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016 二日目の朝、工房にて

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 夜、悠人と美優がセックスに耽っている頃――。

 多くの生徒は不安に駆られていた。
 寝ている間に魔物が学校を襲撃してきたらどうしよう、と。
 このままずっとこの世界で過ごすことになるのだろうか、と。
 辛うじて耐えられたのは、まだ一日目だからだ。

 悠人や美優のいなかった日中の集会は酷い有様だった。
 下手すれば暴動に発展しかねない程のパニックが広がっていた。
 教師たちは必死になって「すぐに帰れるから落ち着いて」となだめた。

 だが、このまま帰れない日が続けばどうなるか。
 結果は火を見るより明らかだった。

 ◇

 翌朝、目を覚ました悠人は驚いた。

「やべ、服を着てねぇ!」

 そう、裸だったのだ。
 マットの上で大の字に寝ていた。
 隣には同じく裸の美優が眠っている。

 下半身に目を向けると、ペニスが勃起していた。
 打ち上げ前のロケットの如く天に向いている。
 俗に「朝立ち」と呼ばれる現象だ。

「起きろ美優、まずいぞ! 俺たちは裸で寝ちまったようだ!」

「もうちょっと寝させてよぉ……むにゃむにゃ……」

 美優は悠人の右半身にしがみついて離れない。

「他の奴等が体育倉庫に来ても知らないぞ。裸を見せたいなら好きにしろ!」

「ほぇ? 裸を見せるぅ?」

 美優の目が薄らと開く。
 頭は全く働かないが、状況を理解することはできた。

「わわっ! 裸じゃん! 私ら!」

「分かったらさっさと離れて服を着ろ」

「だね!」

 二人は大慌てで立ち上がり、そこらに散乱する服を拾った。

「ヤりまくったせいで体がベトついているな」

「だねぇ……」

 話しながら服を着る二人。
 それが済んで「ふぅ」と息を吐いたところで――。

「グォオオオオオオオオオオオオ!」

 外から咆哮が聞こえてきた。

「なんだ!?」

 天井を見上げる悠人。
 声は空から聞こえてきたように感じた。

「倉庫の中にまで響くほどだから相当だよ今の!」

「それで昨夜は遠慮なく喘いでいたわけか」

「そうそう! 倉庫でどれだけ騒いでも体育館にいないと聞こえないから心ゆくまで声を出せるの……ってそうじゃなくて! やばいってことだよ!」

「防壁があるから大丈夫だと思うが、念のため様子を見に行こう」

 二人は駆け足で体育館を出た。
 本館に向かって伸びる連絡通路からそーっと空を窺う。

「あれって……もしかして!?」

「おいおい、あんなのまでいるのかよ」

 上空には赤いドラゴンがいた。
 半透明の青い壁――防壁の向こう側を滑るように飛んでいる。
 遠いから小さく見えるが、距離を考慮すると結構な大きさに違いない。

「分かってはいたけど、本当に異世界なんだね……!」

「さすがにアイツには勝てる気がしねぇな」

 悠人はドラゴンが飛び去るのを眺めていた。

 ◇

 顔を洗った二人は、朝食の調達を行うことにした。
 夜明けまでヤりまくっていたためお腹が空いて仕方ない。
 食堂の利用が禁じられているため、外に出る必要があった。

 そのためには武器が必要だ。
 いつも拝借してばかりでは悪いため自作することにした。

 そんなわけで、二人は工房にやってきた。

「すごいな。高校の一施設とは思えないほど本格的だ」

「でしょー! ウチの学校、実は物作り系の部活も強いんだよ。なんかの大会で準優勝になったこともある!」

「なんかの大会ってなんだ……」

 と、苦笑いで工房内を見回す悠人。
 携帯型の電動工具から設置型の大型機器まで何でもござれだ。
 果てには立派な炉まで備えていて、小さな町工場より豪華だった。

「それより武器を作ろうよ! 機械はある! 材料も揃っている! その気になれば刀だって作れるはず! この世界じゃ銃刀法違反も関係ない!」

「たしかにそうだけど、今回は弓矢とナイフだけでいいだろう。刀とかそういう本格的な武器は、教師か誰か専門的な知識を有している奴に任せたほうがいい。時間だってかかるしな」

