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025 お風呂作り

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 スノウが仲間になったことで夜が静かになった。
 純白の巨大オオカミは、間違いなく島南部の支配者だ。
 他の獣はビビッて近づきやしない。

 しかし、女性陣は複雑な様子。
 マッサージを要求できなくなったからだ。

「ハヤト、私ね、なんだか肩が凝って辛い」

「私は狩りのし過ぎで全身がきついでーす!」

「ハヤト君、私はおっぱいが重くてしんどい!」

「私は子宮が疼いている!」

 意味不明な理由でマッサージを要求してくる。
 寝ようとしても寝させてもらえない。

「ああ、もう、分かったよ! 気持ちよくすりゃいいんだろ!」

 結局、俺は観念して彼女らに屈した。
 ヘトヘトになりながら四人の女に極楽を与える。

 一流のヤクザは楽して稼ぐもの。
 なので俺は二流、いや、女に利用されているから三流だ。

 ◇

 5日目――。

 朝食後、俺は風呂を作ることにした。
 といっても、どんな風呂をどこに作るかは考え中だ。
 家の前を右往左往しながら頭を働かせる。

「ハヤト、ちょっといい?」

 モミジは竹細工に使う包丁を研いでいた。
 表面のツルツルした硬い石に刃をスリスリ。
 硬さの異なる天然砥石を複数用意して使い分けている。
 かなり本格的だ。

「どうした?」

「この拠点の場所、他の人には内緒って言ってたじゃん」

「誰かに教えたいのか?」

「そーそー、いいかな?」

「かまわないよ」

 大して考えずに答えた。
 スノウがいるから多少のことは問題ない。

「ありがとー!」

 モミジは作業を止めてスマホをポチポチ。
 チャットでこの場所の座標を送っているのだろう。

(それよりも風呂だ)

 風呂の問題は二つある。
 一つは肝心の浴槽をどうやって作るか。
 これについては多少の知識があるので大丈夫だ。

 頭を抱えているのは二つ目。
 作った浴槽を水を張るにはどうすればいいか。

「スノウ、お前、穴掘りは得意か?」

「ワォーン!」

「そういや巣穴を掘っていたな」

 仲間になるまで、スノウは木の下で過ごしていた。
 自分で掘った巨大な穴が寝床だったのだ。

「よし、力業でいくか。芸はないけどまぁいいだろう」

 風呂のイメージが固まった。

「誰か一人、俺のアシスタントをしてくれ」

 この場にはチナツ以外の三人がいる。

「ごめんハヤト君、私は矢を作るからパスで!」

「私も今から職人魂を爆発させるから無理!」

 ユキノとモミジに断られる。

「なら私が付き合うよ」

「サンキューサツキ、じゃあ川に行こう。スノウに乗っていこうぜ」

「乗っていいの?」

「大丈夫だよな? スノウ」

「ワォーン!」

 大丈夫らしい。

「前と後ろ、どっちがいい?」

「じゃあ前で」

「オーケー」

 サツキに手を貸し、俺の前に座らせる。

「ちょっとー! スノウに乗れるなら言ってよー!」

「残念だったね、モミジ」

 ふふ、と小さく笑うサツキ。

「スノウ、俺たちが吹っ飛ばない程度に走れ!」

「ワォーン!」

 ◇

 川に着いた。
 すぐさま作業開始だ。

「スノウ、あとは頼むぞ」

「ワンッ!」

 砂利がひしめく川辺を掘らせる。
 その穴に浴槽をぶち込む考えだ。
 こうすれば川の水を簡単に引っ張れる。

「私は何をすればいい?」

「石を集めてほしい。モミジが包丁を研ぐのに使っているような平べったいやつだ。できるだけ薄いほうがいい」

「薄くて平べったい石ね。硬さは?」

「気にしない」

「了解」

 サツキが付近の石を入念にチェックしていく。
 顔が美人系なのも相まって、髪を掻き上げる姿が様になっていた。

 俺は近くの木の樹皮を剥いていく。
 これは浴槽の側面として使う予定だ。
 湯船を土から守るのに役だってくれるはず。

「スノウ、浴槽の穴はそのくらいでいい」

 巨大オオカミの犬かきをもってすれば一瞬だった。
 あっという間に皆で一緒に入れるサイズの穴が完成する。

「次はここにも穴を掘ってくれ」

「ワンッ!」

 浴槽から目と鼻の先に新たな穴を掘らせる。
 今度の穴は先ほどよりも深い。

「スノウ、こっちからも掘るんだ」

「ワンッ!」

 従順な巨大オオカミが土木工事を一手に担う。
 新しい穴は浴槽に張った川の水を沸かすためのものだ。
 要するに大きめのかまどである。
 五右衛門風呂を参考にさせてもらった。

