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039 異次元迷宮の塔 51階

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 51階にやってきたルシアスとミオは愕然とした。

 空は純白に染まっていて、地面はゴツゴツした灰色の岩肌。
 そこは今まで二人が体験したことのない異様な世界だった。

 しかし、彼らが驚いたのはそのことではない。
 前方約100メートルの距離に佇む最後の敵を見たからだ。

 それはドラゴンではなかった。
 人を蟻のように踏み潰す巨人や瘴気を放つ人食い植物でもない。

 その敵は――人。
 背丈は180センチ程度で、全身に赤黒い炎を纏っている。
 人の形をした炎というのが正しい表現になるだろう。

 その魔物の名は、イフリート。

 A級の中ボスだ。
 それもプラチナプテラと違い、戦闘能力を評価されてのA級である。
 世界各地にある火山のマグマに棲息している灼熱の魔人だ。

 普段であれば、イフリートは無害な敵と言える。
 好き好んでマグマの中に飛び込もうとする人間はいないから。
 人前に姿を現す時といえば、水浴び感覚で溶岩を浴びる時だけだ。

 しかし、ここでは違った。
 マグマや溶岩はなく、その場で仁王立ちしている。
 そして、ルシアスたちに気づくなり攻撃をしかけてきた。

「フンッ!」

 イフリートがルシアスたちに向かって腕を振る。
 するとどこからともなく溶岩の塊が現れ、ルシアスたちを襲う。

「やべっ」「おわっ」

 二人は慌てて横に跳ぶ。
 それほど速くないため、二人でも辛うじて回避できた。

「当たるとやべーぞ」

「横を通過しただけでもすごい熱さでしたよ」

「流石はラスボス、厄介だぜ」

 二人は左右に展開する。
 相手が単体の時は挟撃するのが彼らのスタイルだ。

「コイツ、攻撃するまでに時間がかかるタイプだ!」

 ルシアスが言う。
 その言葉通り、イフリートは攻撃するのに時間を要していた。
 正確には20秒に1回しか攻撃できない。

「それに動きませんよ!」

 ミオの発言も正解だ。
 イフリートはその場から一歩も動かない。

「よし、次は俺たちの番だ!」

「えいやーっ!」

 二人がアサルトライフルを連射した。
 走りながらの銃撃だが、問題なくイフリートを捉えている。

 しかし、ここで想定外の事態だ。
 イフリートには銃弾が通用しなかった。
 本体の温度が高すぎて銃弾が溶けてしまうのだ。

「まずいな、どれだけ撃っても意味ないぞ」

「困りましたね……」

 二人で計300発ほど撃ち込んだところで諦めた。

「車で轢きますか?」とミオ。

「それは流石に怖すぎる。相手の攻撃に車が耐えられるか分からないし、敵は見ての通り炎の魔人だ。車が爆発するかもしれん」

「そういえばDVDでも車は炎に弱かったですよね」

「そういうことだ」

 二人の戦術は基本的に二つしかない。
 アサルトライフルをドカドカ撃つか、車で轢くかだ。
 そのどちらも難しいとなれば、新たな手を考える必要があった。

「どうしましょ! どうしましょー!?」

 逃げ回りながら叫ぶミオ。
 アサルトライフルは重いので捨てた。

「待て、検索しているところだ」

 ルシアスは〈ショッピング〉で武器を探す。
 カテゴリを『武器』にして、フリーワードには『火に強い』を入力。

 それで検索してみるものの、出てくるのは防火装備ばかりだ。
 防火服や防火シールドなどなど。

「ええい! このクソ検索! カテゴリは武器だっつってんだろ!」

 ルシアスはカテゴリの指定を解除する。
 すると驚くことに、彼を笑顔にさせる物が見つかった。

「これだ!」

 ルシアスは叫ぶと同時に購入した。

「なんですかその赤いのー!」

 ミオが驚いている。
 ルシアスはニヤリと笑って答えた。

「消火器さ」

「消火器!?」

「よく分からないが火を消せるらしい」

「なんですとー! すごい武器じゃないですか!」

「いや、これは武器じゃない」

「えっ」

「スマホによると防災グッズのようだ。家が燃えた時に使うらしい」

「なんと!」

「だが今回の敵には通用するかもしらん!」

 ルシアスは消火器に記載されている説明をよく読んだ。
 その説明に従い、消火器の使用方法をマスターする。

「いくぞ! 炎野郎!」

 準備が完了したので突撃だ。
 溶岩の塊をするりと回避して、一気に距離を詰める。

「これでも食らえ!」

 至近距離から消火器を放つ。
 ノズルを敵に向けて、全力でレバーを握った。

 ブシュー!

 ピンク混じりの白い粉が噴射される。
 その粉は炎の魔人を襲った。

「グォオオオオ……!」

 イフリートが嫌がっている。
 攻撃モーションを中断し、両手を振り回す。

「ルシアス君!」

「ああ、効いているぞ! ミオ、お前も手伝え!」

 ルシアスは追加の消火器を購入し、ミオに渡す。

「消えちまえよ! 炎野郎!」

「おりゃりゃー!」

 二人の消火器攻撃が炸裂する。
 イフリートはひたすらに嫌がっていた。
 だが、しかし――。

「クソッ……しぶといな……」

「これ、本当に、倒せるんですか、ハァ、ハァ」

 どれだけ攻撃しても死ぬことはなかった。
 いつの間にやら地面には大量の消火器が転がっている。
 使い切って空になった物だ。

「この路線で問題ないが、どうやら殺傷能力がないようだ」

 それがルシアスの結論だった。

「ではどうすれば?」

 イフリートに消火器を噴射しながらミオが尋ねる。
 消火器を使い続けている限り安全なので、二人には余裕があった。

「もっと強烈なのを探そう。追加の消火器は足下においておくぞ」

「はい!」

 予備の消火器をミオの付近に配置してから、ルシアスは検索を始める。
 そして、消火器を超越するとんでもない代物を見つけた。
 液体窒素だ。

「これならいけるぜ! たぶん、きっと、おそらく!」

 ルシアスは直ちに購入する。
 両手でようやく持てる大きさの容器が現れた。
 中には液体窒素が大量に入っている。

「ミオ、コイツは危険だ! 合図したら離れろよ!」

「はい!」

 ルシアスがカウントダウンを始める。
 カウントが0になった時、彼は「今だ!」と叫んだ。

 ミオは消火器をその場に置いて後ろに跳ぶ。

「食らえぇええええええええ!」

 ルシアスは迷うことなく容器の中身をぶちまける。
 液体窒素がイフリートにかかった。

「グォオオオオオオオオオオオオオ!」

 これまでとは別種の悲鳴とも言える声を出すイフリート。

「どうだ!? これなら効いただろ! というか効いてくれ!」

「お願いします!」

 二人が強く祈る。あとは神頼みだ。
 液体窒素すら通用しなかったら撤退しかない。
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