「私は分からないので任せる!」

「まずは弓矢からだ。美優は弓を扱えるか?」

「もちろん無理!」

「なら俺の分だけでいいな」

 適当な木材を成形して弓の形にする。

「この木を切る機械はバンドソーって言うんだ」

「へぇ! じゃあ、この道具は? これも木を切るやつっぽいけど」

「それはハンドソーだ」

「バンドソーにハンドソー!? さすがにウソでしょー!」

「マジだって」

 話しながらも作業は順調に進む。
 微調整してフィット感を整えたたら仕上げだ。
 弦を張り、サンドペーパーで本体を研磨し、ワックスを塗る。

「なんでワックスを塗るの?」

「一番の理由は耐水性の向上だ。木材は水に弱いからな」

「なるほど!」

 あっという間に弓が完成した。
 次は矢の製作だ。

「矢は最初の一本だけ俺が作るから、そのあとは美優が担当な」

「えー! 私、作り方なんか分からないよ?」

「大丈夫。美優がポンコツであることを想定して、この工房には便利でハイテクな機械が用意されている」

 悠人は「あれだ」と、工房の奥にある機械を指した。
 業務用の高性能3Dプリンタだ。

「おー! 私、授業で3Dプリンタを使ったことあるよ! みんなでアクセサリーを設計して作ったの!」

「へぇ」

「反応薄ッ!」

「残念ながら美優に頼みたいのは設計じゃない。設計やフィラメント選びは俺がするから、美優は必要に応じてフィラメントの交換をしてくれたらそれでいい」

「なんか簡単そう! ところでフィラメントってなに?」

「3Dプリンタにおけるインクみたいなものだ。普通のプリンタと違い、3Dプリンタではグルグル巻かれた細い糸みたいな物を使う。そのグルグルがフィラメントだ」

「要するにインクみたいなものね!」

「…………」

 悠人は無視して3Dプリンタに向かう。

「無視かよッ!」とツッコミを入れつつ美優が続く。

「矢のデザインをするからちょっと待ってな」

 悠人は3Dプリンタの手前にあるパソコンを操作した。
 慣れた手つきで設計図を作っていく。

「ほんと悠人って何でもできるよねー」

「おかげで親に捨てられても食い扶持には困らないぜ」

「いいじゃん! 自分の力で生きていけるならそれで! 前を向こう!」

「両親と仲がいい奴に言われてもな」

 笑いながら、悠人はフィラメントの選択を行う。

「お、UTFがあるじゃん。分かってるなこの学校」

「UTFって?」

Ultraウルトラ Timberティンバー Flexフレツクスの略称だ。今年出たばかりのフィラメントでな、名前から分かる通り木材に近い性質を持っている。高性能で安いから木造住宅に革命を起こすって言われているよ」

「おー! なんかすごそう! ウルトラだし!」

 設計とフィラメントの選択が終わった。
 悠人は「プリント」と書かれたボタンをクリックする。
 3Dプリンタがおもむろに動き出し、彼のデザインした矢を作っていく。
 ものの数十秒で一本目が仕上がった。

「完璧だな」

 矢を持ち上げて微笑む悠人。
 見た目はやじりから矢羽根やばねまで木で作られた矢だ。
 質感も限りなく木に近い。

「サイズも問題ないし、あとは使い心地だけだな」

 悠人はその場で矢を放った。
 美優が「ちょ!?」と驚いているが気にしない。
 矢は彼の思い描いた通りの軌道で飛んだ。

「よし、使い勝手も完璧だ」

「おー!」

「この矢を量産するから、フィラメントの交換が必要になった時だけ頼む」

「了解! 悠人はナイフを作るの?」

「おう。ナイフは美優もいるよな?」

「もちろん! 素手じゃこの世界は生きていけないってばよ!」

「なんだその口調」

 悠人は工房内を移動してカスタムナイフの製造に取りかかる。
 ナイフは「ストック&リムーバル」という製法で作ることにした。
 削り出した鋼材を研いで焼き入れするだけというお手軽なものだ。
 焼き入れ作業が自宅だと難しいけれど、この工房なら問題ない。

「結局、私の出番がないまま終わったよー!」

 悠人が作業をしていると美優がやってきた。
 プリントされた矢の入った革張りの筒を悠人に見せる。

「その矢筒は?」

「私が作った! 正確には3Dプリンタが作った!」

「ということは自分で設計したわけか」

「いんや! それはAIがやってくれた! 私はボタンを押しただけ!」

「なるほど、どうりで完璧なクオリティに仕上がっているわけか」

「私もやるもんでしょー!」

「ふっ、クリックしただけのくせに誇らしげだな」

 そんなこんなでカスタムナイフが完成した。

「美優、ナイフ用のホルスターは?」

「ここに!」

「さすがはAIだ。これまた完璧だな」

「指示したのは私だから!」

「やれやれ、手柄の主張が激しい女だ」

 二人はホルスターを腰に装着し、そこにナイフを差した。

「誰にも自慢できないのが悲しいね、弓矢もナイフもいい感じなのに」

「仕方ないさ。いま俺たちと話すのは得策じゃない」

「だからって逃げなくてもいいのに!」

 二人が工房に来た時、中には複数の生徒と教師がいた。
 魔物と戦うための武器を作ろうとしていたのだ。

 しかし二人の姿を見た途端、そそくさと逃げていった。
 別に彼らのことが嫌いというわけではない。

 東谷に目を付けられたくないからだ
 悠人が東谷を返り討ちにした件は、昨夜の内に広まっていた。

「皆に悪意がないのは分かっているし、別に目くじらを立てることでもないさ。それより朝食の調達に行こう」

「さんせーい! 武器を新調したし魔物との戦いが楽しみだねー!」

 一夜経て、敵の呼び方が「化け物」から「魔物」に変わっていた。

「楽しみとか言うけど戦うのは俺だぞ」

「私だっていざとなれば戦うし!」

「どうだかな」

 二人は笑いながら工房を出ようとする。
 その時、工房の扉が開いてある人物が入ってきた。

「よかったー、間に合った。もう出発しちゃったかと思ったよー」

 家庭科部の部長こと葵だ。
 トンデモサイズの胸がプルンプルン揺れていた。
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