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042 戦闘指南
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ダメ元で臨んだ交渉が決裂したことで、悠人は本格的な抗議活動に入った。
まずは運動場で待機している生徒たちに状況を説明する。
「学生風情だと!?」
「あのハゲこそ何様のつもりなんだ!」
「神にでもなったつもりか? 髪がないくせに!」
当然、皆は教頭の態度に憤った。
それによってますます一体感が強まる。
悠人の狙い通りだった。
「この件がどう転ぶにしたって、今後も外に出てメシを確保する必要があることには変わりない。そこで食料調達の安全性を高めるため、今から誰でもできる簡単な戦い方を教えようと思う」
悠人は足下にある竹槍を手に取った。
細身の竹の先端を斜めにカットしただけのものだ。
「そんな物で魔物と戦えるのか? 小寺先生が作った剣でも苦戦するのに」
阿古屋が尋ねる。
他の生徒たちが心配そうな顔で頷いている。
「この竹槍と剣を比較した場合、攻撃力は剣が勝るだろう。もしもゲームなら竹槍を使う利点は何もない。だが現実は違う」
悠人は竹槍を阿古屋に持たせた。
「阿古屋、もし魔物に襲われたらどうやってその槍を使う?」
「どうって……こんな感じで突くんじゃないの?」
阿古屋は何もない空間に突きを繰り出す。
両手で持った槍を「それ!」と前に伸ばした。
「それが間違いだ」
「「「えっ」」」
場がどよめく。
「たしかに槍と言えば突くものだが、手は動かさないでいい」
「……どういうことだ?」
「実演しよう」
悠人は竹槍を両手で持って腰を落とした。
「この態勢で、穂先を獲物に向ける。そして――」
次の瞬間、悠人は前に走った。
「――そのまま突っ込む。これが正しい使い方だ」
「槍を前に伸ばすんじゃなくて、持ったまま前に出るわけか」
「そうだ。この方法で意識するポイントは『穂先が相手に向いているか』の一点に尽きる。その点さえクリアしていれば、あとは何も考えずに突っ込むだけだ。敵にビビって腰が引けていようと、がむしゃらに突っ込めば勝手に刺さる」
「「「おおー!」」」
皆が歓声を上げる。
口々に「たしかに」「その通りだ」などと言っている。
「戦いで大事なのはビビらないことだ。剣だろうが槍だろうが、ビビっていたら腰が引けてまともに攻撃できないからな。とはいえ、『ビビるな!』と言って解決する問題でもない。分かっていてもビビってしまうものだ。怖いものは怖い。だからビビっても大丈夫な戦い方を選ぶ」
「それが槍を構えての突進か!」
「この方法であれば、リーチに勝る相手には必ず攻撃を当てられる。俺は色々な魔物を倒してきたが、その経験から言って、魔物の耐久度は俺たち人間や普通の動物と大差ない。槍を突き刺せば普通に死ぬ」
「なんだか魔物に勝てる気がしてきたな」
皆が「俺もだ!」と沸き上がる。
現時点で、悠人以外に魔物を狩った者は数名しかいない。
そしてそのほぼ全員が実力ではなく偶然の勝利だった。
しかも相手はコボルト――この世界では最弱クラスの敵だ。
「勝てる気も何も勝てるんだよ。思っているほど魔物は強くない。なんだったらヒグマのほうが怖いくらいだ」
そこで一息つくと、悠人は続けて指示を出した。
「戦い方はこれでいいとして、今後は四人以上での活動を心がけてくれ。理想は四人一組だが、別に五人や六人になってもかまわない」
「チームで動けってことか?」と阿古屋。
悠人は頷いた。
「いま教えた槍での戦闘術は数が多いほど有効的だ。とはいえ周囲は森だから、人数が多すぎるとかえって戦いづらくなる。だから五人前後で行動するのがいいだろう」
