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010 家庭科部の部長

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「えーっと、どちらさんですか?」

 首を傾げる美優。
 問われた巨乳の女子はニコッと微笑んだ。

「私は三年の宮藤葵くどうあおい。あなたたちが食べている料理の献立を考えた者よ」

 葵はエプロンを外して悠人の隣に座った。
 存在感抜群のおっぱいがテーブルの上に乗る。
 男子は当然として女子も見ていた。

「あ、料理の感想ですか! 美味しいですよー! 特に味噌汁! 野菜の甘味が絶妙です!」

 美優は「ほら!」と空になったお椀を見せる。
 葵は「あらあら」と口に手を当てて笑った。

「気に入ってもらえてよかったわ。でも用件はそのことじゃないの」

「へっ?」

 葵の視線が悠人に向いた。

「君、家庭科室の包丁を盗まなかった?」

 その発言で悠人は思い出した。
 どうして葵の顔に見覚えがあったのか。
 家庭科室を出た時にぶつかった相手が彼女だったのだ。

「もちろん盗っていない。ウソと盗みには縁の無い人生だ」

 大ウソである。
 美優は「あちゃー」と顔に手を当てた。

「本当に?」

「ああ、本当さ。どうして俺を疑うんだ?」

「だって君が家庭科室から出て行く直前まであった私の包丁が消えていたのだもの。そしてそれが、どういうわけか少し前に戻っていた」

「戻っていたなら問題ないんじゃ?」

「そうだけど、自分の物を勝手に使われるのはいい気がしないでしょ?」

「たしかに」

 悠人は罪を認めて謝ろうかと思った。
 しかし、それであればとぼける前に認めるべきだ。
 ウソをついた以上は最後まで貫きたい。
 結果、彼は幾ばくかの罪悪感を抱えることに決めた。

「本当に盗んでいないんだよね?」

 葵が悠人の顔を覗き込む。

 悠人は目を逸らし、チラリと美優を見る。

 美優はバツの悪そうな顔をしていた。

「ああ、盗んでいない」

「それが本当なら私の目を見てそう言ってもらえる?」

「分かった――俺は盗んでいない」

 悠人は葵の目を見つめながら言った。

「なるほど、疑ってごめんね」

「気にしないで。人は間違う生き物だ。俺もよく間違う」

「ふふ、そうね」

「疑惑も晴れたことだし、よかったら葵先輩も一緒に食べませんか?」

 美優が提案すると、葵は「ありがとう」と笑みを浮かべた。

「お言葉に甘えてご一緒させてもらうね」

 葵は手を合わせて「いただきます」と呟き、食事を開始した。
 背筋をピンッと伸ばした状態でお椀を持って味噌汁を飲む。
 なんとも品がある。

「画になるなぁ……」

 思わず見とれてしまう美優。

「うひょお……」

 悠人も葵のおっぱいに見とれていた。

「んふぅ、美味しい。今日の味噌汁は大成功ね」

 葵は満足気に頷いた。
 それから、「そういえば……」と悠人に話しかける。

「君は転校生なんだよね?」

「そうだよ。よく知っているな」

「他の子らが話題にしていたからね」

「俺のことを? なんで? 美優を穢したからか?」

「穢した?」

「ああ、実は外にある小屋で――」

「やめい! なんてこと言い出すのあんた!」

 顔を赤くして話を遮る美優。
 悠人は「ふっ」と笑い、葵は首を傾げた。

「よく分からないけど、美優さんのことじゃないわ。門の前にある化け物の首が理由。あれは君が倒したんでしょ?」

「あー、そのことか」

 サイクロプスの件を広められる者は四人しかいない。
 一人は美優で、残り三人は双頭のライオンに襲われていた三年の男子たちだ。
 後者の三人組が話したことで広まったのだろう。

「すごいね。どうやって倒したの?」

「それは……」

 盗んだ包丁で、とは言えない。
 そこで悠人は、ウソにウソを上塗りしようとした。
 しかし、その時――。

「部長! 味のチェックお願いしまーす!」

 厨房にいる女子生徒が大きな声で言った。
 葵に向かって手を振っている。

「ごめん、呼ばれたから行かなくちゃ」

 葵は席を立った。
 エプロンを掛けてトレーを持つ。

「葵先輩って家庭科部の部長なんですねー!」と美優。

「そうなの。そういう柄じゃないのにね」

 クスリと笑う葵。

「じゃあね、二人とも。それと君、今度から包丁を使いたい時は言ってね。用途にもよるけど、言ってくれたら喜んで貸すから」

「「えっ」」

「じゃあ、またね」

 葵はウインクして去っていった。

「……バレていたか」

 悠人は苦笑いで後頭部を掻く。

「それなのに怒らず合わせてくれていたなんて大人だよねー」

「胸もすごかったな」

「私もああいう女性になりたいなー」

「それに胸もすごかったな」

 美優は呆れ顔で笑い、そしてこう言った。

「それに胸もすごかった!」

 ◇

 食事のあとはシャワータイムだ。
 残念ながら学校に大浴場は存在しないが、代わりにシャワー室がある。
 それも数カ所に設けられていた。
 水泳の授業や運動関係の部活で使うためだ。

 当然のことながら、シャワー室の使用は性別ごとに分けられる。
 ここまで美優とニコイチだった悠人は、一人で行動することになった。
 しかし何の問題もない。

「本当かよー? そんなあっさり倒せるもん?」

「ちょっと盛ってない?」

「でも俺、先輩から聞いたぜ! すげー強いって!」

「俺も聞いた! ライオンも倒したんだろ? やべー!」

 悠人は名前も知らない同学年の男子たちと話していた。
 いや、話すというより質問責めにあっている。
 モンスターとの戦闘についてあれこれ訊かれていた。

「なぁ、悠人って呼んでもいいか?」

「別にかまわないが」

「オッケー! じゃあ悠人、教室に戻ったら猿渡さわたりのゲームに挑戦してくれよ! お前の強さが本物なら初のクリアが見られるかもしらん!」

「ゲーム? ていうか猿渡って誰だ?」

 悠人を囲んでいる男子の一人が「俺だ!」と手を挙げる。
 少しシャレたボウズで、彼も悠人と同じ2年1組だ。

「で、ゲームって?」

「ゲームといってもプレステとかじゃないぜ。俺たちは殴ら――」

 男子が鼻息を荒くしながら説明を始めるのだが。

「ちょっといいか?」

 シャワー室を出てすぐの所にいる男が遮った。

 三年の東谷だ。
 今回は二人の取り巻きも一緒である。

「あ、東谷先輩、チッス……」

 ウキウキだった男子の顔が曇る。

「そこの二年に用があんだけどいいか?」

 悠人のことだ。

「あ、はい、もちろんっす」

 悠人を囲んでいた二年生たちが逃げていく。
 その際、全員が東谷に頭を下げていた。

「……で、俺に何の用?」

「ちょっと話があんだよ。ツラ貸してもらうぞ」

「拒否権はないって感じだな」

「よく分かっているじゃねぇか。ついてきな」

 東谷たちが半ば強制的に悠人を連れていった。
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