劣等冒険者の成り上がり無双~現代アイテムで世界を極める~

絢乃

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046 消化試合

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 ルシアスがキングを倒したことで戦況が大きく変わった。
 形勢逆転だ。

「グィイイイイイイイイン!」

 クイーンは身を翻し、ロイドPTから離れていく。
 キングが死んだため、その体は光を失っていた。

「逃げていくならそれでよし」

 ロイドは額の汗をぬぐって安堵の息を吐く。
 ところが、そこへ――。

「逃がすかよ!」

 覚醒したルシアスがやってきた。
 ルシアスが担いでいる武器はロケットランチャーではない。
 携帯式地対空ミサイル〈ステンガー〉だ。

「へへへ、ロケットランチャーより遥かにいい武器を見つけたぜ……!」

 照準をアースドラゴンクイーンに定めるルシアス。

「な、なにをしているんだ……?」

 ロイドが驚いた様子で眺める。
 彼のPTメンバーや他の冒険者も不思議そうな顔をしていた。

 ピピピピピッ……ピッ!

 ステンガーがロックオン完了の音を鳴らす。
 クイーンを完全に捉えた。

「食らえ! 追尾誘導ミサイル! 発射ァ!」

 ステンガーからミサイルが射出される。
 それは必死に逃げようとするクイーンに命中した。

 ドカーンッ!

 耳をつんざくような爆音が響き、クイーンが墜落する。
 しかし、まだ死んではおらず、辛うじて生きていた。

「信じられん……この距離からクイーンを……」

 愕然とするロイド。

「ロイドさん、驚いている場合じゃないだろ」

「え?」

「号令を頼むよ」

「ご、号令だと?」

「全軍突撃のさ。せっかくだからアイツも倒そうぜ」

 ルシアスが前方を指す。
 墜落したクイーンが地面に這いつくばっていた。

「キングと同じでクエスト攻略30回扱いなんだろ? アイツ。それに報酬の金も上乗せされると聞いた。最後にみんなでたこ殴りにして気持ち良く終わろう」

 覚醒したルシアスはテンションが高い。
「ケケケ」や「ククク」などという不気味な笑い声をこぼしている。

「そ、そうだな!」

 ロイドはルシアスに気圧されつつ号令を下す。

「この戦いに終止符を打つぞ! みんな、クイーンに突っ込めー!」

「「「うおおおおおおおおお!」」」

 ロイドたちは死にかけのクイーンに群がる。

 ルシアスとミオはそれを眺める。
 二人の仕事は一足先に終わっていた。

「お疲れ様ー」

 二人のもとへハルカがやってきた。
 彼女はルシアスの前に立つと、すかさず彼の頭を抱きしめる。
 ルシアスの顔がハルカのDカップの胸に押し付けられた。

「やっぱり君はすごいよ、ルシアス」

「うへへへ、それほどでも……あるかなぁ? ぐへへへ」

 ルシアスは鼻の下を伸ばして喜ぶ。
 ハルカの胸の弾力と甘い香りを顔面で堪能していた。

「むぅぅぅ!」

 ミオは頬を膨らませてルシアスの尻を睨みつける。
 後ろから蹴飛ばしてやろうかと考えていた。
 その視線に気づいたハルカは、何食わぬ顔でルシアスから離れる。
 ルシアスは「もう終わり?」と残念がったあと、真顔で言った。

「真面目に言うと、すごいのは俺じゃなくてコイツだけどな」

 そう言って彼が取り出したのはスマホだ。

「そういえば、それってなんなの? 武器を召喚してたけど」

 ハルカはスマホを見つめながら訊いた。

「これは……」

 ルシアスはどう答えようか悩んだ。
 スマートフォンといいます、と言ったとこで伝わらない。
 それに詳細を説明するのも面倒くさかった。
 だから、彼は「ふっ」と笑ってこう答える。

「これは落伍者に与えられた一発逆転の秘密兵器さ」

 ◇

 戦闘を終えた討伐隊の面々は、船に乗って人里へ帰還する。
 港町ポーテシアに到着すると、その足で街のギルドに向かった。

「クエストの攻略お疲れ様です。今回の功績によって、ルシアス様とミオ様の冒険者ランクがE級に昇格しました。おめでとうございます」

 受付嬢が淡々とした口調で言う。
 二人の周囲にいた討伐隊のメンバーたちがどっと沸いた。

「本当にF級だったんだな」

「史上最強のF級コンビだろ」

「今後は史上最強のE級コンビだな」

「まさかハルカちゃんのスペシャルがこれほどとはなぁ」

「ハルカちゃんも相当なのにそれ以上とはたまげたぜ」

「なにはともあれ昇格おめでとう!」

「何か困った事があったらいつでも頼ってくれよな」

「今回の恩は忘れないぜ! ヒーロー!」

 皆が口々に優しい言葉を贈る。
 ルシアスとミオは後頭部を掻きながら頭をペコペコ。
 こういうことに慣れていないので恥ずかしかった。
 それに、雲の上の存在ともいえる先輩方に認められて嬉しい。
 だが、いい気分を台無しにする問題が起きた。

「寄生でランクを上げたのかよ、落ちこぼれ野郎」

 フリッツが現れたのだ。

「寄生って……ルシアスたちのことか?」

「何を言っているんだ? あの子」

 討伐隊の面々が首を傾げる中、フリッツはルシアスに詰め寄る。

「俺たちより先にランクアップしたいからって名だたる方々に寄生するとか恥を知れ。それで俺に勝ったつもりかよ、ゴミ野郎」

 この発言に、討伐隊の面々はますます頭を混乱させた。

「この子、頭がおかしいのか?」

「さぁ? 見た感じ普通そうだけど」

 場が異様な雰囲気に包まれる。
 それを察知したフリッツPTのメンバーがフリッツを止めた。

「なんだか様子がおかしいし、他所に行こうぜ。先輩方に嫌われたらまずい」

 この発言を受けても、フリッツの怒りは収まらなかった。

「勝負しろよ、ルシアス」

「勝負?」

「今から1対1でF級の乱獲クエストを3つ受ける。対象はスライムゴブリン、スケルトンホース、ゾンビリザードだ。各クエストの制限時間は30分で、たくさん倒したほうの勝ちとする。で、先に二勝した方が勝者だ。お前が本当に寄生じゃないというなら、俺に勝つくらいワケないはずだ。違うか?」

「おいおい、ルシアスは今までアースドラゴンと」

 ロイドの言葉を、ルシアスが腕を伸ばして遮った。

「いいよ。そこまで言うなら受けて立とう」

「馬鹿め、先輩方と一緒に過ごしたことで勘違いしているな。お前は俺たちのPTから追放された落ちこぼれの無能だ。そのことを思い出させてやる」

「ああ、期待しているよ」

 ルシアスとフリッツは受付嬢と話し、F級のクエストを受注する。

「準備はいいか?」

「ああ、いつでも」

「なら勝負開始だ!」

 フリッツが合図と共に走り出す。

 ルシアスは「やれやれ」とため息をつきながらギルドを出た。
 フリッツと違い、彼はのんびり徒歩だ。

「ハルカちゃん、さっきルシアスに絡んでた子はどうなの?」

 ロイドが尋ねる。

「知らないなぁ。なんかルシアスのことを嫌ってるみたい」

「ルシアスほどの男を追放したってことは相当の実力者なのかな」

「そんな風には見えなかったけどなぁ」

 二人の会話を聞いていたフリッツPTの面々は「えっ」と驚く。
 彼らには、どうしてルシアスがこれほど評価されているのか分からなかった。
 この時は、まだ。
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