「なるほど」
「あと、チームで動く場合は役割分担をすること。食料を調達するのは一人で、残りは武器を持って戦闘に備えておくように。魔物の中には奇襲してくるタイプも存在するからな」
「四人一組に役割分担……なんか本格的になってきたな」
「そら命懸けだからな。むしろ今までのような編成も戦術もなく外回りをしていたのがおかしかったんだ。教頭たちがいかに無能かを物語っている」
「違いねぇ! あいつらのせいでトモキは死んだんだ!」
「タカシだって死んだ!」
「ヨシヒコも!」
皆が死んだ男子の名を口にして怒りを強める。
「俺が指揮を執る以上、そうした犠牲は最小限に留める。あと、これは言うまでもないことだが、リーダーだからといって俺だけ特別扱いでいようなどとは考えていない。皆と同じようにテントで過ごすし、これから食料調達にも出る。安心してくれ」
「マジかよ霧島。お前は王の部屋で過ごしてくれたっていいんだぜ?」
阿古屋が言うと、皆は「そうだそうだ」と頷いた。
その反応が、彼らの悠人に対する強い信頼を物語っていた。
「そんなことをしたら教頭と同じになる。この抗議活動が終わるまでは適当なテントで寝泊まりするよ」
「すげぇよお前! なんでそんなに器が大きいんだ!」
「滅私奉公ってやつさ。皆の利益のためには私利私欲なんて言ってられんさ」
もちろんウソである。
悠人が聖人のような振る舞いをするのは全て自分のためだ。
今は我慢するのが得策だと判断しただけに過ぎない。
それでも、皆の目には悠人が英雄に見えてならなかった。
◇
悠人の説明が終わり、阿古屋たち抗議団体は食料調達を開始した。
竹槍をもって四人一組で学校の外に出る。
「霧島の教えに従って遠くまで行きすぎないようにな!」
「おう!」
阿古屋は仲間の男子三人と森を進む。
すぐに魔物が現れた。
「やべぇ! なんでよりによってコイツなんだ!」
真っ白の闘牛モンスター「ホワイトブル」だ。
阿古屋の親友トモキを喰い殺した宿敵である。
気性が荒く、この辺りではそこそこ強い部類に入る。
コボルトの強さを1とした場合、ホワイトブルの強さは7だ。
ちなみに双頭のライオンは23で、サイクロプスは39である。
「モォオオオオオオ!」
ホワイトブルが阿古屋に突っ込む。
「まずいぞ阿古屋! 敵が突っ込んでくる!」
仲間の男子がビビって喚く。
「大丈夫だ! 霧島の言葉を思い出せ! 敵の射程がこっちより短く、さらに骸骨などの槍が通用しないタイプ以外は攻撃だ!」
「「「うおおおおおおおおおおお!」」」
阿古屋と仲間の男子二人は迎え撃った。
竹槍の穂先をホワイトブルに向けて突っ込む。
恐怖のあまり体が震えているけれど、決して足は止めない。
悠人の指南を盲信することにした。
その結果――。
「モォォォ……」
阿古屋たちの攻撃はヒットした。
ホワイトブルの頭や首に竹槍が突き刺さる。
一方、相手の角は阿古屋たちに届かなかった。
「モォ……モー……モッ」
バタンッと倒れるホワイトブル。
脳天を貫かれたことであっさり死んだ。
「おい、阿古屋、俺たちやったぞ……」
「あ、ああ、本当に倒しちまった……」
阿古屋たちはしばらくの間、現実を受け入れられなかった。
しかし、ほどなくして。
「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」
興奮のあまり叫ぶ。
調達担当の男子も後ろのほうで飛び跳ねていた。
「霧島の言う通りにしたら勝てた! こんなにあっさり! やっぱりすげぇよアイツ! 天才だ!」
大絶賛の阿古屋。
その頃、悠人は――。
「やばいって悠人! これマジでやばい! どーすんの!?」
