61 / 234
第8章 絆
第278話 怨念
しおりを挟む
ピィーンと
高い音が響く。と同時にガシャガシャと金属の擦れる音と共に複数の足音が近づいてくる。
バンと扉が開かれ、ザッザッと兵士の集団特有の足並みを揃えて止まる音が響いた。
「冬殿下」
その集団の中から、ひときわ身体の大きな男が出てくる。
「大禅、予定通り頼む」
目の前の怒りに震えた老婆から、視線を逸らすことなく言う。
「かしこまりました」
背後で彼が礼を取るのが分かった。
「皇太后陛下、お動きになられませぬようお願いいたします」
厳しい彼の言葉と共に、近衛兵達が彼女の左右を監視するように、取り囲む。
「っ貴様」
忌々し気にこちらを睨みつける老婆に冬隼は冷ややかな視線を向ける。
「随分と昔の勘を鈍らせておいでのようで助かりました。私が尾行に失敗した部下を切り捨てるとお思いでしたか?あなた様のように」
どうせ、姿を消した秋を切り捨てるだろうと思ったのだ。自身が今まで多くの影たちを切り捨ててきたゆえに、それが当然と思ったに違いない。
「発見いたしました、辛うじて息はございます」
しばらくの後、駆け込んできた近衛兵から、声がかかる。
「そうか、ありがとう」
小さく頷いて、その兵の顔を見れば、見覚えのある影の1人だ。
どうやら烈が無事回収したようだ。
ゆっくり、皇太后に視線を戻す。
「探していた者はやはりこちらにいらしたようです。なぜ我が宮を探らせていたのか、目的をお伺いしよう」
「あいも変わらず小賢しいこと!
私から息子も栄華も取り上げておいて何故とはよく聞けたものよ!!」
彼女は、こちらを睨みつけながら、吐き捨てるように毒づく。
やはりそれか
眉を寄せる。
つい侮蔑を含んだ視線を彼女に向ける。
たしかに彼女の息子であった皇太子を事故に見せかけて殺めたのは雪稜、否冬隼達兄弟である。
しかしその皇太子をその位につけ、自身が皇后に登るまでの間に、彼女達が秘密裏に消した王子や妃の数は片手では足りない。
そして、自分たち兄弟を脅威に感じた彼女が随分と執拗に狙ってきていた事も、忘れてはいない。
どの口がそれを言うのか。
同情の余地などないことくらい、自身が一番よく分かっているはずなのに。
「我々に害を与えても、それらは戻りません」
「ふん、そんな事ソナタに言われずとも、この十数年で身をもって知っているわ」
馬鹿なのか?と嘲笑される。
「思い知ればいいのだ。
最愛のものを奪われた悲しみと絶望感をな。」
そう言った彼女の声は、今までになく、薄気味悪く低く、呪うような声で、冬隼は眉を寄せると共に
気づいてしまった。
「だから、、翠玉を」
唖然と出た言葉に彼女はニヤリと笑った。
禍々しい悪鬼のような笑みだと、思った。
「妾は母になって強くなると同時に、弱くなった。無二の物を失う事を恐れた。そして失って奈落に落とされ、その中で妾は復讐を誓ったのだ。」
冬隼の無二の物、失うことを恐れたもの
考えずともすぐに分かった。
翠玉。
一層深く眉間にシワを寄せる冬隼に気を良くしたのか、彼女はなおも続けた。
「随分と現れてくれなくてな、十数年も時を無駄にした」
ずっと狙って待っていたというのか、このためだけにこの冷宮で十数年も。
そしてハッとする。全身の血が一気に下がった。
この人の恨みは息子を皇太子から蹴落とすために手にかけた自分達兄弟に向いているのだ、そうであればまさか、、
朱杏様も。
冬隼が思い至った事に気が付いたらしい。
「あの平民出身の娘は気の毒だったがな」
ニヤリとその顔が勝ち誇ったように歪んだ。
「まだ終わらぬよ。
私の怨念はまだ動きつづけているからね。
ははは!馬鹿な女よ」
高笑いをして、おもむろに彼女は自身の髪から簪を抜きとった。
簪にみえたそれは、、、
考えるより先に体が動いた
駆け寄るが、間に合わない。
手を伸ばした先で、
皇太后は自分の首に鋭利な小刀を突き立てると、その口に笑みを称えたまま、ゆっくり崩れ落ちていく。
瞳は最後まで冬隼を離さなかった。
高い音が響く。と同時にガシャガシャと金属の擦れる音と共に複数の足音が近づいてくる。
