孤児が皇后陛下と呼ばれるまで

香月みまり

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2章

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その日着いた延桟で、周は黒髪をなぜか茶に染めて、陸は長くて後ろで括っていた髪を短髪にした。


明芽の一件が絡んでいるのは明白だが、苓はそれには触れまいと心に誓って平常通り彼らと旅をした。

そうしてなんとなくいろいろな疑念を抱えつつ、一行は葡葉の目前までやってきた。


「どうしたんだ?」


宿の客間からぼんやりと沿道の人の流れを視線で追っていると、室内で愛刀の手入れをしていた周が、不意に声をかけてきた。
陸は、いつものごとく買い出しに出てしまっていない。

んーとうなって、窓際から顔を引っ込めて、苓は困ったように笑う。


「ちょっと不安になっちゃって、、、これからどうなるかなって。もし落ち着き先がひどいところだったらどうしよう、とか色々考えちゃってさ」

心の内のもやもやしたものを吐き出すように、それでも深刻にならないように言ってみれば、周は「あぁ」と息を吐いた。


「そりゃぁ初めての所だもんな、不安になってしょうがねぇ。」

そう言って、手にしていた愛刀を置くと、こちらへ来いと手招きをする。

何だろうか?と首を傾けて近寄れば、隣に座れと言われて、ドキリと胸が跳ねる。

しかしここで拒否するのも不自然である。

おずおずと、言われたところに腰を下ろすと、ぽんぽんといつもの調子で、大きな手が頭にのせられた。


「大丈夫だ、俺らが付いてる。きちんと送って見極めてやるから、もしも酷い所なら、そん時はさらってやるよ!」


見上げた周の顔は自身に満ちてきて、なんの根拠もないはずなのに、それだけでなんだかほっとしてしまう。

「ふふ、じゃあもしそんな事になったら、私はあなたたちの目的のために協力するわ」

冗談めかして笑って、彼を見上げた。しかしそこには先ほどの自身に満ちた表情はなくて。

「すまない、それはだめなんだ。でも、ちゃんと落ち着き先を探してやるから、、、」

眉を下げ、困った子供に言い聞かせるような顔で苓の顔を覗き込んできた。


「理解してくれるだろう?」というようなその彼の表情に、苓は無性に泣きたい気持ちになった。

結局は苓はただの同行者で葡葉に着いたら何の縁もなくなるのだと、言われたような気がしたのだ。

結局は彼らを特別に思っていたのは苓だけで、彼らにとってはただ妹を思い出して放って置けなかっただけの存在で。結局苓そのものには大して思い入れがないという事なのだ。

なんだ、私バカみたい。


どこか心の中で淡い期待を抱いていた自分の考えの浅はかさに自嘲する。

「そうだったね。ふふ、冗談だから気にしないで」

せめてもの意地でにこりと笑って周を見上げる。

そうして彼の隣から立ち上がって、戸口へ向かう。


「私ちょっと買い物行ってくる、必要なもの思い出したから」

振り返ることなくそう言うと、手早く扉を開ける。

「まて、俺も行く!」

背後で周が腰を浮かせる気配がしたけれど。

「ごめん。ついて、こないで」


自分でも驚くほど冷たい声が出た。

そしてパタリと扉を閉めて、苓は逃げるように階段を駆け下りた。
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