後宮の棘

香月みまり

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第8章 絆

第302話 戻る場所

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扉の前に立つと、わずかに緊張する自分がいた。

久しぶりに会うと思うと

色々言いたいことも、聞きたいこともあるが。

何よりどういう顔をしたらいいのか分からない

ゆっくりと扉を開く。

しんと静まりかえった部屋は真っ暗で、

あ、そうか寝てるのだ。


どこかホッとする。

入り口付近で荷を下ろし、上着を脱いで、軽装になり、ゆっくり寝台に近づく。


冬隼の規則正しい寝息が聞こえる。

ホッと息を吐いて寝台に上がろうとすると。

「え?」

腕を掴まれ、視界が反転した。

「何者だ!」

気がつくと、寝台に身体を鎮められていた

降りてきたのは鋭く冷たい視線と、

きらりと闇の中でも光る刃物が首に当てられていた。

ゴクリと息をのむ。

流石の反応だ。

つい感心してしまう。

声を出せずに、彼の迫力いっぱいの相貌を見つめていると、その瞳がわずかに揺れた。

「翠玉?」

「ごめん。起こしちゃった」
ははっと笑うと、今度は彼の瞳が驚いたように見開かれて

カシャンと短剣が寝台の下に投げ落とされる音が室内に響いた。

「すまない」

「相変わらずいい反射神経よね」

笑って言うと、冬隼がホッと息を吐いて頬に手を伸ばしてきた。

「今、来たのか?」

「うん」

頬を撫でる手に手を重ねる。
冬隼の瞳が信じられない者でも見るようにこちらを見下ろしていて

「来てくれたのか?」

「ん?何が?」

冬隼の言っている意味が分からなくて、首をひねる。
それを見た冬隼がハハっとどこか安堵したように笑った。

「いや……なんでもない。お帰り」



「ふふ、ただいま」

クスクス笑うとそのまま引き寄せられてギュッと抱きしめられる。

「色々すまなかった」

耳元で囁かれて、首を振る

「色々聞きたい事も怒ってることもあるけど、またおいおい、ゆっくりね」

明日は早いし眠らなければならないし、やる事は山積している。いつか時間を作って問いただそうと思っている。

「何でも話す」

「言ったわね」

ふふんと笑うと、冬隼が身体を離してこちらを見下ろしてくる。

「お手柔らかに、頼む」

シュンとしたように言われてなんだかおかしくてもう一度クスクス笑うと、彼の唇が降りてきて、深く深く口づけられた。

甘くて暖かい、自分の帰るべき場所だった。
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