」
豪快に言い捨てた兄の言葉に、至湧が呆れたように息を吐く。
「あっちは連合軍だからって甘くみてるが、奴らが思っている以上に俺たちの繋がりは強い。
翠玉お前なら俺や至湧の考えている事くらい読めるだろうが!」
「まぁ……そりゃあそうだけど……」
だからと言ってそれが確実に読み取れるのか……と言われたら……
不意に肩に温かくて大きな手が乗る。
包み込むような少し固いその手は、見なくても冬隼のものである事は分かった。
「お前の部隊はそのためにいるんだ、上手いこと使えばいい」
全員の視線が集まったのが分かった。
「分かったわ」
深く息を吐いて、覚悟を決めたように微笑む。
「董伯央は、馬鹿じゃない。簡単に勝てないと思えば、適当なところで休戦を申し込んでくるだろう。奴らのいつものやり方だ」
彼の国と度々抗争を起こしている碧相にとっては、勝手知った相手である。その気性や、やり方は随分と研究されているらしい。
「頼もしい限りね!」
肩を竦めて見せると、兄も同様にわずかに肩をすくめる。
「斥候の報告では、明後日にでも奴らは国境線に差し掛かるとのことだ、それまでに、お前たちはよく擦り合わせておくことだな」
兄にそう言い捨てられて、至湧とふたり、顔を見合わせる。
まだ時間は数日あるのだ。
作戦を立てるより、2人で展開をすり合わせる方が十分に意義がある。
互いに同じことを思ったのだろう。
次の瞬間、同時に椅子の背から身体を離し、前のめりになる。
「まずは、一般的な陣形で出てきた時の形から考えましょう」
「そうね!とりあえず……考えられる動きを全てやってみるわよ!」
翠玉が一度手を止めれば、今度は対面の至湧も碁石を動かしてくる。
「むー」
パチパチ
「そうするとここがですね……」
パチパチ
「くぅ~」
パチパチ
「手詰まり、だわ……」
「そのようです」
はぁ~っと2人で卓に脱力する。
「いったいあの男は、なにを考えているの!?全っ然!読めないわ~」
大手を上げて椅子に退けぞる翠玉は、もぉ嫌だぁ~と駄々をこねる勢いだ。
「少し休憩なさってはどうです?」
華南が声をかければ、
「うぅ……そうする~」
その場に伏せそうな勢いで、翠玉も同意する。
「お茶でもお入れしますね」
「お願い~」
もう考えたくない~甘いもの欲しい~と唸る翠玉に、張り詰めていた室内は一気に休憩の雰囲気に変わった。
「考えすぎているのかもしれないわねぇ」
「それはあるかもしれません。」
華南から茶を受け取ると翠玉はぼんやり呟いて、至湧もそれは自分も考えていたと、同意する。
華南が少し首を傾ければ、それに気づいた翠玉は、少し口元を緩めた。
「小細工をさせないためだけなのかも、だから直前で方向を変えた。
こちらに準備の隙を与えないためにね」
「その考えもあるかもしれませんね。僕が指揮官でも相手が知り尽くした戦場は嫌ですからね。
かと言って、関塞に、2国との国境線って状況も嫌ですけどね、普通」
至湧の言葉に翠玉が、「私も嫌よ」と同意する。
「開戦してみないとわからない、と言うことよね。おそらくは」
「まぁ、それならそれでいいんじゃないか?」
翠玉の開き直った言葉に、突如間の抜けた声が割って入った。
快活なその声は
「兄様!!と……冬隼」
いつやってきたのか、碧相の駐留地に置いてきた兄と、忙しくあちこち動き回っている夫の登場に、その場にいた全員がわずかに腰を浮かせた。
「お前ら2人が考えて無理なら、あとはやってみて考えるしかねぇ」
「そんな簡単に……」
豪快に言い捨てた兄の言葉に、至湧が呆れたように息を吐く。
「あっちは連合軍だからって甘くみてるが、奴らが思っている以上に俺たちの繋がりは強い。
翠玉お前なら俺や至湧の考えている事くらい読めるだろうが!」
「まぁ……そりゃあそうだけど……」
だからと言ってそれが確実に読み取れるのか……と言われたら……
不意に肩に温かくて大きな手が乗る。
包み込むような少し固いその手は、見なくても冬隼のものである事は分かった。
「お前の部隊はそのためにいるんだ、上手いこと使えばいい」
全員の視線が集まったのが分かった。
「分かったわ」
深く息を吐いて、覚悟を決めたように微笑む。
「董伯央は、馬鹿じゃない。簡単に勝てないと思えば、適当なところで休戦を申し込んでくるだろう。奴らのいつものやり方だ」
彼の国と度々抗争を起こしている碧相にとっては、勝手知った相手である。その気性や、やり方は随分と研究されているらしい。
「頼もしい限りね!」
肩を竦めて見せると、兄も同様にわずかに肩をすくめる。
「斥候の報告では、明後日にでも奴らは国境線に差し掛かるとのことだ、それまでに、お前たちはよく擦り合わせておくことだな」
兄にそう言い捨てられて、至湧とふたり、顔を見合わせる。
まだ時間は数日あるのだ。
作戦を立てるより、2人で展開をすり合わせる方が十分に意義がある。
互いに同じことを思ったのだろう。
次の瞬間、同時に椅子の背から身体を離し、前のめりになる。
「まずは、一般的な陣形で出てきた時の形から考えましょう」
「そうね!とりあえず……考えられる動きを全てやってみるわよ!」
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