万能転校生の異世界生存記~学校転移で無人島に飛ばされたけど、なんだかんだで活躍して気づいたらハーレムを築いていました~

絢乃

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021 レッドキャップ

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「悠人、どうしよ!? どこもかしこも敵だよ!」

 美優は今にも卒倒しそうな顔色で言った。

「くっ……」

 悠人は奥歯を強く噛み、苦悶の表情を浮かべる。

(葵先輩を持ったままじゃ戦えない。それにこの数……たとえ相手がザコだとしても美優を守り切れない)

 常人なら発狂しかねないこの状況で、悠人は限りなく冷静に考えた。
 しかし、どれだけ考えても安全に切り抜けられる方法はない。
 何かを得るには何かを犠牲にせねばならない――そういう状況だった。

 だから悠人は、覚悟を決めた。

「美優、前方の敵は俺がどうにかする。お前は隙を突いて学校まで逃げろ」

「え、でもそれじゃ悠人が! それに葵先輩も!」

「葵先輩は石になっちまったし、俺のことは気にするな」

「そんなの認めない! 私も戦う! 守ってくれなくていいよ! 私だって自分の身は自分で守れるんだから!」

 美優はナイフを構えた。

「馬鹿を言うな」

「馬鹿じゃないし! 悠人こそかっこつけないでよ!」

「議論している暇はない。俺の作戦でいくぞ」

 悠人は振り返り、美優に向かって微笑む。
 それは、かつて彼女が見たことのない儚い笑みだった。

「悠人……!」

 美優は悟った。
 悠人が自分の命を犠牲にしてまで彼女を守ろうとしていることに。

 もちろん戦う前から諦めているわけではない。
 敵の戦力次第では勝つ気でいる。
 それが無理でも血路を開いて撤退できるかもしれない。

 ただ、一つ確実に言えることがあった。
 どういう展開になるにしろ、自分は足手まといになる。
 美優はそう判断した。

「私、絶対に学校まで逃げ切るから」

「そうしてくれ」

 悠人が「行くぞ!」と駆け出す。
 ――が、その時だった。

 突如、全方位から無数の矢が飛んできたのだ。
 木々の間を通り抜けて迫ってくる。

「「「ケケー…………ッ」」」

 矢は的確にレッドキャップの頭を捉えた。
 一本すら外れることなく、完全に後頭部を射抜いている。

 それによって判明した。
 放たれた矢の数がレッドキャップの数と同じだと。

「ウソ!? 一瞬!? 悠人すごすぎない!?」

「いや、今のは俺じゃないよ。明らかに別の場所から飛んできたろ」

「じゃあ……」

 愕然とする二人。

「そこの二人、無事か?」

 森の奥から女性が現れた。
 肩より少し長い銀髪で、メデューサを凌駕する美貌の持ち主だ。
 外見からは20代半ばないし後半といった印象を受ける。
 革の胸当てを装備しているものの腹部は露出していた。
 下は短めのスカートで、すらりとした細い太ももが見えている。
 手には木の弓を持っていて、緑のマントを纏っていた。

 しかし、最も悠人の目を引いたのは耳だ。
 明らかに人間とは違う尖った耳をしていた。
 エルフである。

「あんたは……?」

 困惑気味に尋ねる悠人。
 その間にも森の奥からぞろぞろとエルフが出てくる。
 男は一人もおらず、全員が女だった。
 それも美人ばかりだ。

「我々はこの辺を縄張りにしているエルフ族だ。そちらは見たところ人間のようだが?」

 答えたのは最初に声を掛けてきたエルフ。
 一人だけマントを装備していることから、彼女がリーダーだと分かる。

「…………」

 悠人は何も言わず、警戒を維持したまま考える。

(こいつらもメデューサと同じで敵かもしれない。だが、弓の腕は明らかに達人級だ。ここで攻撃的な態度をとるのは危険だな。かといって言いなりになっても安全とは限らない。どうにか美優だけでも……)