「お疲れスノウ、お前の作業は終わりだ」

 浴槽とかまどのシルエットは完成した。
 あとは浴槽の壁に樹皮を貼り付け、床を整えるだけだ。

「お待たせ。厚さが大事ぽいから、可能な限り同じ厚みの石を選んだよ」

 サツキの用意した石は、まさに俺の希望通りだった。
 平べったくて薄いので、火で炙れば簡単に熱くなるだろう。
 浴槽の床材に最適だ。

「素晴らしい。サツキは優秀だな」

「ありがと」

 サツキは照れ気味に笑った。

「あとは床に敷いた石の上に竹を置くだけだ」

 入浴時、床材の石はかまどの炎に熱されている。
 そのため、石の上に座ろうものなら火傷は免れない。
 竹は尻を守るためのクッションだ。

「面倒なのはここからよね。竹の調達で何往復もしないといけない」

「束ねてスノウに引っ張らせればすぐさ。コイツは力持ちだからな」

「ワォーン!」

 竹の調達は急がなくていい。
 それよりも優先するべきは風呂の蓋を作ることだ。
 蓋がないと雨風で簡単に汚れてしまう。

「そういえば蓋のことは考えていなかったな」

「あら、珍しい」

「どんな風呂にするかで頭がいっぱいだった」

「お疲れなんじゃない?」

「そりゃな」

「そりゃなって、何かあったの?」

 俺は「ふっ」と笑った。

「夜になると飢えた女どもがマッサージしろってうるさいんだ」

「ごめん、聞こえなかった」

 ニヤニヤ笑うサツキ。

「だから夜になると女どもが――」

「はい暴対法違反! ハヤト、逮捕!」

 サツキは俺の両手首を掴んでくっつけた。

「なんて横暴な、さすがは桜田門組だ」

「そうだよ、おかみに楯突いたら怖いんだからね」

 やれやれ、と苦笑い。

「ま、蓋なんざ何だっていいだろう。適当な木を束ねて敷けばいい」

 口にしたことを実際に試してみて、問題ないことを確認した。

「午前の作業はこんなところか。ちょうどいい時間だ、戻って昼飯にしよう」

 帰る前にもんどりを回収する。
 二つ設置しているが、どちらにも魚が掛かっていた。
 イワナにアユ、ニジマスにヤマメと粒揃いだ。
 下処理はこの場で済ませておく。

「そういやサツキって料理は苦手なんだよな?」

「うん、恥ずかしながら全然ダメ」

「じゃあ魚の下処理はどうなんだ?」

 鱗を取りながら話す。

「それはできるけど、モミジやチナツに比べて下手だよ」

「ユキノよりは上手い自信があるのか?」

「どうだろ? ユキノって料理できるのかな?」

「米を炊くのは上手かったからできそうだけどな」

「ユキノが未経験者でもない限り、私のほうが下手だよたぶん」

「そんなに酷いのか」

「うん、そんなに酷い。料理はダメなんだよね、私」

 よほど酷いようで、逆に興味が湧いた。
 いつかサツキに料理を作ってもらおう。

「ふぅ、作業終了だ」

「お見事でした!」

 話もそこそこに帰還する。
 スノウがいるので移動が快適だ。

「ハヤト、午後は何する予定? お風呂が完成したあと」

「スノウの機動力を生かして今までより遠くに足を運んでみたいな」

「私らはお留守番になるのかな」

「そうだな。皆には好き好きに行動してもらうとしよう」

 ウチの女性陣は優秀だ。
 指示するまでもなく自分で考えて作業をする。
 おかげでリーダーの俺は気楽なものだ。

「私は何をし……」

 拠点が見えたところでサツキの言葉が止まった。
 俺の表情も険しくなる。

「スノウ、止まれ。ここからは歩く」

 草原の手前でスノウから下りた。

「スノウ、お前はこの辺に伏せていろ。いざという時の切り札になる。俺たちの身に危険が及んだら助けに来い」

「ワンッ」

「行くぞ、サツキ」

「うん……!」

 草原に足を踏み入れ、そのまま拠点に向かう。
 近づくにつれて緊張感が高まっていく。

 拠点の近くに数十人の生徒がいるのだ。
 大半が三年だが、下級生も何人かいる。

 それらを束ねるリーダーは、近藤リュウジ。
 モミジの彼氏であり、俺に強い恨みを持つ男だ。

「あの女、やってくれたな」

 モミジは拠点の場所を誰かに教えると言っていた。
 その誰かがリュウジだったのだ。
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