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018 もんどり

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 拠点に戻ると、ちょうど昼ご飯の時間だった。

「やっぱりヤリサーだったかー! 私の勘、的中!」

「ちぇ、私の勘はハズレかぁ。いい人そうに見えたんだけどなぁ」

「ヤリサーだからって悪とは限らないけどな、ただ性に奔放なだけで」

「でもそんな人達とは思わなかったから残念!」

 食事をしながら、チナツら三人に報告した。
 ジュンの拠点や彼らがどういう集団なのかについて。
 三人の反応は予想通りだった。

「そんなわけだから今後は距離を置こうと思う」

「でも向こうから会いに来るんじゃない?」とサツキ。

「何回かは来るかもしれんが、嫌悪感を示せば去っていくだろう」

「だといいけど」

「そうじゃなかったら連中にとって悲しい結末が待っているだけさ」

「この島には暴対法がないから、ハヤトが怒ったら止められないぞー!」

 モミジが茶化す。
 チナツが「おーこわ!」と笑いながら便乗した。
 二人はふざけているが、話の内容は的を射ている。

 この島に暴対法は存在しない。
 そもそも法というもの自体が存在していない。
 そして、悪事を成敗する正義のヒーローも。

 俺たちは無法地帯の中で過ごしているのだ。
 日本と勝手が違うことを肝に銘じる必要があった。



 昼食が終わると午後の活動だ。
 俺は午前に続いてユキノと行動する。
 川へ行く予定だ。

 他のメンバーも変わりない。

 モミジは家に籠もって竹細工に励んでいる。
 えらく楽しんでいるので好きなようにさせておく。
 竹の調達も自分でしているから文句ない。

 チナツについても同様だ。
 彼女は弓矢を持って狩りに明け暮れている。
 ただ、矢の製作と倒した獲物の解体をしないのは問題だ。
 今は黙っておくが、いずれは自分でしてもらいたい。

 サツキは状況に応じて動いている。
 チナツに代わって矢を作ったり、獲物を解体したり。
 食料や燃料の調達も彼女がやってくれている。
 こういう臨機応変に動けるタイプの存在は大きい。
 性格を考慮すると誰よりも優秀だ。

「あー、もう、脚が悲鳴を上げているよー!」

「今日は歩いてばかりだもんな」

 俺とユキノは川に到着した。
 ここに来た理由は二つある。

 まずは一つ目。

「さて、どこに設置してやろうか」

 俺は手に持っているアイテムを見た。

 竹で作った魚用の罠〈もんどり〉だ。
 うけとも呼ばれる円錐形の罠で、入口は広いが奥は狭い。
 中は二重構造で、一度入った獲物は簡単に出られない仕組みだ。

「もんどりの中にエサを入れなくて大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。もちろんあったほうが効果は増すけど無くても平気だ。大事なのはエサの有無よりも設置場所さ」

 魚の習性上、設置場所が良ければエサに関係なく引っかかる。
 逆も然りだ。

「ユキノ、どの魚が食べたい?」

 川にはたくさんの魚が泳いでいた。
 何を狙うかによって設置場所が変わってくる。

「お魚のことはよく分からないけど……美味しいのがいい!」

「ならイワナにするか」

 定番の川魚だ。
 味には定評があるから問題ないだろう。

「ハヤト君、設置場所の良し悪しってどうやって判断するの?」

 川を睨んでいるとユキノが尋ねてきた。

「簡単な考え方としては、獲物が油断して休む場所に設置するのが良くて、そうじゃないところに設置するのが悪い」

「人間で喩えるなら家の中に罠を設置するのがいいってこと?」

「もっと具体的に言うと寝室やトイレだ。心安まる場所こそ適している」

「なるほどー! たしかにトイレは油断する! 分かりやすい! じゃあイワナの場合はどこになるの? お魚って常に動いているよね?」

「そうでもないぞ。よく見ればしばしば休んでいる」

 イワナは特に分かりやすい。
 警戒心が非常に強いので、ちょっとしたことで隠れる。

 魚の隠れ場所は基本的に岩の下だ。
 だが、どの岩でもいいかと言えばそれは違う。
 魚によって好きな形・嫌いな形が存在しているのだ。

「狙うのはあの岩だな」

 ある岩を指した。

「他の岩と同じに見えるけどどう違うの?」

「分からない」

「え、分からないの!?」

「俺にも同じに見えるからな。だが、イワナには違う風に見えているようだ。あの岩がいいのか、はたまた他の岩が嫌なのか。どちらなのかは分からないが、他の岩に隠れてもすぐあの岩へ移る」

「あー本当だ!」

 いよいよもんどりを設置する。

「これでお魚を食べられる!?」

「たぶんな。でも、明日になるぜ」

「いいよー! やったー!」

 次の作業に移ろう。
 グリズリーの毛皮の回収だ。

「よしよし、ちゃんと残っているな」

 樹皮と一緒に束ねた毛皮は、今も川に浸かっていた。
 清流を浴び続けて綺麗になったはずだ。

「ユキノ、一緒に運ぶぞ」

「了解……って、重ッ! 重いよぉハヤト君」

「水を含んでいるし、この大きさだからな」

 モミジが作った竹の担架に毛皮を敷き、ユキノと一緒に運ぶ。

「正直、担架を作ったと聞いた時はイカれてるんじゃないかと思ったものだが、どんな物にも使い道があるものだな」

「あはは、そだねー!」

 毛皮を持ち帰ったら燻煙鞣しを施す。
 先に準備しておいた台にセットしたらおしまいだ。
 燻煙をモクモクさせる作業はサツキに任せた。

「あ! ハヤト、戻ってたんだ!」

 家の中で作業中のモミジが顔を上げた。

「10分くらい前だけどな、戻ったの」

「気づかなかったよ!」

「すごい集中力だな」

「ふっふっふ! それよりチェックしてよ! 私も作ったの、魚のトラップ!」

 モミジは自作のもんどりを渡してきた。

「どれどれ」

 手に持って品質チェックを行う。

「いやぁ、驚いたよモミジ」

「なに? やっぱりダメだった? 見た目はそれっぽいと思うんだけど」

「逆だ。完璧過ぎる。流石だな」

「本当に!? いえーい! やっぱり私って才能あるぅ!」

「認めざるを得ないな。たしかに才能の塊だ」

「でしょー!」

「これで戦闘ができれば文句なしなんだがな」

「あ、そこはパスでお願いします!」

「ふっ」

 お世辞抜きでもみじのもんどりは完璧だった。
 まるで熟練の職人が作ったかのようなクオリティだ。

「せっかくだしそれも使ってよ! いい仕事すると思うよ!」

「じゃあ今から川に戻って設置してくる」

「はーい! 私は他の物を作ってるね!」

「ハヤト君、私も一緒に行く!」

「いいぜ」

 ということで、再びユキノと川へ向かった。
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