バンと扉が開かれ、ザッザッと兵士の集団特有の足並みを揃えて止まる音が響いた。
「冬殿下」
その集団の中から、ひときわ身体の大きな男が出てくる。
「大禅、予定通り頼む」
目の前の怒りに震えた老婆から、視線を逸らすことなく言う。
「かしこまりました」
背後で彼が礼を取るのが分かった。
「皇太后陛下、お動きになられませぬようお願いいたします」
厳しい彼の言葉と共に、近衛兵達が彼女の左右を監視するように、取り囲む。
「っ貴様」
忌々し気にこちらを睨みつける老婆に冬隼は冷ややかな視線を向ける。
「随分と昔の勘を鈍らせておいでのようで助かりました。私が尾行に失敗した部下を切り捨てるとお思いでしたか?あなた様のように」
どうせ、姿を消した秋を切り捨てるだろうと思ったのだ。自身が今まで多くの影たちを切り捨ててきたゆえに、それが当然と思ったに違いない。
「発見いたしました、辛うじて息はございます」
しばらくの後、駆け込んできた近衛兵から、声がかかる。
「そうか、ありがとう」
小さく頷いて、その兵の顔を見れば、見覚えのある影の1人だ。
どうやら烈が無事回収したようだ。
ゆっくり、皇太后に視線を戻す。
「探していた者はやはりこちらにいらしたようです。なぜ我が宮を探らせていたのか、目的をお伺いしよう」
「あいも変わらず小賢しいこと!
私から息子も栄華も取り上げておいて何故とはよく聞けたものよ!!」
彼女は、こちらを睨みつけながら、吐き捨てるように毒づく。
やはりそれか
眉を寄せる。
つい侮蔑を含んだ視線を彼女に向ける。
たしかに彼女の息子であった皇太子を事故に見せかけて殺めたのは雪稜、否冬隼達兄弟である。
しかしその皇太子をその位につけ、自身が皇后に登るまでの間に、彼女達が秘密裏に消した王子や妃の数は片手では足りない。
そして、自分たち兄弟を脅威に感じた彼女が随分と執拗に狙ってきていた事も、忘れてはいない。
どの口がそれを言うのか。
同情の余地などないことくらい、自身が一番よく分かっているはずなのに。
「我々に害を与えても、それらは戻りません」
「ふん、そんな事ソナタに言われずとも、この十数年で身をもって知っているわ」
馬鹿なのか?と嘲笑される。
「思い知ればいいのだ。
最愛のものを奪われた悲しみと絶望感をな。」
そう言った彼女の声は、今までになく、薄気味悪く低く、呪うような声で、冬隼は眉を寄せると共に
気づいてしまった。
「だから、、翠玉を」
唖然と出た言葉に彼女はニヤリと笑った。
禍々しい悪鬼のような笑みだと、思った。
「妾は母になって強くなると同時に、弱くなった。無二の物を失う事を恐れた。そして失って奈落に落とされ、その中で妾は復讐を誓ったのだ。」
冬隼の無二の物、失うことを恐れたもの
考えずともすぐに分かった。
翠玉。
一層深く眉間にシワを寄せる冬隼に気を良くしたのか、彼女はなおも続けた。
「随分と現れてくれなくてな、十数年も時を無駄にした」
ずっと狙って待っていたというのか、このためだけにこの冷宮で十数年も。
そしてハッとする。全身の血が一気に下がった。
この人の恨みは息子を皇太子から蹴落とすために手にかけた自分達兄弟に向いているのだ、そうであればまさか、、
朱杏様も。
冬隼が思い至った事に気が付いたらしい。
「あの平民出身の娘は気の毒だったがな」
ニヤリとその顔が勝ち誇ったように歪んだ。
「まだ終わらぬよ。
私の怨念はまだ動きつづけているからね。
ははは!馬鹿な女よ」
高笑いをして、おもむろに彼女は自身の髪から簪を抜きとった。
簪にみえたそれは、、、
考えるより先に体が動いた
駆け寄るが、間に合わない。
手を伸ばした先で、
皇太后は自分の首に鋭利な小刀を突き立てると、その口に笑みを称えたまま、ゆっくり崩れ落ちていく。
瞳は最後まで冬隼を離さなかった。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
4,393
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。