「これはどうにもならないだろう。残念だが俺たちはもうおしまいだ」
――大量のゴブリンに囲まれていた。
結界の中に籠もる彼と梨紗子を、100体以上の敵が完全に包囲している。
かつてない絶体絶命のピンチだった。
まずは運動場で待機している生徒たちに状況を説明する。
「学生風情だと!?」
「あのハゲこそ何様のつもりなんだ!」
「神にでもなったつもりか? 髪がないくせに!」
当然、皆は教頭の態度に憤った。
それによってますます一体感が強まる。
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悠人は足下にある竹槍を手に取った。
細身の竹の先端を斜めにカットしただけのものだ。
「そんな物で魔物と戦えるのか? 小寺先生が作った剣でも苦戦するのに」
阿古屋が尋ねる。
他の生徒たちが心配そうな顔で頷いている。
「この竹槍と剣を比較した場合、攻撃力は剣が勝るだろう。もしもゲームなら竹槍を使う利点は何もない。だが現実は違う」
悠人は竹槍を阿古屋に持たせた。
「阿古屋、もし魔物に襲われたらどうやってその槍を使う?」
「どうって……こんな感じで突くんじゃないの?」
阿古屋は何もない空間に突きを繰り出す。
両手で持った槍を「それ!」と前に伸ばした。
「それが間違いだ」
「「「えっ」」」
場がどよめく。
「たしかに槍と言えば突くものだが、手は動かさないでいい」
「……どういうことだ?」
「実演しよう」
悠人は竹槍を両手で持って腰を落とした。
「この態勢で、穂先を獲物に向ける。そして――」
次の瞬間、悠人は前に走った。
「――そのまま突っ込む。これが正しい使い方だ」
「槍を前に伸ばすんじゃなくて、持ったまま前に出るわけか」
「そうだ。この方法で意識するポイントは『穂先が相手に向いているか』の一点に尽きる。その点さえクリアしていれば、あとは何も考えずに突っ込むだけだ。敵にビビって腰が引けていようと、がむしゃらに突っ込めば勝手に刺さる」
「「「おおー!」」」
皆が歓声を上げる。
口々に「たしかに」「その通りだ」などと言っている。
「戦いで大事なのはビビらないことだ。剣だろうが槍だろうが、ビビっていたら腰が引けてまともに攻撃できないからな。とはいえ、『ビビるな!』と言って解決する問題でもない。分かっていてもビビってしまうものだ。怖いものは怖い。だからビビっても大丈夫な戦い方を選ぶ」
「それが槍を構えての突進か!」
「この方法であれば、リーチに勝る相手には必ず攻撃を当てられる。俺は色々な魔物を倒してきたが、その経験から言って、魔物の耐久度は俺たち人間や普通の動物と大差ない。槍を突き刺せば普通に死ぬ」
「なんだか魔物に勝てる気がしてきたな」
皆が「俺もだ!」と沸き上がる。
現時点で、悠人以外に魔物を狩った者は数名しかいない。
そしてそのほぼ全員が実力ではなく偶然の勝利だった。
しかも相手はコボルト――この世界では最弱クラスの敵だ。
「勝てる気も何も勝てるんだよ。思っているほど魔物は強くない。なんだったらヒグマのほうが怖いくらいだ」
そこで一息つくと、悠人は続けて指示を出した。
「戦い方はこれでいいとして、今後は四人以上での活動を心がけてくれ。理想は四人一組だが、別に五人や六人になってもかまわない」
「チームで動けってことか?」と阿古屋。
悠人は頷いた。
「いま教えた槍での戦闘術は数が多いほど有効的だ。とはいえ周囲は森だから、人数が多すぎるとかえって戦いづらくなる。だから五人前後で行動するのがいいだろう」
「なるほど」
「あと、チームで動く場合は役割分担をすること。食料を調達するのは一人で、残りは武器を持って戦闘に備えておくように。魔物の中には奇襲してくるタイプも存在するからな」