 あれこれ考えていると、エルフのリーダーが口を開いた。

「メデューサにやられたのか」

 石化した葵を見るエルフ。
 それから、彼女はこう続けた。

「よければ治そうか?」

「え、治せるの!?」

 美優が食いつく。

「もちろん。石化の呪いは強力だが、我々エルフにはそれを解く技術がある。だからそう警戒しないでもらえるか?」

 エルフは悠人を見た。

「魔物から助けてもらったのはありがたいが、少し前にメデューサのだまし討ちを受けたものでな。悪いがそう易々とは信じられない」

「なるほど。だったらこれならどうだ?」

 エルフは弓を捨てた。

「「「族長!?」」」

 他のエルフが驚いている。

「お前たちも武装を解除しろ」

「わ、分かりました……」

 他のエルフも弓を捨てる。

「これでもまだ不十分だというのなら、腰に差しているナイフを私の首に当てるといいだろう。怪しいと思ったらすぐ殺せるように」

 そこまでされると、さすがの悠人も警戒を解いた。

「いや、いい。大丈夫だ。信じよう」

 悠人は武器を下ろした。

「助かる。望むなら今すぐに石化を解いてこよう」

「いいのか?」

「それで関係が深まるなら安いものだ。もちろんお礼など求めぬ。こちらの善意によって無償で治療させてもらう」

 おー、と感動する美優。
 一方、悠人は怪訝そうに眉をひそめた。

「あまりにも親切過ぎないか? 人間の言葉に『タダより高いものはない』というものがある。代償を求められないと不安になるのだが。現に先ほど、メデューサに一杯食わされたわけだしな」

「我々は歴史的に人間とは持ちつ持たれつの友好関係を築いていた。今回の協力もその一環だと思ってもらえればいい。もっとも、そなたたちは別の世界から来た人間のようだが」

「俺たちの事情に詳しいようだな」

「というか、この世界にも人間がいるんだ!?」

「メデューサも人間に反応していただろ」と苦笑いの悠人。

「そういえばそうだった!」

 美優は自分の額をペシッと叩く。
 やり取りを見ていたエルフが、美優に向かって答えた。

「いる……ではなく、いた。この世界の人類は数百年前に滅亡した」

「ええええ!」

「だから、今この場にいるそなたらは、別の世界からやってきた存在であると考えるのが妥当だ。そちらの事情に詳しいわけではないが、この世界の歴史に基づいて考えればそうなる」

 悠人は「なるほど」と納得。

「もっと話したいとは思うが、ここは危険だ。我々は結界の中に戻らせてもらう」

「結界って?」

「こことは隔絶された我々だけの安全な場所だ。普段はそこに引きこもって活動している。弓以外の戦闘力に乏しいのでな。こうして外に出るのは食料を調達する時くらいなもので、それが済んだら一秒でも早く結界に戻ることにしている」

 族長が話していると、他のエルフが葵の石造を囲んだ。
 数人がかりで持ち上げる。

「呪いの解除はすぐに済む。終わったら戻ってくるから、しばらく待機してもらえるか?」

「分かりました! よろしくお願いします!」

 深々と頭を下げる美優。
 一方、悠人は「それはできない」と首を振った。

「リスクが高すぎる。邪魔はしないから俺も同行させてほしい」

「結界の中に入りたいと申すか」

「そうだ」

 悠人は断られたら引き下がるつもりでいた。
 自分たちの力だけでは、葵の石化を解くことはできない。
 そもそも、葵は死んだものだとばかり思っていた。
 なので、石化を解いてもらえるならそれを優先したい。
 同行を申し出たのはダメで元々という考えからだ。

「分かった。許可しよう」

「「「族長!?」」」

 他のエルフが驚くものの、族長のエルフは気にせず話を続ける。

「ただし、同行するなら〈隷属の首輪〉を付けてもらうがかまわないか?」

「それをつけるとどうなる?」

「結界の中でエルフ族に害する行動をとろうとしたら即座に死ぬ。そなたの言葉通り邪魔をしないのであれば何のマイナスにもならないものだ。こちらも可能な限りリスクは避けたいものでな」

「問題ない。その首輪を付けてくれ」

「悠人が行くなら私も行く!」

「なら二人に首輪を付けよう」

 族長は悠人に近づき、右手の人差し指と中指で彼の首をなぞった。
 その指がぐるりと一周すると、悠人の首に光の首輪が現れた。

「それが隷属の首輪だ」

 美優の首にも隷属の首輪が装着される。

「それでは我々の里に案内しよう」

「よろしくお願いします! あ、私のことは美優って呼んで下さいねー!」

 その言葉によって、悠人と族長は自己紹介がまだだったことに気づく。

「俺のことは悠人で」

「私はシエラだ。今さらだが、エルフ族の族長をしている」

「族長のシエラか。了解。改めてよろしく」

「こちらこそ」

 シエラに案内されて、二人は森の奥に消えていった。
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