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閑話
お茶会での出会い
しおりを挟む二人の美しい娘達と、愛くるしい顔をして少しばかりの知識を得た息子を連れて、ミシェルはルーベルト公爵家を訪れた。粗相のない様に、そう願いながら。
「お母様、公爵様はこんなに大きなお屋敷に住んでいるの?」
彼は、僅か五歳なのだ。自分の見てきたものが全てで、それは貴族の子であっても変わらない事実だった。
自分の住む屋敷だって、村では一番大きく立派なものなのだ。それでも、ルーベルト公爵家はそれを遥かに凌駕していた。
「ノーディ、挨拶は忘れないでね」
ミシェルは彼の様子を見て、不安が大きくなる様だった。
もしも粗相があったなら、そう思うと自然と顔が強張ってしまう。
「はい、お母様」
可愛らしい笑顔で返事をする我が子は、間違いなく天使なのだ。
しかし拭いきれない不安に、苦笑いで返してしまった。
「ようこそおいで下さいました」
出迎えてくれたのは、ルーベルト公爵家自慢の執事である。
彼は何人もの人が訪れるこの屋敷で、長年仕えている。
ルーベルト公爵からの信頼はもちろん、たまに訪れる客人からも信頼される執事なのである。
執事だけではなく、ルーベルト公爵家に仕える者たちはその仕える長さも有名である。
上流階級になればなるほど、仕える事自体が難しい。というのも、小さなミスさへも許されないからだ。
しかしルーベルト公爵家は、一度のミスを咎めてお暇を出したりはしない。
ルーベルト公爵家に仕えられるだけで、末代まで保障されていると言われるほどだ。
その為もあってか、ルーベルト公爵家にはたくさんの人間が仕えていても、皆が楽しそうに生き生きと働いている。
その空気の全ては、ルーベルト公爵夫人によって生まれているもので、噂好きの奥様方の間でも羨望の的である。
公爵夫人が開くお茶会は、誰が呼ばれるかで今後の立場にも響くと言われている。
実際には同じ爵位であっても、公爵夫人が開くお茶会に呼ばれた者と、呼ばれぬ者では大きく差がある。
その空気さへ理解して、全員を招待するお茶会こそがルーベルト公爵夫人の人柄を表している。
「本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、今日は来てくださってありがとうございます」
ミシェルに続いて、子供たちも挨拶をする。
その挨拶にさへも、優しくしっかりと挨拶で返す公爵夫人は、噂に違わぬ方なのだ。
ミシェルは来るまで何かあったらと考えていたのに、公爵夫人に挨拶をした途端息を吹き返した様だった。
本来ならばお茶会が終わるまで、生きた心地もしないはずなのに。
この空気を作り上げている人こそ、公爵夫人なのだ。
しかしミシェルの安心した気持ちは、皮肉にも彼女の天使によって、すぐに絶望へと変わってしまう。
「公爵様の子はどこにいるの?」
やはり彼にはしっかりと家庭教師を付けて、もっと早くから勉強をさせておくのだったと、ミシェルはそう思わずにはいられなかった。
「ふふふ、 ノーデン様にお茶会は退屈ね。ぜひミューゼンと遊んであげて下さいね」
ミシェルの顔が青白くなっているのとは逆に、彼の不躾な言葉にも公爵夫人は笑顔で応じた。
「公爵様の子は、ミューゼン?」
「ええ、 ノーデン様と同じ年なんですよ」
「それは知っています!だから仲良くなりたいです」
「ミューゼンもお友達は多くないから、ぜひ仲良くしてあげてくださいね」
公爵夫人の柔らかな態度を受け、彼も気がつけば自然と敬意を示すかの様に、敬語になっていた。
しかしそんな事に気付かないくらい、ミシェルは目を白黒させていた。
「ミューゼン、こちらに」
公爵夫人に呼ばれた公爵様の子を見て、彼はとても驚いて思わず黙ってしまった。
何故なら今まで見た誰よりも、綺麗な顔をしていたからだ。
「初めまして、ミューゼン・ルーベルトです」
そう言いながら同じ五歳の子供とは思えないほど、ミューゼンは綺麗に微笑んだ。
ノーデンだけではなく、その場にいた全員が固まるぐらい綺麗に。
これがアティス・ ノーデンと、ミューゼン・ルーベルトの出会いであった。
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