「四人一組に役割分担……なんか本格的になってきたな」
「そら命懸けだからな。むしろ今までのような編成も戦術もなく外回りをしていたのがおかしかったんだ。教頭たちがいかに無能かを物語っている」
「違いねぇ! あいつらのせいでトモキは死んだんだ!」
「タカシだって死んだ!」
「ヨシヒコも!」
皆が死んだ男子の名を口にして怒りを強める。
「俺が指揮を執る以上、そうした犠牲は最小限に留める。あと、これは言うまでもないことだが、リーダーだからといって俺だけ特別扱いでいようなどとは考えていない。皆と同じようにテントで過ごすし、これから食料調達にも出る。安心してくれ」
「マジかよ霧島。お前は王の部屋で過ごしてくれたっていいんだぜ?」
阿古屋が言うと、皆は「そうだそうだ」と頷いた。
その反応が、彼らの悠人に対する強い信頼を物語っていた。
「そんなことをしたら教頭と同じになる。この抗議活動が終わるまでは適当なテントで寝泊まりするよ」
「すげぇよお前! なんでそんなに器が大きいんだ!」
「滅私奉公ってやつさ。皆の利益のためには私利私欲なんて言ってられんさ」
もちろんウソである。
悠人が聖人のような振る舞いをするのは全て自分のためだ。
今は我慢するのが得策だと判断しただけに過ぎない。
それでも、皆の目には悠人が英雄に見えてならなかった。
◇
悠人の説明が終わり、阿古屋たち抗議団体は食料調達を開始した。
竹槍をもって四人一組で学校の外に出る。
「霧島の教えに従って遠くまで行きすぎないようにな!」
「おう!」
阿古屋は仲間の男子三人と森を進む。
すぐに魔物が現れた。
「やべぇ! なんでよりによってコイツなんだ!」
真っ白の闘牛モンスター「ホワイトブル」だ。
阿古屋の親友トモキを喰い殺した宿敵である。
気性が荒く、この辺りではそこそこ強い部類に入る。
コボルトの強さを1とした場合、ホワイトブルの強さは7だ。
ちなみに双頭のライオンは23で、サイクロプスは39である。
「モォオオオオオオ!」
ホワイトブルが阿古屋に突っ込む。
「まずいぞ阿古屋! 敵が突っ込んでくる!」
仲間の男子がビビって喚く。
「大丈夫だ! 霧島の言葉を思い出せ! 敵の射程がこっちより短く、さらに骸骨などの槍が通用しないタイプ以外は攻撃だ!」
「「「うおおおおおおおおおおお!」」」
阿古屋と仲間の男子二人は迎え撃った。
竹槍の穂先をホワイトブルに向けて突っ込む。
恐怖のあまり体が震えているけれど、決して足は止めない。
悠人の指南を盲信することにした。
その結果――。
「モォォォ……」
阿古屋たちの攻撃はヒットした。
ホワイトブルの頭や首に竹槍が突き刺さる。
一方、相手の角は阿古屋たちに届かなかった。
「モォ……モー……モッ」
バタンッと倒れるホワイトブル。
脳天を貫かれたことであっさり死んだ。
「おい、阿古屋、俺たちやったぞ……」
「あ、ああ、本当に倒しちまった……」
阿古屋たちはしばらくの間、現実を受け入れられなかった。
しかし、ほどなくして。
「「「うおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」
興奮のあまり叫ぶ。
調達担当の男子も後ろのほうで飛び跳ねていた。
「霧島の言う通りにしたら勝てた! こんなにあっさり! やっぱりすげぇよアイツ! 天才だ!」
大絶賛の阿古屋。
その頃、悠人は――。
「やばいって悠人! これマジでやばい! どーすんの!?」
「これはどうにもならないだろう。残念だが俺たちはもうおしまいだ」
――大量のゴブリンに囲まれていた。
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